東野圭吾著『仮面山荘殺人事件』(講談社文庫ひ17-10、1995年3月15日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
八人の男女が集まる山荘に、逃亡中の銀行強盗が侵入した。外部との連絡を断たれた八人は脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わる。恐怖と緊張が高まる中、ついに一人が殺される。だが状況から考えて、犯人は強盗たちではありえなかった。七人の男女は互いに疑心暗鬼にかられ、パニックに陥っていった…。
本書は1990年12月に徳間書店よりトクマ・ノベルズとして刊行。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
人物や人生の掘り下げはなく、割り切った謎解きが主体の推理小説だ。これはこれでありなのだが、その分、謎解きのびっくりするような意外性が要求される。
そして、最後の大どんでん返しは実質ルール違反のように思うが、著者の期待にたがわず私はびっくりしてしまった。そして、ともかく面白く読まされてしまった。
山荘の8人と強盗3人、警官2名と、珍しく登場人物が少なくて、読みやすい。
途中で、なんとなく舞台劇をみているような、わざとらしさ、芝居っぽさを感じたのだが、おそらくこれは東野さんの意図的な技なのだろう。
登場人物
樫間高之:朋美と結婚予定だった。小さなビデオ制作会社経営。
森崎朋美:父が所有する別荘で樫間高之と結婚式を予定。4日前に交通事故死。
森崎伸彦:朋美の父。製薬会社を経営。
森崎厚子:朋美の母。
森崎利明:朋美の兄。
下条玲子:森崎伸彦の秘書。長身、ボーイッシュ。
篠一正:厚子の弟。朋美の叔父。小中学生相手の学習塾を経営。
篠雪絵:一正の娘。朋美の従妹。大人しい美人。学習塾の手伝。殺される。
木戸信夫:一正の主治医。雪絵に執心。
阿川桂子:朋美の親友。小説家。
ジン:銀行強盗。小男で頭が切れる。
タグ:銀行強盗。大男で粗暴。
フジ:銀行強盗。銀行員で、リーダ。後からやって来る。
以下、ネタバレのあらすじで、長文です。(以下、白字)
叙述トリック(語り手が実は嘘をついているという、ずるいトリック)
主人公高之と朋美は交通事故で出会う。朋美はスピードを出しすぎて前の高之の車に衝突し、左足の足首から先を失い、バレーへの道をあきらめることになった。しかし、これが縁で2人は結婚することになる。
しかし、父が所有する別荘(=仮面山荘)の近くの教会で高之と結婚式をあげる4日前に車の運転を誤って、崖から転落死する。
その日、朋美は生理痛を和らげるために鎮痛剤を飲んでいたはずなのに、発見されたピルケース(薬入れ)には2つ入ったままだった。
警察は居眠り運転による事故死と処理する。
3カ月程後に、高之は朋美の父・伸彦から別荘に来ないかと誘われる。別荘には、高之、伸彦、朋美の母・厚子、兄・利明、従妹・雪絵、従兄・木戸、親友・桂子、伸彦の秘書・玲子の8人がいた。
その日の夜、銀行強盗の小柄なジンと大柄なタグが警察に追われて、銃を持って侵入し、8人は監禁(軟禁)される。
高之たち8人と強盗との駆け引きが始まる。
見回りに来た警官に高之が指でSOSを伝えるが、警官は全く気づかない。「車のドアが半開きになっている」との警官の指摘で、玲子が車のドアを閉めるときに、地面に「SOS」と書いたが、強盗たち以外の誰かが別荘の窓からホースで水をまいて、SOSを消してしまった。SOSが書かれていることは、玲子と高之以外は知らないはずなのだが。
利明が、停電した隙に逃げ出すために、午後7時にトイレのコンセントをショートさせるようにタイマーセットし、全員に伝えた。しかし、午後7時10分になっても停電せず、伸彦がトイレに行って確認したが、タイマーは壊されていた。強盗たちが何も言わないということは、8人のなかに警察へ通報させたくない人がいることになる。
誰かが強盗の大男タグに睡眠薬を飲ませたらしく、眠り込んでしまう。監視ジンひとりになってしまい、部屋のドアを監視するだけでよいように、7人はそれぞれの部屋に入り、厚子だけが人質としてジンのそばにいることになる。
翌朝、雪絵が背中をナイフで刺されて死んでいるのが発見される。ジンは夜中1度だけトイレに行ったので、
そのすきに犯行が行われたと思われた。雪絵の部屋からは「ドアを開けて待っているように」と書かれたメモと、朋美が死んだ日のページが破られた雪絵の日記が見つかった。
高之と雪絵は互いに好意を持っていると感じていた。
強盗の小柄なジンは、もう一人の仲間フジがやってきたら、残った7人を縛り上げて、逃げるつもりだったのだが、雪絵を殺したのが誰かわからなければ皆殺しにすると宣言する。
敏腕秘書の玲子が探偵役となって、7人の中の犯人探しが始まる。
SOS作戦を知っていたのは、書いた玲子と見ていた高之の他に、厚子のカーディガンを取って来て窓を覗けば伸彦も知っていた可能性がある。
また、伸彦はトイレに行ったときにタイマーの時間を7時20分にずらしておいて、午後7時過ぎに確認に行ったときに、タイマーを壊した。
さらに、雪絵は朋美のピルケースにあらかじめ睡眠薬を入れておき、事件後鎮痛剤を補充したのだと推理する。そして、伸彦が朋美の仇を討つために雪絵を殺したと推理する。
ここで、突如伸彦が窓から下の湖に飛び込んでしまう。
強盗たちは、高之をラウンジに置いて、のこりの6人を各部屋に戻す。
湖に飛び込んだ伸彦が戻って来て、高之に言う。
私が雪絵を殺そうとしたとき、彼女は「殺していない…でも同罪だ」と言った。
彼女は、彼女は朋子殺しの犯人がわかり、その人をかばうためにピルケースに鎮痛剤を補充したんじゃないか。
高之は話を聞き終えると、伸彦の首を両手で絞め始めた。
彼は美人の雪絵を好きになってしまい、婚約者・朋美を疎ましく思うようになっていた。そこで、高之は朋美の鎮痛剤を睡眠薬と取り換え、殺そうとしたのだ。
しかし、朋美の死後発見されたピルケースには睡眠薬がそのまま入っていたため、自分は朋美を殺していないと思っていた。事実は、雪絵が鎮痛剤を補充していたのだ。
突然明かりがついて、そこには玲子、利明などの他、強盗のジンやタグ、さらに死んだはずの雪絵も登場した。一連の「強盗侵入」と「雪絵殺人」はすべて狂言で、高之の犯行を確かめるための芝居だった。
高之と面識のある伸彦、厚子、雪絵以外はすべて役者だった。
さらに、朋美は鎮痛剤が高之によって取り換えられていることに気づいて、睡眠薬は飲まず、裏切られた絶望のために自殺したのだ。
高之の罪は、殺人未遂??