弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

通常実施権登録制度

2007-11-18 17:37:55 | 知的財産権
通常実施権等登録制度については、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会通常実施権等登録制度ワーキンググループで検討が進められてきました。今年7月26日に第1回を開催し、10月29日の第4回を持って完了したようです。

そして通常実施権等登録制度ワーキンググループ報告書(案)に対する意見募集が11月に始まりました。この中で、通常実施権等登録制度ワーキンググループ報告書(案)(PDF)を読むことができます。

今までこのワーキンググループの活動をあまりフォローしていなかったのですが、今回この報告書に目を通してみました。

特許法上の通常実施権の法的性質について報告書では、「排他的独占権を有する特許権者等に対して、差止請求権及び損害賠償請求権を行使しないように求める不作為請求権を中核とするものである」と説明しています。

特許権者甲と実施権者乙の間で、乙が甲の特許権を実施できる旨の実施許諾契約を締結する場合、その契約は登録するまでもなく、甲と乙の間で有効です。
しかし、甲がその特許権を第三者である丙に譲渡した場合、丙が乙の実施権を認めなかったら、乙は実施権を失います。
また、甲が破産したとき、破産管財人は乙への実施許諾契約を解除することが可能です。

このような不安定な実施権では、乙は安心して生産設備に巨額投資することができません。

一方、特許権の通常実施権の登録制度があり、通常実施権を特許庁の特許原簿に登録しておけば、上記の転得者丙に対しても、破産管財人に対しても対抗することができます。
ところがこの登録制度、通常実施権者の氏名、通常実施権の範囲、通常実施権の対価が、記載事項となっています。そしてこの記載事項は、だれでも閲覧することができます。
ライセンスを受ける企業としては、このような情報は本来営業秘密としておきたい事項であることから、この登録制度というのは実際にはほとんど利用されていません。
このような状況を打破すべく、通常実施権登録制度の改訂が議論されていると理解していました。
報告書を見ると、権利発生後の通常実施権のみならず、出願段階における登録制度の創設も議論されていました。

《出願段階におけるライセンス登録制度》
出願段階でも、「甲のこの出願が特許になったとしても、乙は実施を確保したい」と考える場合、乙は甲との間で許諾契約を締結します。その後、出願人が甲から丙に変わったとしても、この権利を確保するニーズがありますから、権利化後の特許権と同様、出願段階についても登録制度の必要性は確かにあります。そして今回、そのような登録制度が創設される方向です。

《特許を受ける権利の移転の登録制度》
現行制度では、特許を受ける権利(出願人の地位)を甲から丙に移転しようと考えたら、甲から丙への譲渡証書を添付して、丙が単独で特許庁に手続きして終了です。ワーキンググループは、出願段階のライセンス登録制度を創設するに当たり、現行制度は問題有りと結論しました。
そして、特許を受ける権利は、特許権と同様に登録制度によって保護すべきとしました。
特許出願後における特許を受ける権利の特定承継について、効力発生要件としての登録制度が導入されます。
特許を受ける権利の譲渡人と譲受人の共同申請になります。登録免許税も必要となるようです。

《通常実施権登録制度の見直し》
通常実施権の対価については登録記載事項から除外されます。
「通常実施権者の氏名等」「通常実施権の範囲」については、登録記載事項のままですが、一般には非開示とし、一定の利害関係人にのみ開示します。利害関係人には、通常実施権許諾者、通常実施権者、対象特許権等の取得者、質権者、差押債権者、仮差押債権者、管理処分権者が該当します。
独占的通常実施権とサブライセンス特約については、継続検討課題とされ、今回の見直し対象からは除外されました。
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