ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR九州、いっそうの無人駅化促進 ローカル線の廃止についての議論も開始か

2017年10月05日 23時42分00秒 | 社会・経済

 朝、電車の中でYahoo! Newsを見ていたら、「〈JR九州〉駅無人化を5年で推進 県庁所在地近郊で」という毎日新聞社の記事が取り上げられていました。同社では10月5日8時22分付となっておりますが(https://mainichi.jp/articles/20171005/k00/00e/020/164000c)、私は毎日新聞社の会員でないため、ログインして続きを読むことができません。そこでYahoo! Newsのほう(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171005-00000008-mai-bus_all)を参照します。

 このブログでもJR九州の無人駅化推進の動きは何度か取り上げています。直近では「大分市内の駅でも無人駅化が進められるか」(2017年9月2日11時41分29秒付)です。大分県内で比較的利用客の多い駅でも無人駅化する意向については、大分県などから反発の声が出ているようですが、JR九州は既に香椎線にSSSなるシステムを導入し、香椎駅と長者原駅を除く全駅を無人駅化しています。これを大分県にも導入しようという話なのですが、話はかなり大がかりなものでした。

 上のYahoo! Newsの記事、ということは毎日新聞社の記事ですが、毎日新聞社がJR九州の青柳俊彦社長へのインタビューを行ったようで、それをまとめた記事となっています。

 JR各社の中で、九州、四国および北海道は三島会社と言われ、国鉄がJRへの移行を見据えてこれらの会社向けの車両(キハ54、キハ31など)を導入するなどの配慮もしていました。東日本、東海および西日本と比べて、明らかに経営基盤が脆弱であったためです。もっとも、三島会社の中で九州は業績がよく、新幹線も営業するようになり、株式も東京証券市場第1部になったほどです。これは鉄道事業自体が好調であるからではなく、他の事業が好調であるが故です。むしろ、鉄道事業はかなり追い詰められたような状態になっています。

 これまで、JR各社が在来線の利用状況をあまり公開してこなかった姿勢に疑問を持たざるをえないことは、このブログで何度か記してきましたが、JR九州についても同じことが言えます。気がついた時には手遅れだったという状況が日本のあちらこちらで繰り返されてきたからです。2016年度の、財再選の路線別・区間別の利用状況は、今年の7月に公表されており、路線・区間によっては1987年度(JR各社が発足した年度)と比較して8割も利用客が減少していることも明らかにされました。青柳社長もこの点に触れ、鉄道を残すか、路線バスなどに転換するか(記事では「軽微な交通機関の方がいいのか」と書かれています)、こうした問題などを地域で議論して欲しいと読み取れる発言をされています。路線別・区間別の収支については今後、沿線自治体に伝達されるとのことですが、遅きに失した感もなくはありません。

 SSSの導入による無人駅化の促進も、上の状況と無関係ではありません。本当かどうかわかりませんが、SSSは香椎線や筑豊本線の利用客から好評であると青柳社長は言います。今後は熊本県、長崎県、鹿児島県などの主要駅近郊での導入を図ることとなりそうです。将来には、有人駅として残るのは県代表駅などわずかなものになるのでしょうか。

 また、JR九州には、現在、複数の不通区間があります。「JR九州 列車運行情報」(https://www.jrkyushu.co.jp/trains/unkou.php)によると、10月5日の時点において次の通りです(路線別・区間別に再編しました)。

 ①豊肥本線

 肥後大津駅〜阿蘇駅(2016年4月の熊本地震による)

 ②日豊本線

 臼杵駅〜佐伯駅(2017年9月の台風18号の影響による)

 ③日田彦山線

 添田駅〜夜明駅(2017年7月の九州北部豪雨による)

 ④久大本線

 光岡駅〜日田駅(2017年7月の九州北部豪雨による) 

 いずれも、運転再開について具体的な見通しは立っていません。このためもあって、「ななつ星in九州」などが経路や区間を変更して運転を行っています。それ以上に、この不通区間をどうするのか、復旧するのか、廃止するのか、いずれを選択するのかが問われることとなります。

 話は、JR九州が連結経常損益において黒字を計上していることでややこしくなります。東日本大震災により、東北地方にあるJR東日本の路線と似たような話になるのです。鉄道軌道整備法という法律の存在が厄介なものになっている訳です。赤字を計上している鉄道会社であれば、政府の支援対象になります。しかし、被災した区間が赤字であっても、会社が赤字でなければ、同法による政府の支援対象にはなりません。JR東日本には、これに該当する別の例として只見線があります。2011年の新潟・福島豪雨で被災しましたが、今も不通区間が残っています。利用客が非常に少ない路線としても有名で、JR東日本が発表しているところ(http://www.jreast.co.jp/railway/pdf/20160324tadami.pdf)によれば、2010年度の1日あたり利用人数は370人です。これは、JR各社の路線で下から9番目です(ワーストは岩泉線の29人ですが、同線はこの時点で全線不通となっており、鉄道として営業した最後の年度となる2009年度には46人でした。下から2番目が三江線で66人です)。しかし、只見線の不通区間である会津川口駅〜只見駅に限定すると49人となり、路線バスでもどうなのかというレベルになります。そのために、JR東日本としても手をこまねいたようです。結局、いわゆる上下分離方式を採用して復旧するようです。

 鉄道軌道整備法については、黒字事業者についても政府による支援の対象としうる旨の改正を行う予定でした。しかも、それは、結局は衆議院の解散のためだけに、何らの実質的な審議も行われないままとなってしまった今秋の臨時国会に改正法律案が提出される予定だったのです。少なくとも公共交通機関にとっては、全く理も何もない衆議院解散であったとしか言い様がありません。

 JR九州に話を戻すと、不通区間でおそらく最も利用客が少ないのが日田彦山線の添田駅〜夜明駅でしょう。私も一度だけ乗りましたが、この区間にある駅はほとんど無人駅で(その時は添田駅のみに駅員が配置されていました。現在は添田駅も無人駅です)、本数も少なく、乗客も少ないという状況でした。どうやら、上記Yahoo! News掲載記事によると、日田彦山線の復旧も只見線の例を参考にする可能性があるようです。

 今回参照した記事は不通区間のみに触れていましたが、JR九州には、1980年代であれば特定地方交通線に該当するような路線または区間がいくつか存在しています。このブログでは「吉都線100周年の記事に見る、ローカル線の問題」(2012年10月5日22時54分50秒付)においても記しましたが、輸送密度、輸送人員数などにおいて、存続か廃止かの選択を迫られそうな路線が、九州にも存在するのです。吉都線の輸送密度は、1986年に1338人、2007年に576人です。同線の一日平均の利用者は、1984年に3364人、2009年に1689人となっています。この他、日南線、指宿枕崎線の指宿駅または山川駅〜枕崎駅、肥薩線などが、おそらく輸送密度、輸送人員数の少ない路線・区間でしょう。

 また、無人駅化の促進のみならず、駅の廃止も考えられるところです。本線の一部区間でありながら、ということで思い付く所があるのですが、ここに記すのは控えます。

 少子高齢化と言いますが、公共交通機関にとっては或る意味で矛盾する表現です。少子化が進めば人口も減るので、公共交通機関の必要性も低くなります(少なくとも日本では、バス事業に比べて鉄道事業は手間と費用がかかるという点に注意が必要です。また、鉄道、軌道はバスに比べて機動力などが劣ります)。他方、高齢化が進めば、自家用車の運転をする人が減ることにもなりますから、公共交通機関の必要性が高まります(ただ、これは都市への人口集中を進める必要性にもつながるように思えます)。少子化と高齢化とではベクトルが逆になっている訳で、ちょうどよい所を探し当てる作業が求められるというところでしょうか。


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