ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母体搬送システムの改善はいまだ途上(埼玉県、奈良県)

2008年08月11日 | 地域周産期医療

****** 読売新聞、埼玉、2008年8月13日

足踏み 母胎搬送拠点 高リスク患者対応 県の事業

引き受け病院なく

 一般の産科病院・診療所では対応が難しいハイリスク分娩(ぶんべん)の受け入れ先を電話で探す県の「母胎搬送コントロールセンター」事業の開始めどが立っていない。県は7月から、周産期の基幹病院に助産師を配置してセンターを稼働させる予定だったが、新生児集中治療室(NICU)不足などを理由に、引き受ける基幹病院が見つからない。県は県医師会と対応を協議し、運営方針の見直しを検討している。

 県によると、コントロールセンターは基幹病院に常時1人の助産師を配置し、産科病院や診療所で切迫早産や多胎妊娠などのハイリスク分娩が発生した場合、産科医から連絡を受けて、代わりに空床を探す機関。診察と並行して受け入れ先を探さなければならない産科医の負担軽減が狙いだ。県は今年度の新規事業として、配置する助産師の人件費約1620万円を予算化した。

 県内には、最も高度な産科医療を担う「総合周産期母子医療センター」が埼玉医大総合医療センター(川越市)にあるほか、地域の拠点となる「地域周産期母子医療センター」が5か所ある。しかし、2007年度末現在、県内のNICU(準NICU3床を含む)は計68床にとどまり、病床利用率は96・6%とフル稼働の状態。

 田村正徳・総合周産期母子医療センター長によると、県内には180~200床程度のNICUが必要で、患者の約3割が東京都内に流れているという。同センターのNICUは24床で、低体重児やよりハイリスクな妊婦を優先的に受け入れているが、病床利用率は95・4%と高く、軽症患者を断るケースも多い。

 田村センター長は「コントロールセンターが当病院に設置された場合、軽症患者も引き受けざるを得なくなり、本来の役割を果たせなくなる」と懸念。「NICUが足りない現状を踏まえ、東京都などと受け入れに関する政策協定を結ぶことも考えるべきだ」と指摘する。

 近隣では神奈川県医師会が07年4月から、コントロールセンター同様の「県救急医療中央情報センター」を運営し、24時間態勢で受け入れ先を探しており、効果を上げている。

 埼玉県医師会も5月に設けた周産期・小児救急医療体制整備委員会で、コントロールセンターについて協議しており、県がオブザーバー参加している。委員からは「センターには助産師ではなく、医師を配置した方がスムーズに探せるのではないか」との意見も出ており、医師会と県は今後も、設置場所や運営方法について引き続き検討する。

(読売新聞、埼玉、2008年8月13日)

****** 毎日新聞、奈良、2008年8月9日

妊婦転送死亡:発生2年 産科医療改善まだ途上、医師や看護師不足に課題

 一昨年8月の大淀町立大淀病院(大淀町)の妊婦死亡問題を受け、県内ではこの2年、周産期(出産前後の母子双方にとって注意を要する時期)医療の改善が加速した。しかし、昨年8月には橿原市の妊婦が搬送中に死産した。医師や看護師不足を中心に残る課題も多く、体制整備はまだ途上だ。【中村敦茂】

 今年5月26日には、高度な母子医療を提供する総合周産期母子医療センターが、県内最大の医療拠点である県立医大付属病院(橿原市)に開設された。都道府県で45番目の遅い出発だったが、同病院の母体・胎児集中治療管理室(MFICU)は3床から18床に増えた。新生児集中治療室(NICU)は21床から31床になった。県立奈良病院(奈良市)でも、NICU6床の増設計画が進んでいる。

 勤務医の待遇改善にも手が打たれた。県は今年度当初予算で県立病院と県立医大付属病院の医師給与引き上げや分娩(ぶんべん)手当の新設などに2億9200万円を計上。「全国最低レベル」とされた給与水準は改善し、年間給与は産科医で約200万円、医師平均で約100万円上昇。県は過酷勤務による離職防止や欠員補充の難しさの緩和を期待する。

 県は今年2月、勤務医の少なさをカバーするため、産婦人科の夜間・休日の1次救急に、開業医らが協力する輪番制も導入。4月には参加する開業医を増やして拡充し、一定の成果を出している。出産リスクが高くなる妊婦健診の未受診者を減らそうと、今年4月から妊娠判定の公費負担制度も始めるなど、他にも多くの策を講じてきた。

 それでもなお、厳しさは続いているのが現状だ。荒井正吾知事は周産期センター開設に際し、「難しいお産も含め、県内で対応できる態勢がほぼできあがった」と語った。しかし、それはフル稼働が実現すればの話。

 センターでは看護師約20人が不足し、NICUのうち9床は開設時から使えていない。このため実際のNICU運用は22床で、従来より1床増えただけ。受け入れ不能の主な要因となってきたNICU不足の実態に大きな変化はなく、大阪など県外へ妊婦を運ばざるを得ない状況は続いているという。

 待遇改善で、すぐに医師不足が解消したわけでもない。昨年4月に産科を休診した大淀病院の再開のめどは今も立たない。県立三室病院(三郷町)でも、来年4月以降の産科医確保の見通しが立たず、今月中には新規のお産受け付けを停止する可能性が出ている。

 この2年間で実現した改善は少なくないが、医師や看護師不足など、容易でない重要課題に解決の道筋はついていない。県などは、今年度設置した地域医療対策の協議会の議論で、現状打開に向けた模索を続けている。

(毎日新聞、奈良、2008年8月9日)