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『スリーピング・ドール』ジェフリー・ディーヴァー

2008-11-02 | books



「スリーピング・ドール」ジェフリー・ディーヴァー 文芸春秋 2008年
The Sleeping Doll, Jeffery Deaver 2007

「ウォッチメイカー」でリンカーン・ライムの協力をしたキネシクス分析官のキャスリン・ダンス。チョイ役だった前作から彼女を主役に持って来たスピンオフ作品。

終身刑で重警備の刑務所にいた、カルトのリーダー、ダニエル・ペルが逃走する。彼捜索の指揮をとるのは逃走の直前まで彼を審問していたキャスリン・ダンス。何人も殺害した、人の心を操る天才のペルと人の嘘を見破るキネクシスの天才ダンスの丁々発止の闘いの行方は?

キネシクスを辞書をひくと「動作学」と載ってる。

kinesics: The study of nonlinguistic bodily movements, such as gestures and facial expressions, as a systematic mode of communication.(拙訳「動作学」:非言語的な肉体の動きに対する研究、例えばジェスチャーと顔面表現やコミュニケーションの組織的な方式)

いやいや。これは一気読み。どうやってペルが脱走するのか?それが初っ端なんだがそこから「どうやって」「どうなる」の連続。ディーヴァーには常にtwistを常にひねりを常にどんでん返しを期待してしまう。この過重な期待を裏切らないのは相当難しいことと思う。しかしさすがは現代最高のストーリー・テラーのディーヴァー。期待を裏切らない(今作品が量産されているわけじゃない人を入れると、フィリップ・マーゴリンやスティーブ・マルティニが同じくらい高いレベルのストーリー・テラーだと思う)

どんでん返しの驚きはもう感覚が麻痺してしまったのかディーヴァーの初期作品を上回るほどの「イスから落っこちる」感覚まではいかない。でもがっかりするわけでもない。

リンカーン・ライムシリーズが物理的な証拠を執拗なまでに追いかけることに意味を大きく持たせているとすれば(CSIシリーズよりしつこい)、この「スリーピング・ドール」は人間が嘘をつこうとすると外に表れる表情や視線の方向、仕草など、嘘を科学的にアプローチして暴くキネシクスを大きくフィーチャーしている。やや非科学的かな、と思いつつ読んでいたら、巻末の著者あとがきのなかに
"Principles of Kinesic Interview and Interrogation"  Stan B. Walters




といった参考書があげられていた。未読だが科学的らしい。日本語訳が出そうにないので、原書で読んでみようか。原書といえば、ディーヴァーのめっちゃ面白かった短編集「クリスマス・プレゼント」は原題をTwistedというのだが、その続編More Twistedがずいぶん前に出てるのにいまだに翻訳が出る気配がない。日本の洋書屋やアメリカに行ったときに何度となく買おうと思った。しかし俺が原書を買うとそれから数日の間に翻訳が近々出るというニュースが入ってくるという経験を何度もしているので、まだ買ってない。しかし今年ライム・シリーズの最新刊 The Broken Windowが出版され、今年末にはシリーズ外作品のThe Bodies Left Behindが出版されるという。そうなるとMore Twistedの翻訳出版は後に回されるだろうから、ここは原書で読んでおこうかな。

などと池田真紀子さんの訳者あとがきを読んで思った。読みやすさ、原著のリズムをくずさないなどの理由で現在好みの翻訳はこの池田さんや東江一紀氏、上岡伸雄氏あたりだろうか。

おっと脱線した。

はなしを「スリーピング・ドール」に戻そう。読んでいる間、この事件のタイトルがスリーピング・ドールであるのはいいとしても、なぜ本のタイトルにまでなっているのか引っかかっていた。しかしやはりきちんと意味はあった。たぶんこういう理由からだろうという予想は完全に裏切られた。

途中で怪しいと思った登場人物が結局そうだったというのがたった一つだけの瑕疵。それ以外98点の出来であった。

人を操る方法、カルトを動かす心理的な理由など人間の心について色々考えさせてくれた。今年の秋は収穫が多くて本読みとしてはうれしい。





「ジェフリー・ディーヴァーの『クリスマス・プレゼント』のまえがきから自分のブログを考える」
「『ウォッチ・メイカー』ジェフリー・ディーヴァー、翻弄されるということ」
「ソウル・コレクター」に圧倒されたぜ




スリーピング・ドール
ジェフリー ディーヴァー
文藝春秋

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今日の教訓





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え?寝てるバナナ?
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6 コメント

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どんでん返しが無かった (つけめんデリック)
2009-01-06 04:29:18
生存者の少女=スリーピングドールがあんまり事件解決に関係してないような、、。

ダンスの嘘発見能力も捜査にはあまり役に立たなかった。

ケロッグのラストの展開をにおわす伏線が見当たりません。

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色々な意見 (ふる)
2009-01-08 19:28:13
★つけめんデリックさん、

面白いHNですね。
正直に申し上げれば
少女が事件解決に関係していたかどうか
全く記憶にありません。すみません。
ダンスの能力と捜査の進展についての関連も同様ですが
少なくともダンスの能力がこの小説の面白さと
おおいに関連あったことは記憶にあります。
しかし意見は違っているからこそ
面白いですね。
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こんにちは~♪ (ミチ)
2009-04-15 08:46:08
前半を4日くらいかけてチンタラチンタラ読んでたのですが、後半は一気読みでした。
私は「ウォッチメイカー」の方が好みだったかな。
といっても、この作者の本はこれで3冊目なので偉そうなことは言えないのですが・・・。

キネシクスに長けた人と恋愛するのは大変だな~と思いましたよ。
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こんにちは (ふる)
2009-04-15 13:23:30
★ミチさん、

たぶんディーヴァーの作品は全部読んだと思います。
例えば、万城目学だとプリンセス・トヨトミはいまいちなので
鴨川ホルモーと鹿男どっちが面白いと思う?なんて
話で友人と盛り上がったりするのですが、
ディーヴァー作品はどれが面白いと甲乙をつけるのが
私には難しいです。基本的にどんでん返しモノが好きなので。

TMネットワークの木根さんが六人いると、

木根シックス・・・ すみません。
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ディーヴァー作品はどれが面白いか (つけめんデリック)
2009-05-29 00:17:23
コフィン・ダンサー
ウォッチ・メイカー
魔術師

の3つ
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ディーヴァー作品 (ふる)
2009-05-29 13:33:28
★つけめんデリックさん、

どれも面白いですね。
短編集ではありますが「クリスマス・プレゼント」を追加したいところです。
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