弁理士の日々

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法科大学院の今後

2008-05-25 15:56:08 | 歴史・社会
5月20日の日経新聞に法科大学院の話題が報道されています。
「法科大学院 社会人入学者 3割切る」
「文部科学省は19日、2008年度の法科大学院(国公立計74校)の入試実施状況をまとめた。入学者総数は5397人で、前年度に比べ5.5%の減少となった。このうち社会人入学者は12.3%減と二ケタのマイナスで、入学者全体に占める割合は29.8%と初めて3割を切った。」
「文科省大学院室は『これまでの不合格者がたまってきており、社会人は競争倍率が厳しくなると判断しているのではないか。学費も安くなく、仕事を辞めてまで挑戦することに二の足を踏んでいる可能性がある』とみている。」
「当初7-8割と見込まれていた新司法試験の合格率が4割程度にとどまり、合格が難しくなっていることが不人気の理由だ。」
「文科省は・・・、法科大学院新設を多数認可した同省が、結果的に合格率の低下を招いたとの声も根強い。」

「声も根強い」じゃないでしょう。明白な事実です。


新司法試験の合格者数は、平成22年度には3000人まで増やす計画です(法務省のサイト)。昨年度(19年度)は1851人が合格しました。このブログでも話題にしています
一方、法科大学院は文科省が設置認可し、平成19年度現在、全国で74校(国立23校、公立2校、私立49校、総定員5,825人)が認可されています(文科省のサイト)。

総定員5825人が全員司法試験を受験し、3000人が合格するとしたら、合格率は52%となります。単純な話です。分母を本年度入学者数5397人としても、合格率は56%です。当初計画では合格率7-8割だったはずです。
(なお、法科大学院卒業生は新司法試験を3回まで受けることができます。上記の合格率は、ある卒業年次の卒業生が3回の受験をし終わったときの累計合格率を意味します。従って、未修者1回目、既修者2回目である昨年度の合格率が4割台であってもおかしくありません。また司法試験は複数卒業年次の卒業生が受験しますから、分母が多くなり、司法試験合格率は、特定の卒業年次の卒業生に的を絞った累計合格率よりは低い数値となります。)


要するに、法務省は司法試験合格者を3000人と決めているのに、文科省が法科大学院の入学人数を多く認可しすぎたのです。

私は、法科大学院卒業を前提とする新司法試験は、合格率7割以上8割程度を確保すべきと思います。勉強の実を上げるのは大学院教育に期待し、司法試験は知識の最低レベルを担保する目的に特化すべきです。今の大学医学部と医師国家試験の関係と同じです。
日本が制度を真似たアメリカのロースクールもそうです。このブログで紹介した弁理士の日野真美さんの体験記から明らかです。私がした推定で、アメリカの司法試験合格率は84%にのぼります。


新司法試験の合格者数の計画(法務省)と、法科大学院の入学定員の計画(文科省)とは、いったいどのような調整を行ったのでしょうか。まさか全く調整せずに縦割り行政で決めたのではないでしょうね。

調べてみると、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(平成14年法律第139号)という法律があるようです。
「第六条 法務大臣及び文部科学大臣は、法科大学院における教育の充実及び法科大学院における教育と司法試験との有機的連携の確保を図るため、相互に協力しなければならない。
2 文部科学大臣は、次に掲げる場合には、あらかじめ、その旨を法務大臣に通知するものとする。この場合において、法務大臣は、文部科学大臣に対し、必要な意見を述べることができる。
 一 法科大学院に係る学校教育法第三条に規定する設置基準を定め、又はこれを改廃しようとするとき。
 二 法科大学院の教育研究活動の状況についての評価を行う者の認証の基準に係る学校教育法第六十九条の四第三項に規定する細目を定め、又はこれを改廃しようとするとき。
 三 学校教育法第六十九条の三第二項の規定により法科大学院の教育研究活動の状況についての評価を行う者を認証し、又は同法第六十九条の五第二項の規定によりその認証を取り消そうとするとき。
3 法務大臣は、特に必要があると認めるときは、文部科学大臣に対し、法科大学院について、学校教育法第十五条第四項の規定による報告又は資料の提出の要求、同条第一項の規定による勧告、同条第二項の規定による命令その他の必要な措置を講ずることを求めることができる。
4 文部科学大臣は、法科大学院における教育と司法試験との有機的連携を確保するため、必要があると認めるときは、法務大臣に対し、協議を求めることができる。」

文部科学大臣さんと法務大臣さん、どうかお願いしますよ。
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6 コメント

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Unknown (Unknown)
2008-05-28 12:57:57
力強いご意見、ありがとうございます。
法科大学院は、もう処置なしのところまで来ています。高額な授業料を支払わせながら、学生の理解度を無視し、とにかく予備校と違う授業をすればOK、理解できないのは学生の不徳だからバンバン落第、というやり方を「法科大学院の理念」と称して肯定し、都合の悪い理念は「産みの苦しみ」などといって誤魔化す法科大学院側。彼らは、法科大学院制度を無理矢理にでも定着させてしまえばいいという考えです。加えて、既得権死守のため合格者抑制を主張する職能団体に引っかき回され、お役所は知らん顔・・・。しわ寄せは全て学生に負わせればよい、というのが現状です。結果、適性試験(DNC)の志願者数(=入学希望者数)は下がり続け、来年は13000人台、実際に受験するのは11000人台でしょう。この数は、法科大学院一期のときの1/3、二期でも1/2という人数で、国民がNOを突きつけたも同然です。制度改革をするに当たり、国民にこのような重い負担をさせずとも、他に選びうる手段はいくらでもあります。端的に言えば、旧試験に戻し、合格者を4~5000人としても十分質は保てますし、同時に競争が促進されてサービス向上、国民も大喜びです。他士業の方には、科目免除制を導入するのもよいでしょう。ただ、後始末として、だまし討ちにした法科大学院一期、二期生には、損害賠償を支払う必要がありますが!
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法科大学院の現状 (ボンゴレ)
2008-05-28 21:24:21
Unknownさん、コメントありがとうございます。

私は法科大学院の現状については知らないのですが、もう処置なしのところまで来ているのですか。
ロースクール生の方のブログを2つほど閲覧していますが、訳の分からない講義しかしない先生とか、いろんな先生がおられるようですね。もちろん優秀な先生もいらっしゃるようですが。
ロースクール入学者の5割近くは最初から司法試験に受からない構造になっているわけで、その受からない側に入った卒業生たちはいったいどうするのだろうか、と心配になります。

ドタバタ劇で法科大学院制度を作ってきた印象があります。そのドタバタの中で裁判員制度も創設されましたが。

日本は司法の場をどのように活用していこうとしているのか、そのためには司法試験合格者が毎年何人必要なのか、その合格者をどのような教育で育成していくべきか、真摯な議論を期待したいです。
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Unknown (Unknown)
2008-05-31 13:49:51
ところで、日本の司法をどのように活用していこうかということを考える場合、司法試験合格者の人数は実は大して重要ではないのではないか、という疑問もあります。。というのは、弁護士資格を得たところで就職先を探すのが一苦労という事態が生じているからです。

一説には、大部分が個人企業同然の既存の法律事務所業界では、毎年1500人程度の新人弁護士しか吸収できないのではないか、と言われています。弁護士会はここ2年間、トップダウン式で修習生の就職斡旋に尽力してきましたが、そのような無理して受入先を探す状態は長続きしないように思います。

合格者が毎年2000人であったり、3000人であったり、あるいは4000人、5000人である場合に、司法研修所を卒業した新人弁護士たちをどこで受け入れるのか、企業なのか、官庁・地方自治体なのか、あるいは彼らは即独立すべきなのか、そろそろ真剣に考える必要があると思います。ボンゴレさんのような社会人経験豊富な方が満を持して事務所を開かれるのであればともかく、新卒の学生と大差ない大部分の新人弁護士にいきなりの独立開業は厳しいだろうと思われますが…

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適正な合格人数 (ボンゴレ)
2008-05-31 22:33:27
法務省が最終的合格人数を3000人と決めたときも、毎年生まれてくる3000人の新人修習生をどのように受け止めるか、明確な計画を持っていなかったのでしょうか。半分程度は企業が受け止めると楽観的に考えていたのかもしれません。

今になって、法務大臣が「3000人は多すぎる」などと不規則発言を行っていましたが、既に勉学に勤しんでいる法科大学院生の気持ちを何と思っているのでしょうか。
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Unknown (Unknown)
2008-06-02 19:46:48
上の者です。法科大学院生の気持ちも分かるのですが、とはいうものの、一方で、彼らも自営業者への道を踏み出した人たちであるので、就職難の時代の一般的な大学生のように同情的にみるわけにもいかないという気もします。

司法試験の合格者数や法科大学院の学生数は決して将来の自営業者としての職を保証するものではないので、彼らも自身のリスクで飛び込んだと言わざるをえないのではないでしょうか。法務省や文部科学省が業界動向や実務法曹の需要をきちんと把握できるわけもないのですから。。(さらにいえば、もともと法務省は3000人に積極的に賛成していたわけではなかったように思いますし…)
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法科大学院生の覚悟 (ボンゴレ)
2008-06-03 18:28:06
Unknown(上の者)さんのおっしゃることももっとも思います。
一方、大学院生ということは基本的にまだ社会人経験を持たない学生が7割以上ですから、あまり厳しい覚悟を求めるのも酷に思います。

医学部の入学定員については、医療費削減のため、厚労省が厳しく定員を抑えています。こちらについては文科省も厚労省に追随しています。それが一因で、医療崩壊が起こりつつあると私は認識していますが。

学生に酷であるかどうかという観点を離れても、制度設計として、司法試験合格者数、法科大学院入学定員のいずれも、社会のニーズ、受け入れ体制の双方を勘案して定めるべきと思います。
社会のニーズ、受け入れ体制に基づいて司法試験合格者数を決め、その人数に基づいて法科大学院入学定員を決めるべきです。
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