TOP PAGE BLOG ENGLISH CONTACT




 最近、東京都青少年条例が大変なことになっているというメールの数が増えてきた。「児童ポルノ禁止法」と「表現規制」の問題を掘り下げて取材しているAさんから、『どこどこ日記』あての投稿をいただいた。読んでみると、東京都でこの議論をリードした学者が、私がアグネスチャン参考人に「宮沢りえの写真集は芸術的できれいじゃないか。それでも禁止するのですか」と言って、「15~6の写真、あなたはそんなに見たいんですか」「18歳まで待てないですか」とさとされて言葉を失った……などの捏造をしていたことも知った。
 反論出来ないところで、事実を歪めて言ってもいないことを捏造するなど卑怯千万だが、末尾に議事録を付けておくので、ぜひ照合いただきたい。まずは、Aさんの報告を聞くことにしよう。

児童ポルノ禁止法改正に先駆けて「都条例」で創作物規制

 東京都が青少年条例を強化して、性表現のある「非実在青少年」の登場するマンガ・アニメなどを「不健全」図書に指定し、国に先んじて児童ポルノの規制をはじめようとしている。昨年6月26日の衆議院法務委員会で児童ポルノ禁止法の改正案の審議が行われた際、「創作物規制」や「3号ポルノ」の定義などの問題点を指摘したにもかかわらず、自治体レベルでは先行して表現規制をしようという目論見のようだ。

 法務委員会では、自民・公明両党の推薦で、首都大学東京の前田雅英教授が参考人として出席し、「児童ポルノの単純所持の処罰化」を主張した。そのとき、「アメリカでの児童ポルノ摘発と共謀罪の関係」を保坂氏が質問したところ、FBIの駐日代表と付き合いのある前田教授は「アメリカの現場では、本当に児童ポルノに対して厳しい感覚を持っていて、徹底して調べる。その捜査官の人の話を伺ったことがあるんですが、そのためにはやはり共謀罪というのは有効なツールだと彼らが考えているということは容易に推測できるというふうに思っております」と答えていた(詳しくは、児童ポルノ法改正案の最新版「論点整理」。

 そして、東京都の青少年条例を改正するか否かを審議したのは、東京都青少年問題協議会(青少協)。先に登場した前田教授は、学識経験者で構成する青少協の専門部会長だ。その青少協では、東京都が先行して児童ポルノの単純所持規制を進め、国に法律の改正を迫る、児童ポルノではない創作物であるマンガ・アニメも「青少年の性表現」が描かれていたら「不健全」指定の対象にする、携帯電話のフィルタリングを義務づけ、親が認めても容易に解除できないようにする、問題のある親には東京都が指導・勧告する、といった内容の答申を出した。

 この東京都の青少協の議事録を確認すると、前田教授は、このような答申の策定をリードしていたことがわかる。学識経験者委員には、単純所持の処罰化を訴える団体の顧問弁護士(元警察官僚)も就任していて、ほとんど出来レースだ。

 前田教授が青少協で保坂氏の国会質問に触れている。法務委員会からほぼ2週間後、2009年7月9日に開かれた専門部会の議事録から抜粋する。

〇前田部会長 (中略)この間、国会で児童ポルノの議論をしたときに非常におもしろいことがあったんですね。

 子どもの人権人権と言う有名な議員さんが、児童ポルノといっても宮沢りえのヌード写真集は芸術できれいじゃないか、あなたはそれでも禁止するんですかと言って、その人がアグネス・チャンさんにケチョンケチョンにやられちゃうんですね。(中略)
 アグネス・チャンさんが、15~6の写真、そんなにあなた見たいんですか、これが何で芸術なんですか、芸術だと思う人はいいかもしれないけど、児童の全体の世界の流れの中で児童ポルノを考えるときに、あなた、18歳までなぜ待てないんですかと言われたときに、その人は言葉を失うんですね。

 国会での審議内容を批評したり、批判するのは重要なことだ。しかし、一方の当事者が法律(地方青少年問題協議会法)によって設置されている公の会議で、都合よく議論を曲解して報告するのはどうなのだろう。

 前田教授は、青少協の第8回専門部会でこんな意見も述べていた。

 「どう考えても、実在する人がいなければ、どんな漫画でも許されるというのはおかしいので、あと、それが175条のわいせつ物に当たらない限りは許されるというのは、皆さんかなりおかしいとは思っているので、そろそろ前に出なきゃいけないと思うんですが、出る以上は腰を据えていかないと、漫画の問題は非常に大変だと」

 「児童ポルノみたいなものがあるから幼児に対する虐待的なものが増えるのか、増えないのか、データが有るのか、無いのか、エビデンスを示せみたいな議論が必ずあるわけですね。(中略)

 あるところから先は水かけ論になってしまうんですが、最後は、法律の世界では常識で、こういうものがあったら増えるという人が多い感じがあれば法的に禁止するのは当然。そのときに統計データがなければ禁止できないというのはナンセンスだと思いますね」

 表現の自由は、営業の自由や経済の自由とは比較にならない憲法的な価値観だ。エビデンス(根拠)なく表現を規制してもいいというのは刑法学者の世界では常識らしいが、まったく理解できない。

そもそも青少協の専門委員には憲法学者は選任されていない。かつて、憲法研究者の奥平康弘氏(東大名誉教授)が東京都の青少協委員を務めていたことがあったものの、憲法にかかわる議論が成り立たないため、辞任せざるを得なくなったこともある。青少協が表現の自由を無視するがごとき態度を取ってきたのは、“伝統”と言っていい。

 こんな議論の末にできてきた答申を根拠に、東京都は青少年条例を変えようというのだから、大きな問題だ。改正案の問題点は、山口貴士弁護士のブログを読んでほしい。コンテンツ文化研究会のブログでも状況が報告されている。

 実は、青少協の事務局となっているのは、東京都の青少年・治安対策本部の青少年課であり、条例改正案を策定したのも青少年・治安対策本部だ。本部長や青少年課長は警察庁キャリアであり、警視庁を経由して、都庁に籍を置くかたちになっているという。取締機関が行政機関に浸食してきたかっこうだ。そのような部署に、今回の条例改正案のままに、権限を与えるのは危険きわまりない。

 事実関係は不確かだが、関係者によると、児童ポルノ法の改正で国会が動かないから、東京都で先回りしようと警察官僚が動き、また、インターネット規制絡みでは、業界を所管する総務省と、権限拡大を狙う警察庁の暗闘があるのではないかという。であるならば、まさに東京都の条例改正は不純な企みだ。

 条例改正案は、3月18日に都議会総務委員会で審議され、19日に採決されるという。残念ながら都議会に社民党の議員はいないものの、若手の民主党都議が改正反対で頑張っているそうだ。都議会民主党の執行部が国会での審議も考慮に入れて改正条例案の反対を決断し、生活者ネットや自治市民の福士敬子さん、共産党が反対すれば、条例改正は止められる。なんとか状況を変えられればと思うが、深刻な状況だ。

〔投稿終了〕

 冒頭の「国会議事録捏造問題」に戻る。今、衆議院のサイトで会議録を確認してみた。とてもじゃないが、前田教授が語るような内容はない。私の名誉のために、掲載しておく。

平成21年6月21日衆議院法務委員会会議録

○保坂委員  私もチェンマイ、チェンライの、タイの取材に行きました、議員になる前ですけれども。そこで、ビルマから売られてきた子供たちがひどい目に遭って、救出されている施設にも行きました。子供にもインタビューしたり、非常に悲しい、そしてこんな子供たちが、大変だという今の思いはよくわかります。

 そして、今やっていた議論ですが、恐らくちょっとずれがあるんだろうと思うんです。ずれというのは、具体的に伺いたいのは、アグネスさんも芸能界にいらっしゃって、例えば、宮沢りえさんとは限らず、十代でデビューされた歌手の方とか女優の方とかがグラビアになったり、中にはセミヌードとか、そういうことで写真集を出されたりということを、目の前にいらっしゃったと思うんですね。

 私は宮沢りえさんの「サンタフェ」を改めて確認してみましたけれども、これは児童ポルノとして単純所持で規制するようなものではないと私は判断します。その点をごちゃごちゃにして、かなり広く、これは全部、すべからく規制するんだよということでは、かえって理解が難しいんじゃないか。いわゆるアグネスさんが言ったように、児童を本当にひどい形で凌辱し、そして一生の汚点となるような、それがサイト上にずっと残ってということはよくわかります。その点、どういうふうに考えますか。

○アグネス・チャン参考人 グラビアアイドルは芸能界の中にもいっぱいいらっしゃいます。でも、法律ができてからは、やはり十八歳未満の写真はできるだけみんなは避けています。やはり十八歳未満は、高校卒業するまでは健康的に子供時代を過ごしてもらうという。

 芸能界の中でも、例えば写真家からすごく私は非難されるんですけれども、そういう活動をすると私たちは子供の裸が撮れなくなっちゃったんだよと言われるんです。そうしたら私は大体、十八歳まで待ったらどうですかと。私はそう思います。そんなに十八歳未満の子供たちの裸を見る必要もなければ、水着の写真を見る必要もないと思う。十八歳になってもとてもきれいです。それは言い切れます。きれいな子はずっときれいです。その子をみんなに見せたいと。それが十八歳あるいは成人になってから見せればいいんです。決してまだ未熟な子供の裸を見るというのは、そんなに必要ないと私は思っているんです。でも、子供には子供のころは必要なんです。

 「サンタフェ」に関しては、実は私、新聞で、広告とかしか見たことがないんですね。だから判断がつかないんですけれども、でも、例えば、本当に法律が成立して、そして十八歳未満のそういうようなものは持ってはいけないんだよと、そうしたら、私は、個人の判断で、みんな処分するか残すのかと自分で考えていただいてもいいと思うんですね。

 決して大人は子供の裸を見なくては命を縮めるとかそういうことはないと思うんですね。もう少し待ってください、十八歳まで。ぜひお願いします。

○保坂委員 ということは、「サンタフェ」は見てはいないけれども、あるいは十八歳未満であれば、「サンタフェ」だけじゃないですけれども、児童ポルノ三号の要件に当たってしまうということだと思いますね。今、そういうふうに受けとめました。だから、そういったものは今後撮影されても発売されてもいけないという立場をお話しされたと思います。(アグネス・チャン参考人「今発売されていないんです、もうだめなんです、九九年から」と呼ぶ)いや、だから、発売されてはいけないという話なんでしょう。

〔引用終了〕

 私は、議論が通じないなと感じて、別の参考人に対しての質問に移ったのだ。宮沢りえの写真集は「単純所持で規制する対象とするべきでない」と言っている。アグネス参考人の論点が、アジアで児童ポルノの被写体となって長い時間苦しんでいる「被害者」を代弁する趣旨であったことからその内容は共感できるが、宮沢りえの写真集を持っていたら「単純所持で規制」というのは別の話じゃないですかと指摘しているだけ。逆にアグネス参考人側も「あなた見たいんですか」などとは言っていない。国会でのやりとりは正式な会議録が残るものだ。こうして検証してみれば、どちらが正しいのかはたちどころに判明する。

 少なくとも「宮沢りえ写真集」の単純所持を犯罪とし、「子どもの人権を守った」などというのは倒錯の極みである。そして、国会での議論も開始されていないマンガ・アニメの規制までなだれ込むのは誰のためなのか。皆さんからの意見もお待ちしたい。



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 「核密約」と... 都青少年条例... »