浅田次郎著「夕映え天使」2008年12月新潮社発行を読んだ。
2003年から2008年にかけて「小説新潮」に掲載された6編の短編を集めたものだ。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
「小説の大衆食堂」「平成の泣かせ屋」といわれるストーリーテラーの浅田次郎だ、面白くないはずがない。
「夕映え天使」
さびれた商店街の老いた父と中年の息子の二人だけの小さな中華料理店。ある日突然現れた中年女性・純子。請われるまま住み込みの店員として彼女を雇い、天使のように働く。父はこのまま息子の嫁になってくれると期待を抱くが、突然消えてしまう。そして、ある日、純子らしい人物の情報が入り、はるばる訪れると、そこにはもう一人の中年の男性が・・・。
お定まりのように、最後はしんみりしてしまう、いやみなテクニシャン浅田次郎!
前半は、1982年直木賞を受賞した村松友視の「時代屋の女房」を思い出させる。
「切符」
どうも子供ものに弱い私は、この一遍が一番のお気に入り。
オリンピック直前の東京・恵比寿のゴタゴタした町。両親の離婚で父方の祖父のもとに引きとられた少年。2階にはわけありの年の離れた夫婦が間借りする。そのべっぴんな奥さんと、在日の同級生の少女との交流や、明治生まれの祖父の心意気が、あの時代の空気と、哀しさ、やさしさを思い起こさせる。
ラストシーンは著者も書きながら酔ってしまったのではないだろうか。
「特別な一日」
平凡なサラリーマンの定年の日が淡々と描かれ、最後の方でびっくりな、どんでん返し。
ちょっと、あざとさが気になる。
「琥珀」
樹液のなかに閉じ込められて琥珀になった虫のように、寂れたまちの古めかしい喫茶店のわけあり店主。
「丘の上の白い家」
奨学金をもらう悪がきの主人公、優等生の同級生、見上げる丘の上の白い家に住む金持ちの娘と、英語が話せる嘘つき女。一番悪いのは誰?結局、幸せになるのは誰?
「樹海の人」
今は作家となっている主人公が、自衛隊の演習中に樹海で出会った不思議な出来事を回想する。もともと三島由紀夫にあこがれ、小説家になりたかった主人公は、三島が自衛隊市谷駐屯地に乱入し自殺した事件に衝撃を受け、自衛隊に入隊してしまう。
「いずれにせよ私は、軍人になりたかった小説家とはまったくうらはらの、小説家になりたかった軍人になっていたはずである。」
この話は浅田さん自身のことだろう。
浅田次郎の略歴と既読本リスト