きゃりーぱみゅぱみゅの武道館公演のTV報道を観て、どの番組も彼女を"アイドル"と呼ばないことに気づき、改めてアイドルとは何なのかと考えてしまった。以前紹介した「アイドル・ソング・クロニクル 2002-2012」(Music Magazine増刊)を参照すると、21世紀に突入したアイドル界はモーニング娘。などハロー!プロジェクト(以下ハロプロ)のタレントを中心とした女性グループ主導で始まっており、アイドル=グループという公式が周知の大前提としてあったことが判る。松浦亜弥、上戸彩、鈴木あみといったピンのアイドルもいるが80%はグループ、ソロの場合もグループ所属メンバーである場合が殆どだ。
1980年代まではアイドルといえばピンの歌手であり、"アイドル"は歌謡曲という大ジャンルの中のひとつだった。1990年代にはTV歌番組衰退による"アイドル氷河期"が到来、後半は華原朋美や篠原涼子などのいわゆる小室ファミリーや安室奈美恵、SPEEDなどの沖縄アクターズスクール勢がヒットを連発するが、従来の歌謡曲のアイドルとは一線を画しアーティスト性を強く打ち出したスタイルはそれまでのアイドル観を大きく塗り変えるものだった。そこにつんく率いるハロプロ勢が判りやすい歌謡メロディを武器に登場したのである。しかし90年代から勃興してきたJ-POP/J-ROCKにはソロ歌手では対抗できず、グループを組んで数の力で存在感を示したのでは無かろうか。
2000年代後半にPerfume、AKB48、ももいろクローバーなど現在のシーンの主役となるアイドル・グループが登場、2010年に入り大ブームとなり"アイドル戦国時代"が到来する。しかし上位カテゴリーの歌謡曲の崩壊と共に行き場を無くしたアイドル界は"アキバ"と"ヲタ"の世界へ救いを求めた。現在のシーンはかつての"お茶の間"のアイドルではなく、ある特定の世代・人種に支えられた極めて特異なジャンルなのである。
試しに近くの大型CDショップ、例えばタワーレコードのアイドル・コーナーを覗いてみればいい。AKB48コーナーにはその姉妹グループSKE48・NMB48・HKT48・SDN48等と板野友美・前田敦子・指原莉乃等の(元)メンバーが並び、ハロプロ・コーナーにモー娘。・Berryz工房・℃-ute・スマイレージ等とその別ユニットやメンバーのソロ、そしてABC順に並ぶ無数のアイドル・グループの色とりどりのCDに目眩を覚えるだろう。どれも同じような若い娘がたくさん写っており、しかもひとつタイトルに初回盤A,B,Cと通常盤の複数のCDがあり、いざ購入しようとすると複雑怪奇の迷宮に迷い込み頭痛で卒倒するに違いない。まさに魑魅魍魎が跳梁跋扈する立ち入り禁止の危険地帯である。
そんな中、「アイドルとは何ぞや?」の問いに明快な答えを出す作品がリリースされた。"きっか"こと吉川友ちゃんの新作カバー・アルバム「ボカリスト?」である。ハロプロエッグ(現・ハロプロ研修生)出身の彼女は2011年「きっかけはYOU!」でソロ・シンガーとしてデビュー、以来ハロプロの先輩達を含むグループ乱闘の中孤軍奮闘、ほとんど業界唯一の"ピンのアイドル"として活動する貴重な存在である。彼女が1980年代~2000年代のアイドル・ポップの名曲を“ボカロP”たちのサウンド・プロデュースにより、エレクトロ・ポップやデジタル・ロック・テイストな楽曲に蘇らせたのが「ボカリスト?」である。"ボカロP"とは耳慣れない名称だが音声合成ソフトのVOCALOID(ボーカロイド)を活用する人のこと。初音ミクを歌わせるプログラマーと考えれば判りやすい。
収録楽曲は以下の通り。
1. 私がオバさんになっても(森高千里)
2. 恋しさと せつなさと 心強さと(篠原涼子)
3. 風は秋色(松田聖子)
4. secret base ~君がくれたもの~(ZONE)
5. MajiでKoiする5秒前(広末涼子)
6. 淋しい熱帯魚(WINK)
7. 17才(森高千里←南沙織)
8. 抱いてHOLD ON ME!(モーニング娘。)
9. 少女A(中森明菜)
10. 夏色のナンシー(早見優)
11. 卒業(斉藤由貴)
12. LOVE涙色(松浦亜弥)
同じ事務所のアップフロントプロモーション所属歌手が多いが、名前を見るだけで誰でも顔が浮かぶ"お茶の間アイドル"の曲ばかりである。実力派として定評のあるきっかの歌とテン世代ボカロ・サウンドが融合し、耳馴染みのメロディが素直に耳に入って来る。アイドルの歌には小難しい理屈は要らない。耳に心地よく心をトキメかすマジックがあればいい。
このアルバムの発売記念公開記者会見が開催された。テレビ、新聞、雑誌などのマスコミと一緒に抽選で選ばれたファン30人がモバイル記者として参加。アルバム制作秘話や解説を紹介すると共にサプライズ・ゲストとしてWINKの相田翔子さんが登場、「淋しい熱帯魚」の振付けを指南し一緒に踊る一幕もあり、親子ほどの歳の差を感じさせない新旧正統派アイドルの共演を披露した。→レポート記事はコチラ
来年はWINKデビュー25周年である。記者からの「ぜひ二人の共演ライヴを」との声に頷いていたのが心強い。
憧れの
アイドル稼業は
永遠に
アイドルは死なず。
いつも楽しく読まさせて頂いてます。
本日は初コメントです♪
アイドルはいつの時代も良いですよね。
とても考えさせられる文でした。
ちなみに、僕はSKE48が好きです(笑)
ちゃっかり国民的アイドルになってしまったAKBとは違って、(灰野さん的にはNGワードですが)アングラな魅力が詰まっているんです。そして、熱くてパワフル!ロックなエナジーを感じます。
管理人様に質問があります。
私、管理人様より三回りほど年下なのですが灰野さんファンでして…。
ドキュメント見て完全にやられてしまいました。
でも、まだライブに行ったことはなくて、今年こそライブに行こうと意気込んでいるのですが、初めて灰野さんライブに行くなら灰野敬二単独ライブと不失者ライブのどちらがおすすめでしょうか?
初コメントありがとうございました。いつも読んでいただき感謝です。以前からブログを読まれていたならお分かりかと思いますが、私はアーバンギャルドの対バンででんぱ組.incを観るまでは現在のアイドル人気がさっぱり理解できませんでした。アーバン以降、ディアフーフ、非常階段といった前衛ロックとアイドルの対バン/共演や、BiSの強烈なPVなどに興味を惹かれてた時にきっかと出逢い今回の記事に至った訳です。私の世代ではアイドル=ソロ歌手が常識だったので改めてアイドル像の変化に着目しました。私の基準は基本的にライヴにあるので、実際にライヴを経験したアイドルに惹かれます。来週アーバンがでんぱ組.incとBiSと対バンするので楽しみにしています。
さてお問い合わせの件ですが、以前フールズ・メイト休刊の記事で書いたように、どちらがおすすめか、と尋ねられても答えようがないのが実情です。先ほどアップした単行本の記事の最後に年内の灰野さんのライヴ・スケジュールを掲載しましたのでご自分の予定に合うライヴにお出掛けください。
私が初めて観た灰野さんのライヴは小沢さんとのふたり不失者でした。凄いな、とは思いましたが、ここまで夢中になったきっかけはその後観たマゾンナとのデュオです。マゾンナに気を使ったのか不失者での鬼気迫る演奏じゃなかったので、こんな筈じゃないと確認のために次に観に行ったソロが決定打でした。
ソロでも不失者でも静寂でもセッションでもまずは一度観てみて下さい。そこでインパクトを得たならば別の編成のライヴへ足を運んでみる。徐々に見えて来る灰野ワールドの深遠に浸かるも良し、避けるも良し、ご自分の感覚次第だと思います。あとはご自由に。
今後ともよろしくお願いします。
ご丁寧なご教授をありがとうございます。
管理人様のおっしゃる通り、まずは一度本物の灰野のさんをこの目でこの耳で体感したいと思います。
私自身バンドをやっているということもあって、バンド編成でのライブに興味が深いので、六本木での不失者ライブへ参戦することにしました。