Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2017年06月11日 | 音楽
 ラザレフが日本フィルに戻ってきた。インキネンに首席指揮者を譲って、桂冠指揮者(兼芸術顧問)に退いてから、年2回の登場になったので、久しぶりの感がある。登場すれば、いつものラザレフだ。演奏は全力投球。聴衆とのコミュニケーションも熱い。

 1曲目はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は山根一仁。この人の演奏を聴くのは初めてだが、なかなか個性派だ。細く硬い音でメタリックな感覚の演奏をする。今回はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲だが、全然ロマン的な演奏ではない。むしろシュニトケのように聴こえる箇所があった。

 山根一仁は1995年生まれ。今年22歳だ。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を卒業して、今はドイツ国立ミュンヘン音楽演劇大学に在籍中。できることなら、この個性をそのまま伸ばして、自分だけの道を切り拓いてもらいたいものだが、さて、どうなるか。

 アンコールにイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番からマリンコニアが演奏された。終始弱音で演奏される静謐かつシンプルな曲。最後にグレゴリオ聖歌の「怒りの日」がそっと顔を覗かせる。この曲の方が山根一仁のアンチ・ヴィルトゥオーゾ的な個性に合致していた。

 日本フィルは、立ち上がりこそ不安定だったが、徐々に軌道に乗り、第2楽章の木管のオブリガートなど情緒たっぷりの演奏だった。

 2曲目はショスタコーヴィチの交響曲第5番。これは堂々たる名演だった。オーケストラは豪快に鳴るが、しかしそれは‘爆演’などではない。音がけっして粗くならず、随所に細心のピアニッシモが張りめぐらされていた。

 第1楽章は過度に悲壮にならず、また第3楽章も過度に悲痛にならず、さらに第4楽章は勝利の喜びでも、また強いられた‘喜び’でもなく、全体を通してあくまでも音楽的な枠内に収まるストレートな演奏だった。今は「証言」の(その真贋を含めた)衝撃を通り過ぎた時代になったことを感じた。

 わたしは満足し、アンコールはなくてもよいと思ったが、アンコールがあった。それもアンコールの定番の何かではなく、ロシア的な活気のある曲だった。終演後、会場の掲示を見たら、ショスタコーヴィチの組曲「馬あぶ」から「祝日」だった。ラザレフは以前、横浜定期で同組曲の全曲をやったことがある。あのときも会場は大いに盛り上がったが、今回も同様だった。
(2017.6.10.横浜みなとみらいホール)

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