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高橋洋一著「この経済政策が日本を殺す 日銀と財務省の罠」

2012-04-20 22:24:14 | 歴史・社会
この経済政策が日本を殺す 日銀と財務省の罠 (扶桑社新書)
高橋洋一
扶桑社
高橋洋一氏の持論は、「変動相場制のもとでは、財政出動は効かない。日銀による金融緩和が必要である」というもので、常に一貫しています。この本でも同じ持論が展開されています。
出版されたのは2011年6月、1年前です。最近になって読んで見ました。

驚くのは、この著書の中での発言が、出版後のこの1年間の事象を見通しているかのようである点でした。
『金融政策はわかりにくい。たしかに、金融政策によって実質金利が下がり投資が盛んになるには、6ヶ月以上時間が必要だ。わかるころには6ヶ月前に実施された金融政策なんて忘れてしまうだろう。
しかし、今の円高株安デフレでは、金融政策の効果はわかりやすい。というのは、為替相場は、金融政策の変更にすぐに反応し、それが株式市場にも伝わるからだ。』(51ページ)
今年2月、日銀が「インフレ目途(goal)1%、当面10兆円の追加緩和」を発表した途端、ドル円で円安トレンドが始まり、日経平均はうなぎ登りとなりました。高橋氏はこの現象を予言したかのようです。

日銀の白川総裁は、32年前に日銀の研究誌に「マネタリー・アプローチによる国際収支・為替レートの実証分析-わが国のケースを中心に-」という論文を寄稿しているそうです。
『この白川総裁の論文は、今でもかなり妥当している。日銀がいくら緩和したといっても、為替に対しては米国との相対的な関係が重要だ。そうであれば、今は市場がおとなしいが、いつ何時、再び円高へ向かうかもしれない。』(53ページ)
この本が出版されたほんの一月後、去年の7月に、為替レートは突然円高に振れ、その後の超円高と超株安が発生しました。高橋氏はこの現象を予言したかのようです。

『先進国の変動相場制のように市場が決める為替相場であれば、その制度の下で国内対策として金融緩和をして為替が安くなっても、それは市場で決まったのだからいいが、政府・通貨当局が為替相場に介入すると、それは市場が決めるとはいえないのでダメということだ。つまり、変動相場制下での金融緩和による通貨安はセーフだが、為替介入による通貨安はアウトとなる。』(64ページ)
去年秋に政府・日銀が為替単独介入して一時的に円安となりましたが、直後に元の円高に戻ってしまいました。このときは各国から冷淡に見られたと記憶しています。一方、2月の日銀による金融緩和の発表については、どこからも非難は出ていません。まさに高橋氏の予言通りです。

先日、日銀の審議委員人事が参議院で否決され、話題となりました。
この著書には「日銀審議委員はこう決まる」とのセクションがあります。
基本的には財務省事務方がリストを作り、最終的には官房長官のところで作成するといいます。事務方は、一般的には各省での審議会などの活動実績によってリストを作ります。各省審議会委員の中で、長い間に選別が行われ、結果としては役人に「理解」があり、役人がコントロールしやすい人の方が残ります。
日銀審議委員6人を出身別に見ると、2ポストは学者出身、2ポストは産業界出身、1ポストは金融界出身で固定化しています。学者枠の中には女性枠が一人あります。
今回否決された河野氏は、どのような位置づけだったのでしょうか。

さて。高橋氏はこの本の中でさらにどのような施策を提言しているのでしょうか。
『経済分析を使うと、もし1ドル=100円程度にしたければ、FRBのバランスシートが一定との前提の下で、日銀は30~40兆円の量的緩和を行えばいいことがわかる。』(52ページ)
2月に10兆円の追加緩和を発表しましたから、あと20~30兆円が必要ということですか。

『「納税者番号制度」と、納品書への税額記載を義務付ける「インボイス方式」を導入すれば、税務効率が高まり、所得税と消費税で数兆円規模の税収増があるだろう。これは、税務署長をしていた私の直感である。先進国では、納税者番号制度とインボイスは当たり前で、日本だけが導入せず、不公平税制になっている。これらは、どのような税制度を作る上でも必要であるので、増税議論の前に行うべきである。』(85ページ)

『私は財政再建の必要性について人後に落ちない。本当に必要なら増税も仕方ない。しかし、名目成長率が4%にならないで増税したら経済がダメになって財政再建もおぼつかなくなる。財務省の財政再建は名目成長率が上がる前に増税するという経済理論無視の下策た。』(105ページ)

財務省からの資料に基づくと、「名目成長率が上がると財政破綻する」ことになるそうです。
『ところが、名目成長率が1%アップすると、時間が経過すればするほど税収は大きくなる。数年経つと6兆円以上増える。財務省の資料は、3年までしか計算せずに利払い費が税収より大きいところだけしか見せないのだ。
ある国会議員が3年より先まで計算するように要求したが、財務省が頑として計算しなかった。』
『成長は財政再建を含めて多くの問題を解決できるからこそ、OECDが目的のトップに掲げている。』(107ページ)

私も「成長は百難隠す」という格言を信じています。
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