弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

慰安婦問題とアメリカ

2007-04-19 22:39:40 | 歴史・社会
旧日本軍の従軍慰安婦の問題について、話はアメリカの下院に戻ります。

下院でも、2人の韓国人女性と1人のオランダ人女性が、元慰安婦として証言しています。しかし韓国人女性の証言は、軍の強制徴用を示唆するものではありませんでした。ジャワのオランダ人捕虜収容所に収容されていた女性が、強制的に慰安婦にさせられた事件は実在しますが、収容所監督の一存でなされ、その事実を知った上司によって中止させられ、戦後その監督は戦犯として死刑に処せられています。前報のとおりです。
しかしアメリカのマスコミは、「これらの証言で十分に軍の強制は証明されている」と受け取っているようです。


ホンダ議員の下院に提出した決議案がこれほどの日米間の大問題に発展した理由として、アメリカでの民主党の勢力拡大が挙げられます。

ブッシュ共和党現政権は、対抗勢力との対決姿勢を打ち出し、イラク戦争を起こし結果としてイラクを崩壊させ、イランをさえ標的としています。世界平和の観点からは、アメリカの共和党は好ましからざる政党であるといえましょう。一方、日本を同盟の相手として評価してくれる点では日本にとって好都合です。
それに対し民主党は、リベラルという点では世界平和に貢献するかも知れませんが、中国との友好などを重視し、日本は無視されるかあるいは逆に敵視される可能性があります。

その民主党が、議会では多数政党となりました。

今回の米国での従軍慰安婦問題の深刻化は、アメリカにおける民主党の躍進と軌を一にするものでしょう。ホンダ議員の決議案に対する共同提案者54人のうち、民主党が43人、共和党が11人という点からも明らかです。

また、中央公論5月号で加藤みき氏(アメリカンエンタープライズ政策研究所)は、最近のアメリカにおける価値観の中で「人権」の占める重要度が各段に増大している点を強調しています。
「アメリカ人には日本政府の発言は、人権という崇高な価値観から見れば罪があるにもかかわらず、恥知らずな言い逃れをしようとしている、と映る。日本との関係にかかわるアメリカ人は口をそろえて日本政府の不用意な発言、そしてアメリカにおける人権の重要性への理解不足を、信じられないと語り、問題がますます大きくなることを懸念する。」

このような状況に対し、日本政府は慎重に対応しなければ大けがをすることになるでしょう。
アメリカ議会でホンダ決議案に批判的であった議員も、安倍首相の発言のあと、その姿勢を後退してしまったということです。安倍首相の対応が適切でなかったことは明らかですが、ではどうしたらいいのでしょうか。
「日本自ら事実関係を詳細に調べるべき」「謝ればいいというものではない」という点をまず強調したいですが、しかし現時点ですぐに対応できるものでもありません。
米国の親日家とよく連絡を取りながら、外務省が適切にハンドリングし、首相の発言にも注意し、ことさらに米国で問題を深刻化させないよう、注力すべきでしょう。

文藝春秋5月号で古森義久氏は、
「安倍首相も日本政府もここまできた以上、戦時中に日本の軍も政府も慰安婦用の女性を組織的、強制的に徴用する政策などなかった事実を政府見解として示し、同時にこの案件は首相の謝罪表明を含めて、もうすんでいることを説くべきであろう。
 当面の過熱状態が去れば、やがては河野談話の大幅修正も必要となるだろう。ただし、いまアメリカ議会に決議案が出たことへの対策として河野談話を否定や批判をすることは戦術として賢明ではない。当面は『いわゆる慰安婦問題は日本政府のこれまでの対応や対策により、解決のための最大限の努力は謝罪も含めて、すでになされている』という対応をとるべきである。その過程では安倍首相が個人としてあれこれ見解を述べているという印象を与えることを避けるために、政府見解、あるいは外相や官房長官の声明によって応じるべきだろう。」
としています。

しかしこの見方は、米国における民主党勢力の影響、人権意識の高まりを過小評価しているように思います。そもそも、強制徴用がなかったことを証明することなど不可能です。現時点で、追加の詳細調査も行わないのであれば、結局は「証拠がない」というしかありません。これでは、火に油を注ぐだけでしょう。

中央公論5月号で岡本行夫氏は、逆の提案をしています。
世界の潮流も、アメリカの潮流も、女性や子供など弱者への加害行為に対して、これまで以上に厳しい目が注がれるようになっています。そのような中、外から見て93年の河野談話から後退すると見られることが、いかにアメリカの人々を憤慨させるか知っておいてほしかったとのことです。
「たとえ安倍総理が「河野談話は事実誤認である」と信じているとしても、その思いは首相である間はしまっていてほしい。世界の潮流に反する発言には慎重たるべきだ。」

在米日本大使はこの間、「日本はすでに十分に謝罪している」という言い訳しかしていません。これに対し安倍首相が「狭義の強制性はなかった」という、言い逃れととれるような発言をし、アメリカ人の気持ちを逆なでしました。まずは日本の官邸と在米日本大使館が一枚岩になることが必要です。在米大使館は官邸に対してアメリカの状況を的確に説明し、官邸と在米日本大使館が納得した上で、確固とした対応を示す必要があります。
日本の未来のため、関係者の皆さん頑張ってください!!


次期大統領選で民主党政権が誕生することになったら、日米外交は冬の時代を迎えることになるのでしょうか。日米外交が冬の時代ということは、日本が世界の中で冬の時代を迎えることを意味しますね。米中が手を携え、日本は米中の両国から白い目で見られることになります。
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