頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『ラスト・コヨーテ』マイクル・コナリー

2014-02-04 | books
ハリー・ボッシュは冒頭からいきなり停職中。上司のパウンズに暴力をふるったから。定期的に精神科医とのセッションに行くだけの無為の日々。1961年の事件に手をつけることにした。それはボッシュの母親が殺された事件。未解決になっている。母と一緒に売春をしていた女性、ポン引き、捜査に当たった警官を探し話を聞こうとした。どうやら大物が事件に関わっているようだ。ボッシュ自身の名前を使いたくないので、別の警官の名前を使って関係者の連絡先を調べ古い事件をつつきまわしていると、その警官の身に危険が。真相を明かして欲しくない者がいるということになる。ボッシュはフロリダに飛ぶ。そして出会い。母マージョリーの事件、その真相は…

いやいやいや。文庫解説の北上次郎さんの文章がすごくいい。ボッシュ・シリーズ全体をうまくまとめて説明してくれるだけじゃなく、このシリーズの魅力を短い文章の中で最大限花咲かせてくれている。この人の薦める本はだいたいハズレがないけれど、本作もそう。

シリーズ第一作「ナイトホークス」第二作「ブラック・アイス」第三作「ブラック・ハート」と読んできて、特にこの「ブラック・ハート」がすごく面白くて、このシリーズ読んでよかったと思った。いわば、第一作と二作は第三作までのプレリュードのようなもの。ところが、まさかもっと上があるとは。

娼婦であった自分の母親殺しの犯人探しをするとは、本人の胸中はいかばかりかと思う。知ることで救われることもあるかも知れないが、しかし知ることでボッシュ自身にとって精神的にも肉体的にも危険な目に会うかも知れない。このtherapeuticでat brinkで孤独な捜査。(なんで横文字やねん。使ってみたかったねん)

完全にボッシュに感情移入して読んでしまった。すでにやめたはずの煙草を指に挟んだ気になって、ふぅっとふかす。エアータバコしてしまった。ブルース・リーの映画を観た後は、少年たちは映画館から出ると、意味もなく電柱に向かってアチョーと叫びながらキックしてそして捻挫したというようなものだろうか。

小説というものが本当に好きな人。人間というものが本当に好きな人が楽しめないわけがない、そんな小説だった。

今日の一曲

単にラストつながりだけ。ガトー・バルビエリで「ラスト・タンゴ・イン・パリ」



では、また。

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