「ソウル・コレクター」ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋社 2009年
THE BROKEN WINDOW, Jeffery Deaver 2008
リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人の容疑で逮捕される。しかし何かがおかしい。証拠が揃いすぎているのだ。アーサーの妻から依頼されリンカーンはこの事件を調べ始める。すると同様に証拠が揃いすぎて、無実の罪を着せられている可能性のある事件が見つかる。どのようにしてこれほどまでに完璧に証拠を偽装することが可能なのか。動機は何か。リンカーンが事故にあった後、全く会いに来なかったいとことの過去の経緯。アメリア・サックスはじめお馴染みのキャラクターが駆け抜ける。
いやいやいや。圧倒されてしまった。ディーヴァーらしくないのかも知れないが、近未来が描かれている。ネタバレしない程度にしておくと、監視社会が一つのキーワードになる。本書の448頁は、その概要がついに明らかになる瞬間で、その頁を開いた瞬間思わずのけぞってしまった。震えてしまった。楽しみたい方は決してその頁を読む前に開かないように。
やや哲学的、あるいはパワーポリティックス的な側面を持つ。支配者とは武力で支配していたのが、知識の力で支配することに変わっただけで支配する者が持っていて支配される者が持っていないモノが存在するという構造には変わりがないのだね。
原題のTHE BROKEN WINDOWとは割れ窓理論という社会学の言葉だそうだ。例えば、スラム化してしまった団地の荒廃を根本から変えることは難しいが、しかし割れた窓を直すことで、それが住民のモラルを向上させたり、近隣の見る目が変ったりしていって結局それがスラムを変えていく方向にあるというような考え方。なぜそのようなタイトルなのかは読んでみてのお楽しみに。参照 Wikipedia
人間個人にとっても、根本から性格を変えるとか根性を根っ子から変えるのは困難だが、割れた窓を繕う事から始めていってそれが実は長い眼で見て根本を変えることに繋がってゆくの「かも」知れない。
本書でリンカーンの高校生時代のエピソードが明らかになる。なんと言ったらいいか。うん。分かるって感じ。後になぜアーサーと不仲になるのかその経緯は何とも暗くそして興味深い。邦題の「ソウル・コレクター」はディーヴァー自身が指定したタイトルだそうだ。確かに「割れた窓」とか「ブロークン・ウィンドウ」よりは過去の「ウォッチメイカー」と揃っていてよいタイトルだと思う。ソウルを集めるとはどういう意味なのか、段々と分かってくると、面白くかつ背筋が凍る。
そして終盤、リンカーンを含む捜査メンバー全員に危険が迫ってくる・・・
ジェフリー・ディーヴァー「クリスマス・プレゼント」のまえがきから自分のブログを考える
「ウォッチメイカー」ジェフリー・ディーヴァー、翻弄されるということ
「スリーピング・ドール」
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ますます読みたくなりました。
続き物ではないですが、
以前のリンカーン・ライムを読んだ上での方がより楽しめます。
先週の日曜日1日かけて読んじゃった。
しかし、無力感があるなあ、すべてを記録されているのか、あのエッチなサイトでダウンロードしたあれも、これも、それからカードで支払ったあの店もばれちゃうのか・・・
現金払いって面倒なのに、身を守るためにはそれしかないのか
バレテモ怒る人いないから良いんだけど、でも知られたくないことあるけど、隠せないんだね
いやいや一日で読んじゃいましたか。
それはよっぽど面白かったのでしょう。
監視社会というのは両刃の剣であって、結局どうなのでしょう。
監視カメラがあれば、何かあったときに記録してくれているし、
容疑者の逮捕に結びつくというメリットがあるし、
その代償として自分も常にそこに映ってしまうわけですな。
まあ昔だったら、近所の人たちによるゆるい監視があったのが
最近はなくなってしまっているようですけれども。
「ソウル・コレクター」内で描かれているのはいくらなんでも
やりすぎだとは思いますが。
まあ私はエッチなサイトなど見ないし、変な店でカード払いもしないし
関係ないって言えば関係ない・・・(本当か?)