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『疑心 隠蔽捜査3』今野敏

2009-04-15 | books

「疑心 隠蔽捜査3」今野敏 新潮社 2009年

「隠蔽捜査」「果断 隠蔽捜査2」に続く第三弾。アメリカの大統領来日を控え、キャリア警官の道を踏み外し大森署の署長となっている竜崎に方面警備本部の本部長にという辞令が。本来なら第二方面本部長の長谷川が就くべき職。竜崎の失脚を狙う者たちの陰謀か。アメリカから送り込まれてきたシークレットサービスは監視カメラの映像を見て羽田空港を閉鎖しろと強固に言い出す。

もう一つの軸は、竜崎の秘書代わりに送り込まれてきたキャリア女警官畠山。物事全ては論理で片付ける堅物の竜崎がなんと畠山に恋をしてしまう。その行方はどうなるか・・・

悪くない。悪くはない。軽くあっと言う間に読める。本来の今野敏作品らしい。しかしこの隠蔽捜査シリーズがずっと抱えている警察内部の隠蔽体質(あるいはそれに類するもの)が今回ストーリー内にない。登場人物だけ同じである。いつものを期待するとやや肩透かしをくらう。この手の警察ミステリに軽い読み物的エンターテイメントを期待するなら絶好の作品だし、重厚長大な物語を期待するなら佐々木譲の「警官の血」とか「暴雪圏」辺りがオススメ。そう言えば大沢有昌の新宿鮫シリーズはその後どうなったのだろうか?

疑心に話を戻して、畠山への思いについてにヒントに以下の禅の公案が出てきてこれが面白かった。


「昔、婆子あり、一庵主を供養して二十年を経たり、常に一人の二八女子をして飯を送りて給侍せしむ。一日女子をして主を抱かしめて曰く、正に恁麼(いんも)の時如何と。主曰く枯木寒巌に倚りて三冬暖気無し。女子婆に挙似す。婆曰く我れ二十年只箇の俗漢に供養せしかと。遂に噴出して庵を焼却す」
 昔、一人の老婆がおり、二十年にもわたり、一人の雲水の面倒をみていた。いつも、若い娘に食事の世話などさせていた。
 ある日、老婆はその娘を使って、雲水を試そうとした。
 娘は、雲水に抱きつき、こう尋ねたのだ。「どうです?どんな感じがしますか?」
 すると、雲水は、平然とこたえた。
 「枯れ木が凍り付いた岩に寄りかかったようなものです。真冬に暖気がないように、私には色情などまったくありません。だから、私は何も感じません」
 娘は、帰って老婆にありのままを伝える。
 すると、老婆は烈火のごとく怒り狂った。
 「私は、二十年もかけて、こんな俗物を育てていたのか」
 老婆は、たちまち雲水を追い出し、汚らわしいと言って、雲水が住んでいた庵を焼いてしまった。(256頁より引用)



若い女子に抱きつかれて平然としている方が正しいあり方ではないかと主人公竜崎は考えるのだが。




疑心―隠蔽捜査〈3〉
今野 敏
新潮社

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