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頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『アッチェレランド』チャールズ・ストロス

2009-12-28 | books

「アッチェレランド」チャールズ・ストロス 早川書房 2009年
ACCHERANDO, Charles Stross 2005

つらいつらい。つらいと思い続けながら読んだ・・・

本の雑誌ではSF評論家の二人が2009年のベスト10に入れた本書。いわゆるサイバーパンク&ハードSFである(いまだに「ニューロマンサー」を読んでいない私がサイバーパンクなどという言葉を使うのは片腹痛し。)解説は小飼弾氏が担当しておられる。彼の404 Blog Not Foundはブログを始めた頃は私のお手本だった。とても良いブログだった。今はほとんど読んでいないけど。この解説は秀逸である。なんて良い解説なんだ!と思ったのは私だけなのだろうか・・・拙レビューなど読まずに小飼さんの巻末解説を読むのを薦める。解説を書くきっかけとなったブログはこれ(とリンク貼ったのに変な所に飛んでしまう)

さて、稀少性が価値を測る基準であった古典的な経済パラダイム(アダム・スミス以降の古典派経済学のことを指すのではなく、現代の我々が頼っている経済学のことね)から、自分のアイデアをどんどん他人にあげちゃうアガルミクス(恵与経済)を実践しているマンフレッド・マックス。自分のアイデアに特許を取りそれを無償で誰かに分け与え、そして感謝の気持ちを持つ企業から飛行機代やら諸々諸経費を出してもらっているので金など使う必要がない男(なんとなく違うかも知れないけど、最初の部分を読み始めてからだいぶ時間が経つので許しておくれ。)

そんな風に金からの呪縛から逃れた未来的な男マックスに対して、泣く子も黙る米国IRS(日本で言うと国税庁)の徴税担当者の妻パメラ。彼女には彼の生き方が理解できない。夫には莫大な徴税逃れがある。生き方の違う二人(彼女の生き方が20世紀的でよろしくない、と断じることも出来ない。)パメラはある方法で妊娠をし、マックスの望まない子を産む。

アッチェレランドは3部構成になっていて、第一部=マックスの物語 第二部=マックスの子 第三部=マックスの孫(?ネタバレにならないよう?にしておく)最終的には2080年まで行き着く。我々に先にある未来って・・・

いやいやいや。最後まで読んで良かったよ。かあちゃん、良かったよ(母は死んだんじゃなかったっけ?)第二部が専門用語の嵐でつらかったのに、第三部になると私の好みの展開になる。401頁に、土星圏で博物館に行くとそこにFAQがあってそれを読むことが出来るのだ。そこを読んで、物凄い快感が背筋を突き抜けた。私個人の嗜好で申し訳ないが、もし機会があれば、この401頁から読んで欲しい。これが未来なのだ。そこから読みたいだけ読めばいい。固有名詞が出て来る。サーハンて誰やねん?リタって?もし気になるようなら、最初から嫁がいい。いや読めばいい。どっかひっかかる所がある人はこの本を堪能出来る可能性が高いからだ。

一応経済学の学徒としては、エコノミクス2.0について語らねばなるまい。恵与のそれが2.0で、それすら<新しい>と思ってしまうのに、アッチェレランドの終盤ではそれすら古いモノになってしまう。前に書いた、稀少性が価値基準になることについては異論がないだろう。物&事の絶対的な価値などこの世には存在せず、相対的な価値しかなく、それはなかなか得ることが出来ない稀少性が基になっている。イチローは類まれなる能力で多額の年俸を稼ぎ、プラチナもダイアモンドもその吉祥性が、いや稀少性が価値を高めている。しかし、その力を望めば誰でも手に入れる状況にもしなれば、その稀少性=価値はなくなる。そりゃそうだ。しかし。しかしである。だとすれば一体何が我々の価値基準になるのだろうか。フィロソフィカルな価値がそれになるのだろうか?

マルクス的言い方なら、我々が依っている価値基準も早晩古いモノになるのだろう。エコノミクス1.0は数十年(私はあと20年と見ている)でエコノミクス2.0に取って代わると思う。しかしそれすら過渡期で、エコノミクス3.0に(30年ほどで)変わると思う(マルクス的?そうでもないか)エコノミクス7.0は19世紀のモノと区別がつかなくなってる気がする(なんててきとーな物言いなんだ。お前学徒じゃねえな)ファッションの流行も景気も、そして価値基準も循環するのだ。

うーむ。そもそも経済についての本でないSF小説について語るのには変な展開になって来た。現在AM02:27しかも泥酔中。泥酔しながらPCをいじれるのはスゴイのかアホなのかよく分からない。英国在住中に観たテレビ番組ユーロトラッシュのことを「有閑生ゴミ系」と訳す酒井昭伸さんは天才と言うしかない。他にも引用しようかと付箋を貼ったりしていたんだけど、なんとなくやめておく。






アッチェレランド (海外SFノヴェルズ)
チャールズ・ストロス
早川書房

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