本当に人手不足❓ 就労希望、国内に323万人(2018年12月15日中日新聞)

2018-12-15 09:11:55 | 桜ヶ丘9条の会
本当に人手不足? 就労希望、国内に323万人 

2018/12/15 中日新聞

 外国人労働者を増やすため、与党の採決強行で成立した改正入管難民法。政府は立法の根拠に「人手不足」を挙げたが、現在の求人は低賃金の非正規労働に偏っている上、就職していない若年層の潜在的な労働力を十分に生かせていない。企業側が労働環境の改善に後ろ向きで、非正規労働者を増やす「雇用破壊」を続けてきたことが人手不足に拍車をかけている面もありそうだ。

 「中小事業者が深刻な人手不足に直面している。優秀な外国人材の皆さんに、日本で活躍していただくためにこの制度は必要だ」

 臨時国会が閉会した十日、安倍晋三首相は会見で改正入管難民法の意義を強調した。人手不足の根拠とした有効求人倍率(季節調整値)は、今年一~十月で一・五八~一・六四倍。求職者二人に対し約三件の求人がある計算だ。

 少子高齢化が進み、将来、労働力人口が大きく減っていくのは事実だが、こんなデータもある。例えば、国土交通省の十月の建設労働需給調査では、約三千の建設業者のうち二カ月後の労働力確保が「困難」「やや困難」と答えたのは29・9%。最も多かったのは「普通」の63・5%だった。

 さらに注目されるのは働きたくても働けていない人の多さだ。総務省の七~九月の労働力調査によると、現在は働いていないが、就労を希望する人は三百二十三万人。このうち、働き盛りの二十五~五十四歳だけで百七十五万人もいる。政府が「特定技能1号」として当初の五年間で受け入れる外国人の見込み総数の約三十四万五千人をはるかに上回る。

 「過酷な労働環境が人手不足を招いている側面がある」と労働組合「首都圏青年ユニオン」の原田仁希・執行委員長は話す。特定技能1号に含まれる外食産業を巡っては、都内のレストランに勤めた二十代男性が月平均百三十時間の残業で体を壊し、就労意欲がありながら辞めざるを得なかったケースがあった。「一度辞めると、労働現場に戻るまでに時間がかかることが多い」

 政府が主張する「人手不足」と矛盾が生じるのはなぜか。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査室長は「企業側が求める技能と求職者の技能に開きがある」と解説する。

 求職者の多くが希望するのは事務職。昨年の有効求人倍率を見ると、会計事務が〇・七倍、一般事務が〇・三五倍と狭き門だ。他方、雇う側が求めるのは「危険、汚い、きつい」の3K職場で働く人。政府が特定技能1号で外国人の受け入れを想定する十四業種もこの傾向が強く、介護は三・五倍、調理や接客も三倍超となっている。

 とりわけ企業が求めているのが非正規労働者。今年十月の有効求人倍率は正社員の一・一五倍に対し、パートは一・八三倍と高い。働く人を集めるためパートやアルバイトの賃金は上昇しており、「本来はまだ上がる局面にある」と斎藤氏。だが、賃金や待遇を改善しなくても働いてくれるのが「外国人材」だ。「当たり前の市場原理が働かなくなる」と斎藤氏はみる。

 外国人労働者の雇用で当面やり過ごせるとなれば、企業側が労働環境を改善する動機づけも弱まる。

 原田氏は「外国から働きに来た人は日本の労働法も労組に頼ることも知らない。企業がそれに甘えれば、労働環境全般に悪影響が出てくるだろう」と心配する。

◆外国人頼み、問題先送り

 一九九〇年代初めにバブル経済が崩壊した後、企業は新卒採用を抑制し、いわゆる就職氷河期が始まった。この時期に大学や高校を卒業した世代には正規雇用の職に就けず、パートや派遣社員など非正規雇用になった人も多い。新規学卒一括採用と終身雇用の慣行が長く続いた日本では、中途採用で正社員になるのは難しかった。

 その一方で、長びく不況の中で賃金を抑えるため、非正規雇用を前提にした経営を拡大させた。総務省の労働力調査によると、非正規雇用の労働者は二〇〇二年は就業者の29・4%だったが、その後は増え続け、一七年は37・3%に上っている。

 いつ解雇されるか分からない質の悪い雇用の問題点は根深く、〇八~〇九年の年末年始には、リーマン・ショックの余波で職を失った人たちを支援する年越し派遣村も運営された。

 「非正規雇用の増加は国策として進められた結果。安倍政権は働き方改革の一環として、正社員と非正規労働者の不合理な格差の解消を掲げたが、機能していない」と語るのは、日本労働弁護団の棗(なつめ)一郎弁護士だ。「雇う側は賃金や待遇を見直すべきなのに、安い労働力を求め続けている。政府もこうした要望に応え、外国人労働者の受け入れを広げようとしている」

 棗氏は改正入管難民法の成立で雇用環境はさらに悪化すると予測。「正社員と非正規労働者の格差に加え、もう一段下の低賃金の外国人という三層構造になる。結果的に低賃金が横行する」と指摘する。

 安倍首相の経済政策アベノミクスは、日銀の金融緩和で企業や個人がお金を借りやすい状況をつくり、企業業績の改善、賃金上昇、消費拡大、物価上昇と経済の好循環を促すことを掲げてきた。

 しかし、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「普通は(業績改善で)人手の確保が必要になれば、企業は賃金を上げ、生産性を高めようと機械化や職場環境の見直しも考える。なのに、今ここで単純労働に割安で雇える外国人を受け入れたら、賃金も生産性も上がらない」と話す。目先の人手不足対策として企業は歓迎するかもしれないが、「長い目で見れば技術革新を遅らせ、国全体の生産性も停滞することになる」。

 労働政策に詳しい慶応大の中島隆信教授(応用経済学)も「(潜在分を含め)国内全体の労働力は足りている。なのに人が足りないというのは、企業側が努力しないからだ」と批判。労働環境の見直しよりコスト削減に走ってきた経済界の姿勢を「コスト削減というと人件費を抑えることばかり考える」と問題視する。低賃金で雇えて解雇しやすい非正規労働者は今年四月から無期雇用に転換できるルールが適用されるようになったため、企業にとって使い勝手が悪くなった。「だから代わりに、低賃金の外国人労働者を大勢迎えるという考えだろう」

 かねて日本の職場では男性正社員による長時間労働を前提に、硬直的な働き方が押し付けられてきた。「そこに手を付けず、安易に外国人に頼るのは問題の先送りだ」と中島氏。「企業側は女性や高齢者、障害者も働きやすい職場に改善し、労働環境の見直しを徹底するべきだ」

 (皆川剛、中沢佳子)

辺野古に土砂 民意も法理もなき暴走(2018年12月15日中日新聞)

2018-12-15 08:56:37 | 桜ヶ丘9条の会
辺野古に土砂 民意も法理もなき暴走 

2018/12/15 中日新聞
 群青の美(ちゅ)ら海とともに沖縄の民意が埋め立てられていく。辺野古で政権が進める米軍新基地建設は法理に反し、合理性も見いだせない。工事自体が目的化している。土砂投入着手はあまりに乱暴だ。

 重ねて言う。

 新基地建設は、法を守るべき政府が法をねじ曲げて進めている。なぜそこに新基地が必要か。大義も根底から揺らいでいる。直ちに土砂投入を中止し虚心に計画を見直す必要があろう。

 辺野古工事の根拠となっているのは二〇一三年、当時の仲井真弘多知事が公有水面埋立法に基づき防衛省沖縄防衛局に与えた埋め立て承認だ。しかし、県はその後の工事の進め方に約束違反があるとしてこの八月、承認を撤回した。この処分は生きていると言える。

 防衛局は、国民の権利保護のための行政不服審査法をいわば脱法的に利用。撤回の効力停止を身内の国土交通相に申し立て、国交相は当然のように認めた。県は国地方係争処理委員会に国交相の決定は違法だと訴えており、結論はまだ出ていない。

 さらには、埋め立て用土砂の性質や搬出場所、経路なども当初計画や県の条例、規則に反する疑いが続出。県は十二日、防衛局に工事即時中止の行政指導をしたものの、国は無視している。

 岩屋毅防衛相は十三日、玉城デニー知事との会談で工事を急ぐのは「普天間飛行場の危険性除去」のためと述べ、中止要請を突っぱねた。だが、新基地建設=普天間返還との相関論は破綻寸前だ。

 土砂投入を始めた辺野古崎南側海域だけでも、埋め立てに必要な土砂は約百三十万立方メートルという。

 防衛局は詳しい工事手順を示していないが、地元の土木技術者は陸揚げ土砂をダンプカーで投入地点まで運ぶ方法では、休みなしに作業を続けても終了に四年を要するとみる。県が新基地完成まで十三年と試算したのもうなずける。

 県が算出した工費は約二・六兆円。普天間に駐留する海兵隊の役割も、東アジアの安全保障情勢も変化している。途方もない時間と税金を使った末の普天間返還にどれだけ意味があるか。県民は待つだけか。その労力を米国との交渉に用い、普天間の無条件返還につなげる方が現実的だ。

 あらゆる民主的な主張や手続きが力ずくで封じられる沖縄。そこで起きていることは、この国の民主主義の否定でもある。

 これ以上の政権の暴走は、断じて許されない。