A Challenge To Fate

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【至福の地下音楽】時代からはみ出し続けるネームレス即興ロック~陰猟腐厭『初期作品集1980-1982』

2014年07月28日 01時22分27秒 | 素晴らしき変態音楽


5月に30年ぶりの新作『抱握』をリリースした地下音楽トリオ『陰猟腐厭 Inryo-fuen』の初期音源がリリースされた。1981年に横浜のロック喫茶夢音の自主レーベルの第1弾としてリリースされたソノシート『妥協せず』、7インチシングル『品品』(1982)、12"LP『陰猟腐厭』(1984)収録曲をマスターテープから高音質マスタリング。発売済みの全6曲収録のCD盤に加え、LP盤も7月30日にリリースされる。

33年前に購入した『妥協せず』は、過激派のアジ演説を収録しており、ビルからぶら下がる破壊工作員のような写真のジャケットと相俟って、80年代初頭の混沌としたイメージを象徴していた。一方でアジ演説にエフェクトをかけて電子ノイズに変形させた音響が偶然にしては出来過ぎのような気がした。その頃『HEAVEN』『宝島』『夜想』といったサブカル誌、ピナコテカレコードのフリーペーパー『アマルガム』などには、太平洋戦争のスローガン、過激派思想、猥褻写真、屍体愛やSM趣味など、ワザと悪趣味で差別的な言葉や写真を掲載し、センセーショナルなイメージを喚起する風潮があった。スネークマンショーのナンセンスギャグやゲルニカの大正浪漫主義も同じかもしれない。

しかし、陰猟腐厭『妥協せず』に嘘やポーズはない。レコーディングされた神奈川大学は、当時学生運動の最後の砦とされ、全学バリケード・ストライキや内ゲバがあったという。深夜のロックコンサートに酔っ払った運動家が乱入し、マイクを奪って演説を始めたハプニング。PAエンジニアが面白がって声にエフェクトをかける。それを無視してトニー・コンラッド&ファウストの曲を淡々と演奏するバンドの三者による時代を切り取ったドキュメンタリーである。当初はリリースするつもりは無かったが、溜まり場にしていたロック喫茶夢音のマスターの提案で、クラゲイルレコードから発売することに。『妥協せず』というタイトルは、たまたま目についた新聞記事から取り、ジャケット写真は元写真部の原田が撮った窓ふきの写真をコピー。その結果が、自動車をたたき壊す吉野大作&プロスティテュートのEP『Daisuck & Prostitute』のジャケと並び、「ヨコハマ・サイケデリック・ビート」と呼ばれた横浜のインディーロックシーンの印象を、過激に彩った。



EP『品品』、LP『陰猟腐厭』はいずれもタイトルも曲名も記載されていない。高校生の時にシュールレアリスム研究会で出会った3人は、音楽であれ文学であれアートであれ、何事も決め事なしの、瞬間瞬間の表現を形にしては、捨てるように発表してきた。即ち「シュールレアリスムの”自動記述”の音への転換」というコンセプトである。自動記述だから、表題のつけようがなく曲名なし。聴き手の自由な感性に任せようという意志の現れだったのかもしれない。『陰猟腐厭』というバンド名は、人から忌み嫌われる漢字を思いつくまま全て書き出し、その中でゴロのいい文字を並べて決めたと言う。そんな活動をしていたのだから、魑魅魍魎の80年代地下音楽シーンでもとりわけ異端の存在だった。まさに幻というしかない作品に30年経ってタイトルが付され、当時の意志をそのまま保ち続けるメンバー自身の手により完全盤として復活した。

ここに収められた30余年前に記録された演奏は、30余年後の時代の意志を先取りしたものであるばかりか、さらに30余年後に聴いた時、まったく同じ主旨で評する者がいるに違いない。『抱握』のライナーノーツで原田が書いたように、「即興演奏に於いて『数十年』といった時間差はあまり意味を持たない~中略~。音楽にはそもそも『右肩上がりの進化』など存在しない」のだから。


陰猟腐厭公式サイト
エムレコード公式サイト(試聴可)
【考察】即興演奏の意志と時間~橋本孝之『サウンド・ドロップ』/陰猟腐厭『抱握』

名前など
いらない
必要ない

不失者 (Fushitsusha)
名前を つけないで ほしい 名前を つけて しまうと 全てで なくなって しまうから



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