ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

胎児機能不全(NRFS)

2010年02月24日 | 周産期医学

non-reassuring fetal status (NRFS)

【定義】 胎児機能不全(NRFS)とは、妊娠中あるいは分娩中に胎児の状態を評価する臨床検査において「正常でない所見」が存在し、胎児の健康に問題がある、あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された場合をいう。

従来から使用されていた「胎児仮死」あるいは「胎児ジストレス」の用語は使用しない。

NRFSはさまざまな病態があり得るが、この中で最も重大となる病態は胎児の低酸素症とアシドーシスであり、この状態が生じ増悪すると、低酸素性虚血性脳病変(脳性麻痺)や胎児死亡が起こりうる。

【NRFSの徴候】
(1)胎児心拍数陣痛図(CTG)では、
 ①頻発する遅発一過性徐脈
 ②高度変動一過性徐脈
 ③基線細変動の消失をともなう変動一過性徐脈
 ④心拍数基線に戻るのが遅い変動一過性徐脈
 ⑤基線細変動の消失

(2)biophysical profile scoring (BPS)では、
 スコア6点以下の場合は要注意。

 5つのパラメータ(①胎児呼吸様運動、②胎動、③筋緊張、④羊水量、⑤NST)につき、それぞれ正常であれば2点、異常であれば0点として合計し、合計が8点以上あれば問題がないと判断する。

(3)超音波ドプラ法では、
 ①臍帯動脈拡張末期血流の途絶・逆流

臍帯動脈血流における拡張期の途絶・逆流の出現は、胎児胎盤循環不全を示唆する重要な所見である。拡張期血流の途絶あるいは逆流所見が認められた胎児の周産期死亡率は極めて高率で、本所見を認める場合には厳重な胎児管理を要する。

 ②中大脳動脈の抵抗係数(RI)および拍動係数(PI)の低下
 (脳動脈における拡張期血流速度の増加)

RI、PIは測定部位より末梢の血管抵抗を反映している。RI、PIが標準より低ければ血液は流れやすくなっていることを示す。胎児の酸塩基平衡あるいは循環動態の異常を生じた児に脳血流を増加させる代償機構が働くため(brain-sparing effect)と考えられている。

(4)児頭採血では、
 胎児血液pHが7.20以下で、
 さらに、0.02/分の速度で減少
 (胎児アシドーシスの所見)

 胎児血液の基準pH:7.25~7.40

(5)胎児酸素飽和度モニタリングでは、
 FSpO2 30%以下
 (胎児低酸素症の所見)

 胎児酸素飽和度の基準値:30~70%

(6)臨床症状では、
 ①羊水の胎便汚染
 ②急激な産瘤の増大

【NRFSの原因】
①母体因子:心疾患・喘息などによる低酸素症、高度貧血、出血・仰臥位低血圧症候群などによる低血圧、子癇発作・血管病などによる血管攣縮、無呼吸など

②子宮因子:過強陣痛、子宮破裂、子宮奇形など

③胎盤因子:糖尿病・妊娠高血圧症候群・過期妊娠による子宮胎盤機能不全、常位胎盤早期剥離、前置胎盤など

④胎児因子:血液型不適合・双胎間輸血症候群・母児間輸血症候群・前置血管破裂・パルボウイルスB19感染などによる胎児貧血、未熟児、先天性心疾患など

【NRFSに対する対応】
①母体への酸素投与
②母体の静脈路確保・輸液
③母体の左側臥位への体位変換
④子宮収縮薬投与を中止して、子宮収縮抑制薬(塩酸リトドリン)の点滴静注
⑤内診
⑥急速遂娩(吸引分娩、緊急帝王切開など)

CTG所見で遷延一過性徐脈 prolonged deceleration (心拍数の減少が15bpm以上で、開始から元に戻るまで時間が2分以上10分未満の徐脈)は、母体の無呼吸・低血圧、過強陣痛、子宮破裂、臍帯脱出、常位胎盤早期剥離などで発生する。多くは胎盤の循環不全により生じるが、胎児状態がよいものから急速遂娩が必要なものまであるので慎重に判断する。10分以上の一過性徐脈の持続は基線の変化とみなす。この場合は超緊急帝王切開の適応となる。

【血流再配分】
胎児機能不全では、胎児は低酸素状態に陥っている。低酸素状態では、各臓器へ酸素を十分に供給できないため、血流再配分とよばれる代償機構が働き、生命維持に重要な臓器への酸素供給を優先させる。しかし、低酸素状態が遷延し、重症化すると、血流再配分は破綻する。この場合、低酸素性虚血性脳病変(長期的な後遺症として脳性麻痺)や各腫臓器障害、胎児死亡が起こることがある。

血流再配分によって
 血流が増加する臓器: 脳、心臓、副腎。
 血流が減少する臓器: 肺、四肢、腸管、腎臓。