『大野の振飛車』 大野源一著 弘文社
表紙をよく見ると「‘振飛車’を売りにしている本なのに、表紙の図は居飛車じゃん!」というツッコミがまずできます。悪型だし。なんでこんな図にしたのでしょうか?
今週の『週刊将棋』新聞に、「棋士・この一冊」のコーナーで久保利明棋王がこの本を採り上げていました。僕は「おお! おれも持っているぜ!」と嬉しくなったのでここに書くことにしました。
しかも僕のは「表紙カバー付き」です! 久保さんの本はどうやらカバーがないようです。(←小っちゃ~な優越感)
久保棋王、この本を小2のときに父に買ってもらい、何度もこの中の将棋を並べたそうです。
僕は高校時代に将棋にはまり、将棋の本は30冊くらい買ったでしょうか。でもその後将棋から離れ、そのうちの7、8冊程を残してあとは処分したのですが(今は後悔しています)、その7、8冊の中にこの本『大野の振飛車』があったというわけです。これは捨てたらソンだ、というカンが働いたんですね。
大野源一九段。
1911年(明治44年)東京生まれ、1979年没。タイトルは獲っていないがA級で16期活躍した華のある棋士である。その振り飛車のサバキは天才と呼ばれた。木見金次郎門下で、升田幸三、大山康晴の兄弟子として有名である。
それではその中身をすこしご紹介しましょう。
大野源一VS升田幸三戦から。
対局日は昭和38年2月28日。大野52歳、升田45歳。A級順位戦です。
〔 私は元来口が悪く、のちに名人になった二人をつかまえ、お前の将棋は弱い、ものにならんから荷物をまとめ、田舎に帰れとか、お前は馬鹿だとかよく言ったが、非凡な二人はその間に私の弱点をみつけ、晩年私に容易に勝たせてくれなかった。特に升田は、私の棋界随一のニガ手である。 〕
序盤。後手番大野は3二飛と三間飛車。升田は5七銀左の急戦。
41手目▲3五歩まで
△3五同歩 ▲同 飛 △4五歩 ▲3七桂 △4六歩
▲同 銀 △4四金 ▲3三飛成 △同 桂 ▲5七銀左 △5五歩
▲4二角 △3六歩 ▲5一角成 △同 金
大野は4三金と左金をあがり、5二飛と中飛車に。升田は3八飛から攻めをねらう。
升田は▲3五歩から開戦。
大野、△4五歩。振飛車らしい反撃。
升田、3三飛成。飛車を切って攻める。
56手目△5一同金まで
▲3一飛 △6二角 ▲3三飛成 △3七歩成 ▲同 龍 △4五桂
▲3九龍 △5七桂成 ▲同 銀 △2六飛 ▲5五歩 △5六歩
▲6六銀 △2七飛成 ▲8六桂 △5三角 ▲7七桂 △4五金
▲4九龍 △4六銀 ▲5四歩 △3五角 ▲4七歩 △5五銀引
▲同 銀 △同 金 ▲7四桂打 △同 歩 ▲同 桂 △9二玉
▲8五桂 △7一銀
升田は攻める――と思いきや、受けにまわる。
〔 ▲3七同竜と引いたあたり、むかしの彼の粘り強い棋風が十分によみがえっている。 升田の棋風は、内弟子時代に、私の攻めに対抗するため、非常に粘り強い受けの棋風になったが、最近は卓越する実力により、本来の豪放な攻めに戻ったようである。〕
〔 ▲3九龍は升田特有の粘い手で、こういう場合、力に自信のない人は、ほとんど3一竜ととびこむのである。 しかし升田は、竜を受けに使って粘る。私はこれまで、升田のこの粘りに何度も、好局を落としている。 〕
88手目△7一銀まで
▲3九龍 △6八角成 ▲同 金 △5七歩成 ▲同 金 △6五桂
▲5八金 △2六龍 ▲4四角 △7六龍 ▲7七歩 △7四龍
▲7一角成 △6一金打 ▲8二銀
ここでは大野優勢。△6八角成から決めにでる。
しかし升田も▲4四角から反撃。
だがそれも大野源一の読み筋。 升田の▲7一角成に対し、△6一金「打」としたのが読みの入った手だった。
103手▲8二銀まで
△7一金 ▲同銀不成 △8二桂 ▲3一龍 △6一金
▲6二銀打 △同 金 ▲同銀成 △9五角 ▲6八金打 △6二角
▲1一龍 △5七歩 ▲5九金 △8五龍 ▲1二龍 △7五桂
▲9八金 △5六金 ▲6二龍 △6七桂成 ▲同 金 △同 金
▲同 玉 △6六銀 ▲同 玉 △7五龍
まで130手で後手の勝ち
升田、食いつくが、△9五角と攻防の好手があって勝負は決した。
(それにしても升田さんの▲9八金は、ひどい手だ…。)
投了図
大野源一の勝ち。「ニガ手の弟弟子」升田からA級順位戦でのうれしい1勝である。
升田幸三はこの対局に負けたが、この期は8勝2敗で名人戦挑戦者になった。しかし升田の大山康晴名人との名人戦は、弟弟子の大山が4-1で防衛。大山名人最強の時代であった。
強烈な個性をもつ大阪・木見門下の三兄弟――。 昭和の「振り飛車ブーム」は彼ら三人が中心となって巻き起こした大竜巻であった。 今はみな、故人である。
本の紹介ついでに、これは児玉孝一著『カニカニ銀』。
クラムボンはカプカプ笑ったよ―――、あれれ?
将棋とまったく関係ないですが、先々週金曜ロードショウでやっていた映画『舞妓Haaaan!!!』の録画を昨日、観ました。 大爆笑。おもしろかった~。 こういう日本の「笑い」が世界で受け入れられる日がいつか来るのでしょうか?
表紙をよく見ると「‘振飛車’を売りにしている本なのに、表紙の図は居飛車じゃん!」というツッコミがまずできます。悪型だし。なんでこんな図にしたのでしょうか?
今週の『週刊将棋』新聞に、「棋士・この一冊」のコーナーで久保利明棋王がこの本を採り上げていました。僕は「おお! おれも持っているぜ!」と嬉しくなったのでここに書くことにしました。
しかも僕のは「表紙カバー付き」です! 久保さんの本はどうやらカバーがないようです。(←小っちゃ~な優越感)
久保棋王、この本を小2のときに父に買ってもらい、何度もこの中の将棋を並べたそうです。
僕は高校時代に将棋にはまり、将棋の本は30冊くらい買ったでしょうか。でもその後将棋から離れ、そのうちの7、8冊程を残してあとは処分したのですが(今は後悔しています)、その7、8冊の中にこの本『大野の振飛車』があったというわけです。これは捨てたらソンだ、というカンが働いたんですね。
大野源一九段。
1911年(明治44年)東京生まれ、1979年没。タイトルは獲っていないがA級で16期活躍した華のある棋士である。その振り飛車のサバキは天才と呼ばれた。木見金次郎門下で、升田幸三、大山康晴の兄弟子として有名である。
それではその中身をすこしご紹介しましょう。
大野源一VS升田幸三戦から。
対局日は昭和38年2月28日。大野52歳、升田45歳。A級順位戦です。
〔 私は元来口が悪く、のちに名人になった二人をつかまえ、お前の将棋は弱い、ものにならんから荷物をまとめ、田舎に帰れとか、お前は馬鹿だとかよく言ったが、非凡な二人はその間に私の弱点をみつけ、晩年私に容易に勝たせてくれなかった。特に升田は、私の棋界随一のニガ手である。 〕
序盤。後手番大野は3二飛と三間飛車。升田は5七銀左の急戦。
41手目▲3五歩まで
△3五同歩 ▲同 飛 △4五歩 ▲3七桂 △4六歩
▲同 銀 △4四金 ▲3三飛成 △同 桂 ▲5七銀左 △5五歩
▲4二角 △3六歩 ▲5一角成 △同 金
大野は4三金と左金をあがり、5二飛と中飛車に。升田は3八飛から攻めをねらう。
升田は▲3五歩から開戦。
大野、△4五歩。振飛車らしい反撃。
升田、3三飛成。飛車を切って攻める。
56手目△5一同金まで
▲3一飛 △6二角 ▲3三飛成 △3七歩成 ▲同 龍 △4五桂
▲3九龍 △5七桂成 ▲同 銀 △2六飛 ▲5五歩 △5六歩
▲6六銀 △2七飛成 ▲8六桂 △5三角 ▲7七桂 △4五金
▲4九龍 △4六銀 ▲5四歩 △3五角 ▲4七歩 △5五銀引
▲同 銀 △同 金 ▲7四桂打 △同 歩 ▲同 桂 △9二玉
▲8五桂 △7一銀
升田は攻める――と思いきや、受けにまわる。
〔 ▲3七同竜と引いたあたり、むかしの彼の粘り強い棋風が十分によみがえっている。 升田の棋風は、内弟子時代に、私の攻めに対抗するため、非常に粘り強い受けの棋風になったが、最近は卓越する実力により、本来の豪放な攻めに戻ったようである。〕
〔 ▲3九龍は升田特有の粘い手で、こういう場合、力に自信のない人は、ほとんど3一竜ととびこむのである。 しかし升田は、竜を受けに使って粘る。私はこれまで、升田のこの粘りに何度も、好局を落としている。 〕
88手目△7一銀まで
▲3九龍 △6八角成 ▲同 金 △5七歩成 ▲同 金 △6五桂
▲5八金 △2六龍 ▲4四角 △7六龍 ▲7七歩 △7四龍
▲7一角成 △6一金打 ▲8二銀
ここでは大野優勢。△6八角成から決めにでる。
しかし升田も▲4四角から反撃。
だがそれも大野源一の読み筋。 升田の▲7一角成に対し、△6一金「打」としたのが読みの入った手だった。
103手▲8二銀まで
△7一金 ▲同銀不成 △8二桂 ▲3一龍 △6一金
▲6二銀打 △同 金 ▲同銀成 △9五角 ▲6八金打 △6二角
▲1一龍 △5七歩 ▲5九金 △8五龍 ▲1二龍 △7五桂
▲9八金 △5六金 ▲6二龍 △6七桂成 ▲同 金 △同 金
▲同 玉 △6六銀 ▲同 玉 △7五龍
まで130手で後手の勝ち
升田、食いつくが、△9五角と攻防の好手があって勝負は決した。
(それにしても升田さんの▲9八金は、ひどい手だ…。)
投了図
大野源一の勝ち。「ニガ手の弟弟子」升田からA級順位戦でのうれしい1勝である。
升田幸三はこの対局に負けたが、この期は8勝2敗で名人戦挑戦者になった。しかし升田の大山康晴名人との名人戦は、弟弟子の大山が4-1で防衛。大山名人最強の時代であった。
強烈な個性をもつ大阪・木見門下の三兄弟――。 昭和の「振り飛車ブーム」は彼ら三人が中心となって巻き起こした大竜巻であった。 今はみな、故人である。
本の紹介ついでに、これは児玉孝一著『カニカニ銀』。
クラムボンはカプカプ笑ったよ―――、あれれ?
将棋とまったく関係ないですが、先々週金曜ロードショウでやっていた映画『舞妓Haaaan!!!』の録画を昨日、観ました。 大爆笑。おもしろかった~。 こういう日本の「笑い」が世界で受け入れられる日がいつか来るのでしょうか?
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