リコール

2008年12月17日 | 風の旅人日乗
[写真は、ライケル/ピュー設計68フィート艇ベラメンテ]

全長98フィートのスーパー・マキシ、ワイルド・オーツやアルファ・ロメオなど、
大型のIRCレーシング・ボートの設計で、
最近の定番になっているデザイナーが、
アメリカ西海岸に事務所を置くライケル/ピューだ。

そのライケル/ピュー設計の最新設計艇数隻に対して、
ライケル/ピュー設計事務所自身が、顧客に対して『リコール』を自主的に提出し、
船体形状の大改造を加えていることが話題になっている。

『リコール』の対象には、今年進水したばかりの68フィート艇ベラメンテ、
65フィート艇マニーペニー、
そして建造中の69フィート艇アルファ・ロメオ、タイタン、ロキも含まれているという。

[ベラメンテ。この程度の風でここまでブームを落とさなければならない、
このことが、
この艇のセーリングで起こっているアンバランスを如実に象徴しているような・・・
この程度のヒールで、すでにラダーヘッドからと思われる波が出てきている]



[一時は福ちゃん(早福選手)やポール・ケアードも乗り組んだマニーペニー]


IRCレーティングでは、船体後半のボリュームとスタビリティーは計測されない。
従って、IRCを狙う艇のスターンの幅はどんどん広くなりつつあるし、
復元力も大きく(これは、外洋に出て行くクルージングボートとしてもありがたいことだが)設計されるようになっている。

船尾の船底形状にボリュームがあり、しかも大きなスターンの艇は、
ヒールすると後ろが浮き上がりやすくなる。
艇の前後トリムがアンバランスになるのを軽減するためと、
ヒールしてラダーの根元が水面に早く顔を出すのを防ぐために、
ラダーを前に持っていく、というのが一般的な解決策とされているが、
これがベストの解決策ではないことも、
IMOCA60の開発を通して指摘されている。

IMOCA60やボルボオープン70のように、ツインラダーにするという手もあるが、
IRCレーティングでは損だと考えられていて、使われにくい。

この、船体後半部の設計に、レース成績と操船に関わる大きな欠陥があったとして、
ライケル/ピュー事務所が、いくつかの最新デザイン艇のハル形状の改造を、
自ら申し出て、上記の艇のモディファイを進めている。
過去には、建造中に更新されたIMSレーティングに最適化させるためとして、
オラクルのラリー・エリソン所有の80フィート艇サヨナラ(ブルース・ファー設計事務所デザイン)が、
進水直後に船型の大改造を行なったことがあるが、その費用はオーナー負担だった。
今回のように、設計事務所が自らデザインの不備を申し出て、
自らの費用で数艇もの改造工事を行なうことは、恐らく前代未聞のことだろう。

今回のことで、ライケル/ピュー設計事務所の設計ミスを指摘する声は少なく、
逆に、この設計事務所の姿勢と心意気が、
関係者の間で高く評価されているような空気が感じ取られる。

現在第3レグをレース中のボルボ・オーシャンレースには、
ライケル/ピューが初めて設計したボルボオープン70のグリーンドラゴンが出場している。

(photo Rick Tomrinson/VolvoOceanRace)
準備不足とトレーニング不足が気になるチームで、
レース成績としての結果は残していないが、走りそのものを見る限り、
かなりのポテンシャルを秘めている(いい走りをするときは、別のヨットかと思うくらい速いが、それが長続きしない)。
今後のどこかのレグで、艇の性能を結果にしてあげて欲しいヨットである。


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