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【くらま】日本DDH物語 《第二六回》はるな設計開始と全通飛行甲板船体設計の模索

2017-10-07 20:07:57 | 先端軍事テクノロジー
■はるな型護衛艦全通飛行甲板案
 ヘリコプター搭載護衛艦の設計着手、これは同時に新しい護衛艦の艦型と形状に関する討議の開始を意味しました。

 第3次防衛力整備計画において海上自衛隊はヘリコプター搭載護衛艦の建造に着手します。護衛艦はるな型はこの一連の長大な海上自衛隊艦隊航空研究の集大成として建造された訳です。基準排水量4700tという護衛艦の建造は当時海上自衛隊最大の護衛艦であったミサイル護衛艦あまつかぜ、の基準排水量3050tを大きく凌駕し最大の護衛艦となります。

 ヘリコプター搭載護衛艦はるな型、はるな、ひえい、ヘリコプター搭載護衛艦しらね型、しらね、くらま、海上自衛隊第一世代のヘリコプター搭載護衛艦です。船体前部に51番砲と52番砲という二基の5インチ単装砲を搭載し、船体中央部に上部構造物と航空機格納庫を配置するという、非常に優美な艦容の護衛艦群はここから建造が開始された訳でした。

 第3次防衛力整備計画では、しかし注意したいのはヘリコプター搭載護衛艦を建造するという指針が定められていたのみであり、その艦容については様々な研究が為されていました。興味深いのは全通飛行甲板型護衛艦という構想です。基準排水量5000t前後の全通飛行甲板艦艇は、イギリスのハリアーVTOL攻撃機完成に伴い世界中で研究されています。

 はるな型ヘリコプター搭載護衛艦が全通飛行甲板となっていた可能性があった、これは僅かな可能性でしたが艦型の検討として候補の一つに挙げていました。全通飛行甲板を有すると共に前甲板と後部甲板に艦砲を設置し、航空機は飛行甲板下に格納庫を配置、エレベータ1機により飛行甲板と格納庫を昇降させる方式です。上掲イギリス案と似たものです。

 ただ、イギリスのヴィッカース社等は基準排水量5000tの軽空母にハリアー攻撃機6機乃至ヘリコプター6機を搭載可能、として各国に売り込みを図りましたが、採用された事例はありません。ハリアー攻撃機は相応に高価な航空機ですし、ヘリコプターも海上自衛隊のHSS-2のような対潜哨戒を行う機種は高価で、多数を運用できる海軍は多くはありません。

 第3次防衛力整備計画において建造されるヘリコプター搭載護衛艦に全通飛行甲板を採用する事は、イギリスが提案する5000t型全通飛行甲板型軽空母と考えますと実現性を感じるのですが、これだけの高価な航空機を運用できるのならば、もう少し大きな船体を採用した方が良く、実際世界中の海軍がイギリス提案を採用しなかった理由も同じものでした。

 全通飛行甲板型の海軍艦艇として思い出されるのはイタリア海軍が1985年より3隻を就役させたサンジョルジョ級強襲揚陸艦です。艦砲と全通飛行甲板を備えた揚陸艦、基準排水量は6000tとこの種の全通飛行甲板型艦艇としては最小の規模となっています。かなり小型の全通飛行甲板ではありますが、アグスタ212多用途ヘリコプター4機を搭載可能です。

 サンジョルジョ級強襲揚陸艦は揚陸艦であり艦内には航空機格納庫ではなく多目的区画として兵員及び車両を収容する区画となっており、艦尾に20.5m×7mの揚陸艇ドック、300㎥の物資格納庫、車両甲板等を有しM-113装甲車イタリア仕様のVCC-1装甲車やAAV-7両用強襲車とイヴェコ高機動車等30両を搭載可能で航空機は飛行甲板に露天係留されます。

 はるな型ヘリコプター搭載護衛艦が全通飛行甲板となっていた可能性、現実性を考えた場合は難しいものがありました。昇降機が故障したならば航空作戦が全く行う事が不可能となりますし、艦砲を前後に搭載し全通飛行甲板から航空機の運用は難易度が高く、思い出すのは現在の護衛艦ひゅうが型建造の際のイメージ図に在った不思議な艦型案でしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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