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『みなさん、さようなら』久保寺健彦、先が見えない団地ひきこもり小説の意外な収穫

2008-09-14 | books

「みなさん、さようなら」久保寺健彦 幻冬舎 2007年


友人から「意外と面白いよ」と薦められて読み始めてみた。

舞台は団地。ひたすら団地の中。時代は昭和40年代か50年代あたりから始まる。

小学校を卒業したら、「中学に行くのは時間の無駄だ。読んで、書いて、計算する力なら、これまでの学習で身についている。その三つの力があれば、生活する上で不自由はしない。おれは成績優秀な方だったし、もっといろんなことを勉強したい。でも自分でやった方が能率がいい。理解力がまちまちな生徒とごっちゃにされ、三年も我慢しなきゃいけない理由はない」とのことで中学には行かず、団地内から出ない主人公、悟。

極真空手の大山倍達に感化され、腕立て伏せどころか指立て伏せまで出来るようになるほど激しくトレーニングをする日々。団地内のケーキ屋に勤め始める日々。団地から出なくても始められた恋愛。一年一年と同級生たちが団地から出てゆく。老朽化が進む団地。

相当の変わり者である悟に感情移入するのは難しい。しかし、どうして団地から出ることが出来ないのかを知ると、悟に同情するようになった。

特にジェットコースターサスペンスでもなんでもないのに先が全く読めない不可思議な小説。タイトルの「みなさん、さようなら」は深い意味もあるかも知れないが(それは読む人が勝手に付加するものだろう)、表面的には幼稚園、保育園なんかで子供たちが先生と挨拶するときの台詞。そう言えば「せんせい、さようなら。みなさん、さようなら」と言っていたっけ。






みなさん、さようなら
久保寺 健彦
幻冬舎

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