A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【考察】即興演奏の意志と時間~橋本孝之『サウンド・ドロップ』/陰猟腐厭『抱握』

2014年05月11日 00時46分22秒 | 素晴らしき変態音楽


今日はブログ開設から3388日にあたる。サンサンハチハチという数字に意味がある訳ではないが、来年1月1日で10年目になる。SNS全盛時代にブログなんて時代遅れだし、今時ブログやってる芸能人はこじらせ系だけ、という説もある。自分の為なら日記を書けばいい。人に意見を伝えたいならツイッターで呟けばいい。炎上するかも、とか書いておいて、実際にディスられたり炎上したりするとかなり心の負担になる。オレってM?と思いもする。

ブログは兎も角、音楽作品を世の中に発表することの意味は何だろう。プロのミュージシャンなら、作品を制作・販売するのがメシの種だし、事務所やレコード会社や制作プロダクションの売り上げ予算に組み込まれているから、計画通りに作品を作らなければならない。では、音楽を職業としない表現者の場合はどうか。プロを目指すバンドがプロモーションを兼ねてCDを自主制作する場合もある。本業の合間に制作し、溜まった作品を纏めてリリースする日用大工のような音楽家も居る。創造性が高まった時、寝食を忘れて気が触れたように制作に没頭し、発表するしないは後回しにする者もいる。人に聴かせるつもりは無く、趣味的に録音した音源がたまたま他人に気に入られ、発表に至る場合もある。

同じ即興演奏であるが、制作意志や経緯が対照的なふたつの音楽作品が期を同じくして発売された。

●橋本孝之『Sound Drops - Takayuki Hashimoto Guitar Solo』


大阪のギャラリー・ノマルを拠点に活動する即興デュオ.es(ドットエス)の橋本孝之のギター・ソロ・アルバム。.esではサックスをメインに演奏する橋本は元々ギタリストで、デレク・ベイリーに大きな影響を受けたという。「ノン・イディオマティック(慣用からの逸脱)」を唱えるベイリー理論を極める為にフラメンコやボサノヴァを学びもした。アーティスト藤本由紀夫のオルゴール・ギターによる本作の演奏は、.esのサックスのフリークトーンから想像すると、虚をつかれるに違いない。暗闇に気配が立上がるサックスソロ作『COLOURFUL』とも異なる。最初に聴いた時、ギターソロなのにギターを演奏していない謎の作品、と思った。カラカラとオルゴールのネジを巻く音、オルゴールの無調メロディー、弦を擦る音、胴を叩くガサゴソ音、そんな音が続き一向に弦を弾く音がしない。『COLOURFUL』とは違う意味で「気配の演奏」といえるかも。筆者が好むノイズのひとつの傾向は「即物性」である。演奏者の意志ではなく、物体が自然に・自動的に鳴ってしまう音。物音ノイズと呼ばれることもあるが、制作者の精神が希薄な分、逆にそんな音を自分の作品として提示しなければならなかった作者の意図に興味が沸く。物音ノイズの最高峰は大竹伸朗だと思っているが、『サウンド・ドロップ』=”音の粒・雫”とタイトルされた本作も極上の即物音響である。



橋本は本作を発表する意図無く、このユニークなギターの実験を兼ねて録音したという。出来が悪くなかったので数人の知人に聴かせたところ、実験音楽ショップOMEGA POINTスタッフが気に入り、発表するよう強く薦められたことがきっかけで、ギャラリーノマルからリリースされることになった。オルゴールの巻きネジを装着したブリキ缶ケース、盤面に”音粒”ドローイング、藤本由紀夫による円形ライナー、シリアルナンバーと直筆サイン付き、というアート作品で当然限定盤。

★購入はNomart Official Online Store⇒コチラ/Art into Life(試聴可)⇒コチラ/OMEGA POINT(試聴可)⇒コチラ


●陰猟腐厭『抱握』


もうひとつは1978年に横浜で結成され、ソノシート『妥協せず』など4作の作品をリリースした前衛ロックバンド「陰猟腐厭 Inryo-fuen』の30年ぶりのニューアルバム。覚えている人はいないだろうが、2012年末から2013年頭にかけて「地下音楽界連鎖の罠」と呼ばれる悪夢現象が筆者を襲った。詳細は割愛するが、その中心が陰猟腐厭だった。2013年1月大雪の日に陰猟のドラマー原田淳と会ってから1年4ヶ月過ぎた今、彼らの新作を手にすることになるとは、もしかして悪夢の再開だろうか。。。と心配するのは嘘で、単純に喜びでいっぱいだ。『抱握』と題された本作は、実は29年前に制作されたものである。1985年に正式な2ndアルバムとしてレコーディングされたが、メンバー間の意見の相違によりお蔵入りになり原田の自宅の押入で眠っていた音源が、大阪のエムレコードからの質問メールがきっかけで発掘され、当時発表に否定的だった原田自身が、陰猟腐厭の新作としてリリースする決意をしたという。



増田直行(g)、大山正道(key)、原田淳(dr)が写真を観ながら完全即興で制作した音源は、『妥協せず』に於けるファウストを想わせるコラージュ風あり、ユーモラスなポストパンクあり、フラメンコギター(写真はスペインで撮影されたものだった)が物音に変化する脱構造サウンドあり、無調のロマンティシズムあり、とりとめないが、それこそこの得体の知れない異端トリオの面目躍如である。

「即興演奏に於いて『数十年』といった時間差はあまり意味を持たないと、この時初めて知った。音楽にはそもそも『右肩上がりの進化』など存在しないのだろう。」(原田淳、解説より)

7月には陰猟腐厭の全音源を集めた『初期作品集 1980-82』がLPとCDでリリース予定。現在も散発的に活動を続ける異端トリオの原点に触れることは、日本地下音楽の秘密を探る旅になるに違いない。

★購入はEM RECORDS Online Shop(試聴可)⇒コチラ その他大手CD店・オンラインショップでも販売中

音粒を
抱いて握って
音にする

.es(ドットエス)と陰猟腐厭の運命が何処かで交わるなんてことがあったら面白い。


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