(1996/ヤン・スヴェラーク監督・共同脚本/ズディニェク・スヴェラーク、アンドレイ・ハリモン、リブシェ・シャフラーンコヴァ、オンドジェイ・ヴェトヒー、ステラ・ザヴォルコヴァ、イレーナ・リヴァノヴァ/105分)
タイトルに覚えがあったので 今年2月のNHK-BS2放送を録画していたが、未見のままだったモノ。先日、vivajijiさんのブログ「映画と暮らす、日々に暮らす」で紹介され、好評だったことと内容に興味が湧いたので観ることにした。
独身主義者のプレイボーイがひょんな事から他人の子供を預かり、最初は困惑するも次第に愛情を覚えていくという話は、アメリカ映画でも昔からよくあるパターンだが、チェコのソヴィエト支配下という政治情況を背景にしているのが特徴的で、音楽都市プラハの雰囲気、美しい東欧の自然景観も味わえる佳品だ。きめ細かくもしつこくない描写。チェコ・イギリス・フランスの合作で、1996年のアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞を獲った。
1988年、プラハ。1968年に始まったソ連の介入が終末を迎える直前の時代である。
55歳のファド・ロウカは、かつては交響楽団に所属していたチェロ奏者で、今は葬儀場の死者を送る儀式で演奏するのを主な仕事としている。音楽と家庭は両立しないと独身主義を通しているが、葬儀場で唄っている女性歌手のお尻を触ったりして、実は女好きのオヤジなのだ。弟は一家で西側に亡命していて、年老いた母親は田舎の一軒家で一人で暮らしている。
アパートの最上階での気儘な一人暮らしのロウカだが、経済的には楽ではない。仕事仲間に借金もあるし、母親を訪ねれば、雨樋が腐れたので修理してくれといわれる。友人の車に乗せてもらって、中古車だと聞き、少し気になりだした時に、知り合いの墓掘り人にある儲け話を聞かされる。
それは、ソヴィエト国籍の女性との偽装結婚の話だ。彼女はソ連国籍のままではいずれ本国に帰らねばならない。帰りたくないので、チェコ国籍を取るために結婚したいというのだ。式と最初の夜までは一緒に過ごすがその後は別居となる。最初はヤバそうだと断ったロウカだが、偽装の報酬で中古車の購入と雨樋の取り替えが一遍に出来るので承諾する。しかも相手は子持ちだがとびきりの美女だった。
結婚式が無事に終わり、新らしい車を駆って母親宅の雨樋を取り替える。大家さんへの借金も返してほっと一息ついたところに墓掘り人から連絡が入る。それは、例のソヴィエト人の新妻が行方を眩ましたというものだっだ。西側に恋人がいてそちらに亡命したらしい。しかも、5歳の一人息子コーリャを残して・・・。
ということで、この後コーリャとロウカの二人暮らしに至るわけだが、それまでにもコーリャを預かってくれる人を探したり、墓掘り人との約束違いのすったもんだがあり、エピソードは必然的なものの積み重ねながら、誇張のない描写が目を逸らさせない。
脚本を書いたのは、監督のヤン・スヴェラークと主演のズディニェク・スヴェラーク。vivajijiさんの記事にもあるようにこの二人は親子だそうです。チェコのショーン・コネリーと言いたくなるような髭面のロウカを演じた方が父親で、監督のヤンが息子とのこと。
全体的にはリアリズムだが、コーリャが高熱を出したときには幻想的な映像も見せたし、ロウカのアパートの窓辺に小鳥が遊びに来たり、俯瞰で大自然を撮るときに飛んでいる鳥を絡ませたり、詩情あふれる感覚も持ち合わせているようだ。1965年生まれだから、この時31歳。今年は41歳。まだまだイイ映画を作ってくれそうな気がしますな。
タイトルにもなったコーリャを演じているのは、オーディションで選ばれたというアンドレイ・ハリモンくん。アンドレちゃんといってもいいくらいの小さな男の子で、とっても自然な演技でむちゃむちゃ可愛らしい。10年前だから、今は高校生くらいでしょうか。
ロウカからもらった人形劇のおもちゃで葬式の真似事をし、ロウカに窘められる所では、ちょっと「禁じられた遊び」を思い出しました。
▼(ネタバレ注意)
何気なく登場してくるコーリャ。段々とロウカに馴染んでいく描き方、大仰でない別れが余韻を残す小さな主人公でした。
社会主義国のチェコでは、怖い怖い公安警察が市民に目を光らせていて、(墓掘り人の心配した通りに)ロウカは偽装結婚によって逃亡を手助けしたのではないかと取り調べが行われる。
1回目の取り調べはなんとか言い逃れたが、次は厳しくなりそうなので、ロウカはコーリャを連れて匿ってくれそうな知人の元を訪ねる。
この知人の描き方が面白かった。ロウカ達を匿うことが、地下政治活動に参加しているようだと興奮する。かつて、チェコでそういう活動があったときには参加できなかったのだろう。
ところがそのすぐ後、学生達の運動により現体制が崩壊し、チェコは民主化の道に入る。民主化を喜ぶ群衆の中には、ロウカを厳しく取り調べた公安の警察官もいた。
ソヴィエトがチェコから去ったことにより、コーリャの母親も迎えに来ることが出来るようになり、それは即ち“パパ”と呼ぶようになったロウカとの別れを意味する。
ラスト近く、空港のロビーで搭乗口へ入っていくコーリャと母親を見送るロウカ。親子が去った後に自動ドアが閉まり、そのドアに呆然と立ちすくむロウカが写っているシーンは、ウルッときそうになりました。
ラスト。楽団に戻って演奏しているロウカを見守っているのは、かつて葬儀場で唄っていた彼女。人妻であった彼女とは、お尻を触った後に男女の関係になるが、病気になったコーリャの看病にも来てくれたりした。夫が原因で子供が出来ないと言っていたが、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。
▲(解除)
タイトルに覚えがあったので 今年2月のNHK-BS2放送を録画していたが、未見のままだったモノ。先日、vivajijiさんのブログ「映画と暮らす、日々に暮らす」で紹介され、好評だったことと内容に興味が湧いたので観ることにした。
独身主義者のプレイボーイがひょんな事から他人の子供を預かり、最初は困惑するも次第に愛情を覚えていくという話は、アメリカ映画でも昔からよくあるパターンだが、チェコのソヴィエト支配下という政治情況を背景にしているのが特徴的で、音楽都市プラハの雰囲気、美しい東欧の自然景観も味わえる佳品だ。きめ細かくもしつこくない描写。チェコ・イギリス・フランスの合作で、1996年のアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞を獲った。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/12/2e1aa4b5cf272c86b018f9f495d234ad.jpg)
55歳のファド・ロウカは、かつては交響楽団に所属していたチェロ奏者で、今は葬儀場の死者を送る儀式で演奏するのを主な仕事としている。音楽と家庭は両立しないと独身主義を通しているが、葬儀場で唄っている女性歌手のお尻を触ったりして、実は女好きのオヤジなのだ。弟は一家で西側に亡命していて、年老いた母親は田舎の一軒家で一人で暮らしている。
アパートの最上階での気儘な一人暮らしのロウカだが、経済的には楽ではない。仕事仲間に借金もあるし、母親を訪ねれば、雨樋が腐れたので修理してくれといわれる。友人の車に乗せてもらって、中古車だと聞き、少し気になりだした時に、知り合いの墓掘り人にある儲け話を聞かされる。
それは、ソヴィエト国籍の女性との偽装結婚の話だ。彼女はソ連国籍のままではいずれ本国に帰らねばならない。帰りたくないので、チェコ国籍を取るために結婚したいというのだ。式と最初の夜までは一緒に過ごすがその後は別居となる。最初はヤバそうだと断ったロウカだが、偽装の報酬で中古車の購入と雨樋の取り替えが一遍に出来るので承諾する。しかも相手は子持ちだがとびきりの美女だった。
結婚式が無事に終わり、新らしい車を駆って母親宅の雨樋を取り替える。大家さんへの借金も返してほっと一息ついたところに墓掘り人から連絡が入る。それは、例のソヴィエト人の新妻が行方を眩ましたというものだっだ。西側に恋人がいてそちらに亡命したらしい。しかも、5歳の一人息子コーリャを残して・・・。
ということで、この後コーリャとロウカの二人暮らしに至るわけだが、それまでにもコーリャを預かってくれる人を探したり、墓掘り人との約束違いのすったもんだがあり、エピソードは必然的なものの積み重ねながら、誇張のない描写が目を逸らさせない。
脚本を書いたのは、監督のヤン・スヴェラークと主演のズディニェク・スヴェラーク。vivajijiさんの記事にもあるようにこの二人は親子だそうです。チェコのショーン・コネリーと言いたくなるような髭面のロウカを演じた方が父親で、監督のヤンが息子とのこと。
全体的にはリアリズムだが、コーリャが高熱を出したときには幻想的な映像も見せたし、ロウカのアパートの窓辺に小鳥が遊びに来たり、俯瞰で大自然を撮るときに飛んでいる鳥を絡ませたり、詩情あふれる感覚も持ち合わせているようだ。1965年生まれだから、この時31歳。今年は41歳。まだまだイイ映画を作ってくれそうな気がしますな。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/be/e9e462d829ab4c0d687896ac16dfe64f.jpg)
ロウカからもらった人形劇のおもちゃで葬式の真似事をし、ロウカに窘められる所では、ちょっと「禁じられた遊び」を思い出しました。
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▼(ネタバレ注意)
何気なく登場してくるコーリャ。段々とロウカに馴染んでいく描き方、大仰でない別れが余韻を残す小さな主人公でした。
社会主義国のチェコでは、怖い怖い公安警察が市民に目を光らせていて、(墓掘り人の心配した通りに)ロウカは偽装結婚によって逃亡を手助けしたのではないかと取り調べが行われる。
1回目の取り調べはなんとか言い逃れたが、次は厳しくなりそうなので、ロウカはコーリャを連れて匿ってくれそうな知人の元を訪ねる。
この知人の描き方が面白かった。ロウカ達を匿うことが、地下政治活動に参加しているようだと興奮する。かつて、チェコでそういう活動があったときには参加できなかったのだろう。
ところがそのすぐ後、学生達の運動により現体制が崩壊し、チェコは民主化の道に入る。民主化を喜ぶ群衆の中には、ロウカを厳しく取り調べた公安の警察官もいた。
ソヴィエトがチェコから去ったことにより、コーリャの母親も迎えに来ることが出来るようになり、それは即ち“パパ”と呼ぶようになったロウカとの別れを意味する。
ラスト近く、空港のロビーで搭乗口へ入っていくコーリャと母親を見送るロウカ。親子が去った後に自動ドアが閉まり、そのドアに呆然と立ちすくむロウカが写っているシーンは、ウルッときそうになりました。
ラスト。楽団に戻って演奏しているロウカを見守っているのは、かつて葬儀場で唄っていた彼女。人妻であった彼女とは、お尻を触った後に男女の関係になるが、病気になったコーリャの看病にも来てくれたりした。夫が原因で子供が出来ないと言っていたが、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。
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・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
TB感謝でございます。
この手の映画によく観られる例のヤツ・・・画面の両端から二人が走り寄ってヒシと・・・・。これが無いだけでもホッとしたものです。(笑)
うまい作品というのは簡潔でありながら印象深い物語を観る者に素早く伝え、そして余韻を残す・・・。
小品ではありながらキメ細かなセンスの光る名画でした!
お国は失念しましたが「少女ヘジャル」も秀作でした。ご覧になりましたか?
全く笑わない少女と老人のお話でした。
「少女ヘジャル」は知りません。データではクルド人を扱ったトルコの映画だそうで、レンタルには並びそうにないから、TV放送を待ちましょうかネ。
ロウカの55歳にしてあの元気なこと! そっちの方も気になったですな。
この映画、映画としても素晴らしいですが、なんといっても子役がかわいすぎますよね!
ロウカの「ロシアはずっと居座るが、お前は居座るな」のように、ユーモアの効いた台詞もよかったです。
ロシア人に対する皮肉っぽい扱いは印象深かったですね。
「存在の耐えられない軽さ」もそうですが、チェコという国は意外にセックスに大らかという印象も持ちました(笑)。
そうそう、チェコというと私も「存在の耐えられない軽さ」を思い出しました。
でも、チェロのお勉強に来た若い女性もパンティを脱いじゃうし、女性の目からしたら結構魅力的なんでしょう。
あの年で、元気ヨカです(笑)
2001年に「ダーク・ブルー」というのを、また親子で作ってるようです(今度はお父さんは脚本だけのようです)が、未見です。