Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

星ノ数ホド

2014年12月18日 | 演劇
 新国立劇場の演劇「星ノ数ホド」。ニック・ペインの原作。2012年にロンドンで初演された。風変わりな題名だが、原題はConstellations。「星座」の複数形だ。

 人が生きていく上では、無数の可能性がある。あの時あれを言っていれば……とか、あんなことを言わなければ……とか、そういった無数の可能性の偶然の結果が「今」だ、というコンセプトの芝居。

 その背景には「量子力学」がある。目では見えない分子や原子の世界。その物理学にヒントを得た芝居だ――と言われると、物理はチンプンカンプンなので、腰が引けてしまう。もちろん、そんなわたしにも理解できる芝居だ。

 でも、一風変わった仕掛けだ。冒頭の養蜂家ローランドと物理学者マリアンとの出会いの場面。二人はバーベキュー場で出会う。その出会いの場面が、何度も、しかし少しずつ違って、繰り返される。その内、別の場面が出てくる。それも何度も、少しずつ違って繰り返される。その内、また別の場面が。時間も前後する。

 頭が混乱するほどではない。むしろ様々な場面が残像となって重なっていく。夜空に輝く星座を見ているようだ。

 終わり方は唐突だ。フッと途切れるように終わる。もっと続いてほしいと思った。少なくともこの話では、マリアンが重い病気にかかる。早晩死は訪れる。無数にあった可能性の結果として、動かしがたい「今」=死が訪れる。別の星にもローランドとマリアンがいたとしても(多元宇宙論)、少なくともこの地球上のマリアンには死が訪れる。そのときこの芝居はどう見えるだろう――。

 話はそこまで行かない。上品な抒情の世界にとどまる。それがいいと思う人もいるだろう。クリスマスの季節を意識した企画かもしれない。でも、わたしには少し物足りなかった。

 ローランドを演じた浦井健治とマリアンを演じた鈴木杏には、すっかり感心した。この芝居には‘流れ’がない。絶えず元の場面に戻る。しかも少しずつ変化する。音楽にたとえれば、変奏曲のようだ。でも、変奏曲の場合は前の変奏との対比で次の変奏があるが、本作の場合は、前の変奏の第1音に戻り、途中の音に変化記号が付いて、まったく違う調性に移ったり、まったく違うリズムになったりする。よくこういう台本をマスターしたものだ。

 終演後はアートギャラリーの「ザハ・ハディド展」へ。新国立競技場問題を知りたくて。
(2014.12.17.新国立劇場小劇場)

↓ザハ・ハディド展
http://www.operacity.jp/ag/exh169/
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