ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

過期妊娠、過期産

2010年05月05日 | 周産期医学

過期妊娠(post-term pregnancy)
過期産(post-term deliverry)

[定義] 妊娠持続期間が満42週以上の妊娠を過期妊娠といい、妊娠42週以後の分娩を過期産という。

[頻度] 妊娠初期に超音波検査による予定日修正が行なわれるようになって、みかけ上の過期妊娠の頻度が減少し、過期産の頻度は1%前後である。

[予後]
①わが国の単胎妊娠周産期死亡率は、39 週が1.5/1,000 と最低で、40 週で1.6、41 週2.2、42 週4.3、43 週9.8 であった。
②過期産では母体の罹病率も増加する。巨大児の頻度が増加し、難産、分娩損傷が正期産に比して1.5~4 倍程度増加し、帝王切開頻度も増加する。

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・過期産において 児罹患率・死亡率が高い理由
①胎盤機能低下
②羊水過少
③胎便混濁羊水
④巨大児に伴う分娩時障害

[過期妊娠の合併症]
①胎盤機能不全 ⇒胎児機能不全
 Clifford症候群(胎盤機能不全症候群)
②羊水過少 ⇒臍帯圧迫による胎児機能不全
③胎便混濁羊水 ⇒胎便吸引症候群(MAS
④巨大児 ⇒肩甲難産、分娩時損傷

[過期妊娠の管理]
①分娩予定日が正しいかどうかの再評価:
  妊娠初期の超音波所見などを再確認
②週2回胎児well-beingの評価
③妊娠41週頃に入院管理:
 胎児心拍数モニタリング、羊水量の評価、頸管成熟度の評価、児頭骨盤不均衡の検索などを実施し、分娩の時期や方法を検討する。
a)頸管が未熟の場合:
 頸管成熟を図る努力をし胎児well-beingを評価しながら待機する。
b)頸管が成熟している場合:
 分娩誘発する。胎児機能不全があれば急速遂娩する。

・分娩予定日の再評価
①妊娠初期の超音波所見(とくに、妊娠7~10 週のCRL、12~15 週のBPD、など)から分娩予定日を再確認する。
②初期超音波所見が得られない場合は、最終月経開始日(月経不順の有無)、性交日、つわりの発現時期、基礎体温表、胎動初覚時期、子宮底長などを参考にする。

分娩予定日を誤って後方にずらして、児の予後不良を引き起こすようなことは避けなければならない。過期か正期か判断できない場合には、過期妊娠の可能性が高いとみなして対処する方が児に対する悪影響は少ない。

・過期妊娠の検査
①内診(頸管成熟度の評価)
 Bishopスコア
②胎児心拍数モニタリング:  
 NST、 VAST、 CST、BPS
③ 超音波検査:  
 羊水量の評価(羊水ポケット、AFI)  
 胎児体重の推定  
 超音波血流計測
④骨盤X線計測(Martius法、Guthmann法)
⑤羊水鏡(羊水混濁の診断)

・妊娠41 週0 日~ 41 週6 日の場合:
①妊娠41 週以降に分娩誘発すべきか自然陣痛を待つかについては歴史的な議論があり、未だ結論が出ていない。
②分娩誘発を行うことによって  
 a.本当に児の予後が改善するのか?  
 b.帝王切開率が上昇するか?
 の2点が争点となったが、必ずしも結論が出たわけではない。
③現状では分娩誘発を行うか、胎児well-being を評価しつつ待機するかは、各施設にゆだねられている。

・妊娠42週0日以後の場合:
妊娠42 週以降では児死亡率は急上昇するので、分娩誘発を行うことが考慮される。

2004 年ACOG は,「42 週以降の頸管熟化不良例では分娩誘発でも陣痛待機でもどちらでもよく、頸管熟化例では陣痛発来は待たずに分娩誘発するよう」に推奨した。しかし、わが国では、米国に比して初期超音波実施率が高く、週数の誤認の可能性がかなり低いことから、42週以降であれば頸管熟化にかかわらず分娩誘発を考慮する施設が多い。


胎盤機能不全

2010年05月05日 | 周産期医学

placental dysfunction

[定義] 妊娠中に胎盤の機能が急性あるいは慢性に低下した状態。

[原因] 母体から胎児への胎盤を通じての血液供給不足が主な原因。妊娠高血圧症候群、過期妊娠、常位胎盤早期剥離など。

[症状] 胎児機能不全、 IUGR、羊水量の減少、胎児・羊水の胎便汚染など。

[診断] NST、VAST、CST、AFI、BPS、超音波血流計測。(以前は尿中E3や血中HPLの測定)

Clifford症候群(胎盤機能不全症候群)

以前は以下のClifford徴候が過期妊娠の胎児に特有な症状と考えられていたが、これらの症状は胎盤機能不全に共通するので現在では胎盤機能不全徴候とされている。

・ しわの多い老人様顔貌
・皮膚の乾燥、表皮剥脱
・胎便による皮膚・羊水、胎盤、臍帯の黄染
・やせた細長い体型
・脱水、低体温、低血糖、多血症
・胎便吸引症候群(MAS)を生じやすい
・多くは、突然、胎児死亡を起こす。