京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
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教科書によく出るシリーズ  『伊勢物語』筒井筒 (改訂版) その1

2023-02-02 08:01:28 | 俳句
教科書によく出るシリーズ  『伊勢物語』筒井筒 (改訂版)
その1
 昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとよりかくなむ。
筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに
女、返し、
  くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれかあぐべき
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。

【口語訳】
 昔、田舎で生計をたてていた人の子どもが、井戸の近くに出て遊んでいたのを、大人になってしまったので、男も女もお互いに恥ずかしく思っていたけれども、男はこの女を自分のものにしたいと思っている。女はこの男を(夫にしよう)と思いつつ、親が(他の男と)結婚させようとするけれども、言うことを聞かないでいた。さて、この隣の男のところから、このように(歌を贈ってきた。)
 井戸の筒で比べた私の背丈が過ぎてしまったらしいな。あなたが私を見ない間に。(私は立派に成人しましたよ。大人の男女として一回お目にかかりませんか。)
 女が、返歌(を贈った。)
 あなたと比べてきた私の子ども時代の髪も肩を過ぎてしまった。あなたのためでなくて誰のために私の成人式である髪上げをしようか、いや、あなたのためです。(大胆な愛の告白)
などと言い合って、ついにもとの希望のように結婚してしまった。
【語句の意味】
・田舎 ここでは具体的に述べられていないが、後の「竜田山」の和歌より、大和が舞台だと思われる。
・わたらひ 「生計をたてること」
・もと 「近く」「所」
・恥ぢかはし お互い恥ずかしく思い お互い異性として意識するようになったんですね。
・あはすれ 結婚させる
四段動詞「あふ」未然形+使役助動詞「す」已然形
「あふ」は結婚するの意味。女性は異性と会うようなことをしないのが、平安時代のルール。じかに会えるのは、恋人以上の関係。
・こそ得め 「自分のものにしよう」 「こそ」はきつい強調の係り助詞。「得」は「自分のものにする」。「め」は意志の助動詞「む」の已然形で結び。
・聞かで  「聞かないで」
 「で」は未然形接続で、「ないで」の意味
・かくなむ 「このように」
      「なむ」は強調の係り助詞 下に「歌を贈りける」ぐらいの語句の省略。
・筒井筒井筒 「井戸の筒」
 この時代の井戸は集落で共有して使っていた。現代みたいに各家庭に水道の蛇口なんてないよ。広場のような感じのところにあったようで、人々の交流の場にもなっていた。『餓鬼草子』なんかに絵が出てくる。子どもの遊び場にもなっていたようだ。
 なお、平安時代のルールで、お付き合いをしたい場合はまず和歌を贈る。それに対して、返歌(返事の和歌)を贈り、恋が深まっていく。
 ちなみに、このお話がもとになって「筒井筒」とか「たけくらべ」は「幼なじみの恋」の代名詞になってしまいました。
・かけしまろがたけ 「比べた私の背丈」
 「かけ」は下二段動詞「かく」連用形 比べる 「し」は過去助動詞「き」連体形
 「まろ」は「私」の意味 「おじゃる丸」という漫画で、主人公が「まろ」って言ってたでしょ。「たけ」は「背丈」
・「な」で切れている。四句切れ。
・妹 「いも」と読む。「あなた」 男性が好きな女性を呼ぶ時に使う。女性が好きな男を
呼ぶ時は「背」。
・返し 「返歌」
・振り分け髪 子ども時代の髪型。肩あたりで切りそろえる。成人が近づくと、髪を切らず に伸ばす。女性の成人式は「髪上げ」と言う。髪を結い、裳(スカートの一種)着をする。男は初冠(うゐかうぶり)で冠をつける。
・肩過ぎぬ 「肩を過ぎてしまった」 「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形。ここで句切れになるので、三句切れ。
・たれかあぐべき 「誰のために私の髪上げをするのでしょうか、いや、あなたしかいません」
「たれ」は「誰」。 「か」は反語係り助詞。「あぐ」は「髪上げをする」。「べき」は推量・意志の助動詞「べし」の連体形で結び。
 男に成人式の「髪上げ」をさせるんですよ。普段だったら女性は異性に顔も見せない時代。「髪上げ」「裳着」など、男が身近に行かないとできません。そうなってもいいよというOKの意志表現ですね。
・本意 「ほい」と読む。「もともとの希望」の意味。
・あひにけり。「あひ」は「結婚する」。「に」は完了助動詞「ぬ」連用形。「けり」は過去助動詞「けり」終止形。「にけり」パターンはほぼこれです。

 ※こうして結ばれた二人ですが、人生いろいろ。この二人にも波乱が訪れます。それが後半。