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63年ぶりの記録確認を喜ぶ藤沢勇さん(79歳)を囲んで

今日、年金記録問題で少しだけ重い扉が開いた。藤沢勇さん(79歳)が戦前に炭鉱で働いた11カ月間の記録が63年ぶりによみがえり、支給漏れが認められたのだ。藤沢さんには確かな証拠があり、年金記録の個人からの申し立てを受け付ける第三者委員会にも審査を願い出ていたが、ラチがあかなかった。「旧台帳」の行方にこだわる私たちが、福島みずほ議員から社会保険庁に照会をかけて、ようやく「年金記録」の証明が認められるということになった。今日は、その経緯を書く。

参議院選挙を前にした7月5日、読売新聞にこんな記事が載った。

 東京都荒川区の藤沢勇さん(79)は、戦時中に徴用され、北海道の炭鉱で約1年間働いた。しかし、藤沢さんの厚生年金の記録には、この1年間が含まれていない。社会保険事務所で3回調べてもらったが、そのたびに「記録がない」と言われるばかり。炭鉱会社は今はなく、仕事仲間は各地からの寄せ集めだったため、連絡をとって勤務していたことを証言してもらうのも難しい。
 「国が強制的に働かせておいて、記録がないなんておかしい。地下深くに放り込まれ、食事も粗末で毎日下痢ばかり。あのつらい日々の分の年金を、何とか救済してほしい」と訴える。

私たちが旧台帳(厚生年金被保険者記録の昭和17年~32年までのもの)を追いかけてきたこともあって、藤沢勇さんのケースは「霧の中」にある年金記録管理の状況を掴むのにヒントになるのではないかと考えて、ツテをたどって8月に連絡をとり、9月13日に福島みずほ党首の議員会館の部屋でお会いした。もうすぐ80歳になるという藤沢勇さんは、背筋をピンと伸ばした老紳士だった。その時のメモを広げてみよう。

昭和19年11月1日から翌20年10月1日までの11カ月間、17歳の藤沢勇さんは北海道空知郡赤平町の住友鉱業株式会社赤平鉱業所で働いた。今、思い起こしても辛く苦しい地底での労働だったという。新聞記事にあるように年金を受給する年になって何度か社会保険事務所に照会を頼んだが「該当記録なし」と言い渡されてきたという。藤沢さんは、戦時中の徴用で北海道の炭鉱に送られた。

「群馬県館林の職業安定所の扱いでした。私たちは600人集められて、専用列車で北海道に向かいました。ノンストップで警察官の見張りまでいました。そして、北海道に着いてから、それぞれのところへ分かれていきました。赤平炭鉱に一緒に行ったのは40人ほどでした。寮に入って働きましたが、辛かったですよ。何かと言うとセルロイド製の物差しでビシッと叩かれました。まだ、兵隊の方がいいと志願して行った連中もいたぐらい、地獄でした」

その経験があるから、年金記録が出てこないことにこだわった。「金銭じゃない。ある炭鉱での労働を国に認めさせたい」という気持ちからだった。今年6月の年金騒動で「第三者委員会」が設置されると、藤沢さんはさっそく申し出ることにした。

藤沢さんには確かな証拠があった。炭鉱は閉山したが、住友鉱業の業務を継承してきた事業所から、この11カ月の期間に厚生年金保険に加入し、脱退した企業側の記録を確認して、またその写しを受け取っていたからだ。戦前の大企業がこうした厚生年金記録を現在に至るまできちんと保存していたことが藤沢さんに味方した。
ところが、すぐにでも返答があると思った第三者委員会からは、いつまでたっても返答がない。

私たちは藤沢さんに「委任状」を書いてもらうことにした。国会での論議とも大きく関わる問題なので、社会保険庁に照会して調査をするように求めたのだ。その回答が本日あったというわけだ。藤沢さんの記録は、北海道砂川社会保険事務所にも、社会保険オンラインシステムにも、旧台帳を保管しているはずのワンビシ・アーカイブにも、紙台帳及びマイクロフィルムでも存在していなかった。そこで、砂川社会保険事務所が、住友鉱業が保管してきた「年金記録」を正式に認めて、この期間はたしかに藤沢さんが働いていたことを確認したという決定を出した。

63年ぶりに藤沢さんの年金記録は生き返り、まずは5年間の支給漏れ分が支払われ、次に時効特例法の適用で残り15年分は手作業で計算されて追って支給されるという。藤沢さんは笑顔で「本当によかった」と喜んでくれた。そして、第三者委員会への申し立ては取り下げる手続きをとることにした。社会保険庁によると、第三者委員会でも藤沢さんのようなケースは初めて、という。ならば、どうして即断即決で今まで認められなかったのか不思議だが、10月30日(火)に年金流用禁止法案を審議する参議院厚生労働委員会て福島みずほ党首が舛添大臣とこんなやりとりをしている。

○福島みずほ君 藤沢勇さん、年金記録について御本人から委任状をもらって照会をいたしました。彼は戦争中に北海道の炭鉱に徴用されていて、その際の記録が失われていました。(中略) 旧台帳の確認は、このようなケースが示すように非常に重要である。確かに高齢かもしれないけれども、自分が非常につらい思いをして炭鉱で働いた、そのときに払ったんだけれども、ないと言われているから、やっぱりおかしいということで事務所に来られて、委任状を取って旧台帳を当たってもらったんですね。(中略)旧台帳が廃棄された経緯やその責任についてきちっと検証していただきたい。

○舛添厚生労働大臣 正に、今まで厚生労働省、社会保険庁、信用ならないということで、総務省の下に第三者委員会を置いて、違うところでやるんだということをやっていますから、そういうチェック・アンド・バランスも利くと思います。そして、旧台帳の、これは重要じゃないんでほっておくということではなくて、これは今おっしゃったような例をよく理解できましたし、今後、優先順位は先ほど言ったように、そうせざるを得ませんけれども、これはきちんと努力してやりたいと思います。

旧台帳問題の最初の扉が開いた。藤沢さんと一緒に徴用で働いてきた40人の仲間の年金記録はどうなったのかという疑問がわく。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』がこの藤沢さんのケースをしっかり追跡し、9月20日に放送している。まだネットで見ることが可能なので、5分の特集報道なのでぜひ御覧いただきたい。

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