Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ご臨終

2014年11月13日 | 演劇
 新国立劇場の二人芝居シリーズ第2弾「ご臨終」。これはいい芝居だ。よくできた戯曲だと思う。作者はモーリス・パニッチMorris Panych。1952年生まれのカナダ人だ。

 なにがよかったかというと、なにかが起きるからだ。芝居、とくに新作の場合、思わせぶりな展開で、なにかが起きそうで、結局なにも起きないという作品がある中で、この芝居では、なにかが起きる。取り返しのつかないなにか――。その衝撃と波紋が描かれる。それが起きて初めて見える人生がある。

 回りくどい言い方になったが、こんな言い方をしたのも、この芝居ではネタバレは厳禁だと思ったからだ。初めて観た方(わたしもそうだ)のショックと余韻を大切にしたいと思ったからだ。

 もっとも、この芝居はすでに日本でも何度か上演されている。プログラムに掲載された吉原豊司氏(今回の上演に当たっての翻訳者)のエッセイ「モーリス・パニッチの劇世界」によれば、2006年以来すでに3団体が上演している(原作は1995年カナダ初演)。

 なので、この芝居は、結末を知っていても、十分楽しめる芝居なのだろう。結末を知っていても、それなりに、また別の楽しみ方(=味わい方)があるのだろう。

 一晩たった今も、わたしはまだ余韻の中にいる。「老婆」はなにを思っていたのだろう。「中年男」は今、なにを思っているのだろう。「向かいのおばあさん」は、もしかしたら、分かっていたのだろうか。それぞれの無念さと、満ち足りた想いと、その他いろんな想いがないまぜになって、わたしの中でこだましている。

 中年男は温水洋一(ぬくみず・よういち)、老婆は江波杏子(えなみ・きょうこ)。2人とも名優だ。2人の名優の味わい深い演技――、それがこの公演を性格付けている。言い換えるなら、俳優が替われば、芝居の印象はそうとう変わるだろう。

 中年男と老婆の反応のよさは、2人の名演のためであるが、同時に演出のノゾエ征爾の力量でもあるかもしれない。まだ若い演出家だが、ニュアンス豊かで、切れ味のよい、一種の敏感さが、舞台から感じられた。ノーブルな感性というか、筋のよさが感じられた。

 BGMにジャズやスタンダードなポピュラー曲が静かに流れていた。それらに耳を傾けることも楽しかった。老婆が若い頃に聴いていた曲だろうか。作者のパニッチと同世代であるわたしにも、懐かしい曲があった。
(2014.11.12.新国立劇場小劇場)
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