弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

コロナ対策政策立案能力

2021-03-21 20:33:05 | 歴史・社会
首都圏の緊急事態宣言を解除するに当たり、菅首相は5つの対策なるものを列挙しています。聞いていると、対策の項目は述べるものの、その具体的中身については何ら説明されません。どうも具体的中身は全く存在しない、と考えた方が良さそうです。つまり「絵に描いた餅」です。この1年間、日本政府の対応はずっとそうでした。

現在進行している問題を解決するに当たっては、問題の発生状況を解析し、どの要因が問題の原因になっているのかを抽出する必要があります。問題を支配している要因が見えてきたら、次に解決のための対応策を立案し、その対応策で問題が解決に向かうか、シミュレーションを行う必要があります。
ところが、報道を見る限りにおいては、日本政府はこのようなデータ解析も、シミュレーションも、全くといって良いほど行われていないようです。
データ解析やシミュレーションをタイムリーかつ効果的に行うためには、それなりの能力を備えた専門家のチームを結成し、チームとして遂行していくことが不可欠です。ところが、政府のコロナ対応部署には、このような有効なチームが全く存在していないように思います。

現在は専門家分科会や諮問委員会があるようですが、報道に接する限りでは、それぞれの委員は、会議に出席して意見を述べているだけのように見えます。決して、チームとしてデータを解析し、シミュレーションを行っているようには見えません。

有効なチームの結成と業務の執行は、だれが音頭をとって行うべきでしょうか。
まずは厚労大臣が指揮を執る厚労省ですが、厚労省は雑事で疲弊し、専門家としてデータ解析やシミュレーションを行う能力が全く機能していないように見られます。
西村康稔コロナ担当大臣の指揮下ではどうでしょうか。たまたま集められた少人数の官僚を酷使するばかりで、有効なチームを結成しようとする姿勢は見受けられません。

私は民間の製造会社に技術者として在籍し、製品製造に際しての品質の問題点を克服する業務にも携わってきました。品質を決定する上での、製造工程での要因がきちんとデータ採取できていれば良いですが、「これが要因ではないか」と推定するモデルを思いついたときに、その要因がデータとして採取できていないのであれば、データ採取を行うように業務を修正していかなければなりません。実際、品質不良の隠れていた原因を推測し、その要因をデータとして日々採取するように手配し、そのようにして採取したデータを解析した結果として、見事に問題を解決した経験もあります。

コロナ問題であれば、全国の現場においてデータが入力されます。専門家が知恵を絞って対策を検討するに際し、必要なデータが不足しているのであれば、現場においてそのデータを入力するように指令を発しなければ行けません。入力項目の増加は現場の混乱を増す要因ですから、よっぽど考え抜いて要因を絞り込む必要があります。

3月21日日経新聞の「風見鶏」に「データ後進国からの脱却」という記事があります。
『そもそも政府にデータを分析できる人が少ない、という根本的な問題もある。
感染データの説明で前面に出ているのは対策分科会の尾身茂会長。世界保健機関(WHO)などで働いた感染症の専門家で、政府の幹部ではない。尾身氏のほか医学者らがそれぞれの見方を出し合う。
データを用いた経済分析を専門とする米エール大助教授の成田悠輔氏は「政府内に政策効果を検証し将来を予測するデータ分析の組織がない」と指摘する。「米国では大統領経済諮問委員会(CEA)などで博士号を持つ研究者がフルタイムで分析する」と語る。
・・・
エビデンスに基づく政策立案はEBPM」と呼ばれる。
・・・
EBPMは政治家の思惑や勘、声の大きさがものをいう政策決定プロセスへのアンチテーゼでもある。データを活用できるかは政治の手法も問う。(佐藤賢)』

私のような門外漢ばかりでなく、専門家も同じように見ているのですね。
コロナ禍の1年が明らかにした日本政府の体たらく、なぜこんなことになってしまったのでしょうか。
内閣人事局制度を濫用したことが原因でしょうか(「強すぎる官邸」黙る霞ヶ関 2021-01-13参照)。
もっとも、第二次世界大戦時の日本帝国陸海軍も同じでしたから、問題は日本人が抱える宿痾かもしれませんが。
コメント
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