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『わが盲想』モハメド・オマル・アブディン

2013-06-11 | books
スーダンで1978年に生まれた青年アブディンは、網膜色素変性症でほぼ視覚を失っていた。大学の法学部に籍はあったものの内戦のために大学は閉鎖されていた。そんなときに耳にした日本への留学の話。試験に合格すれば日本の盲学校に入り鍼灸の勉強ができるというのだ。日本に興味があったわけでもなく鍼灸に興味があったわけでもないのに、なぜか合格しやって来た最果ての国、日本。難しすぎる日本語、点字、学科の勉強、日々の暮らし… 目の見えないアフリカ人が日本で猛勉強しながらのし上がっていくどっかで読んだことのあるストーリーかというわけでもなく…

あらすじだけを見ると、アフリカ人アブディンを日本人に置き換えれば、乙武君の「五体不満足」や大平さんの「だから、あなたも生き抜いて」(どっちも古いなー)のような、強烈な苦労話と同じような感じがしてしまう。

確かに、苦労話はあるものの、独特のユーモアと率直すぎる描写と自己分析がある。それによって「日本における外国人サクセスストーリーに見せかけた、考えさせられることの多い日本人論+すごーく笑える自叙伝エッセイ」になった。いや、おいおい、こいついったいこの先どうなるんだというドキドキ感が加わるので、「+アブなくない冒険小説」もプラスしておこう。

盲目の彼がどうやって執筆しているか、どんな顔をした人なのかは、以下のインタビュー動画で。



このアブディンのことは高野秀行氏の「異国トーキョー漂流記」で以前読んだ。目が見えないアフリカ人がラジオで野球を知りそして広島カープのファンになったとのこと。(私も広島カープのファンであるという共通点がある。やはりいい男というのは万国共通の…)

彼は必ずしも頑張り屋というわけではなく、サボり度の高い男であるともきちんと描かれる。(イスラム教徒のくせに、酒飲みやがった…この辺りも私と共通…)

「わが妄想」というタイトルがすごくうまい。あと10年もしないうちに重松清とかあさのあつこの「バッテリー」のような教科書に載るのではないかと(そんなことはないと思うけど)思うほど、いつまでたっても面白いと思える普遍性がある。

読みやすさと都合の悪いことを隠さない率直さ、そして何より自分の内面にをじっくりと迫った描写力によって、ここ10年読んだエッセイの中ではナンバーワンクラス、今年上半期に読んだ本全体の中でもベスト級だと思う。

では、また。

「わが盲想」モハメド・オマル・アブディン ポプラ社 2013年

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2 コメント

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Unknown (midori)
2013-06-11 14:38:28
ふるさんこんにちは。
私も高野さんのブログを拝見させていただいて発売される事を知りました!
大好きな『異国トーキョー』のアブディン君なのでわくわくしながら今月始めに購入しました。が、まだ読んでる本があって未読です‥ しかし!「+アブなくない冒険小説」なんて愉しくてステキなふるさんのご感想を読ませていただいたので今夜あたりきっと読み始めるのだろうと思います!
ありがとうございました。



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こんにちは (ふる)
2013-06-13 14:20:36
>midoriさん、

せっかく買ったのに、読んでいないということよくあります。
買ったという行為そのものに満足してしまうのか、
あるいは、買ったのでいつでも読めると安心してしまうのでしょうか。

>愉しくてステキなふるさんのご感想

私は愉しくもステキでもないのですが、アブディン君はとても愉しくステキで人物です。
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