テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。

ネタバレ備忘録 ~ ミランダの涙 in 「コレクター」(1965)

2012-05-04 | サスペンス・ミステリー
<「コレクター」(1965)を未見の方には“ネタバレ注意”です>

 ウィリアム・ワイラー監督は、商業映画としての面白さを追求しつつ、ドラマの中で登場人物をリアルに描写する事によって普遍的なテーマをも炙り出す事の出来る人でした。
 欧米では日本以上に「誘拐」は重罪ではないかと思われますが、「コレクター」でも被害者ミランダ・グレイの心情が細やかに描かれたことにより、この犯罪が如何に卑劣で被害者にとって酷いものであるかが感じられるようになっています。

 「誘拐」が被害者に与える苦痛の酷さは、映画の中でミランダが何度も流す涙を見れば分かりますね。
 誘拐犯の目的が、身代金でもセックスでもなく、最終的には彼女が犯人を愛するようになる事で、それまでは解放されないと知った時のショックの涙から始まり、数えたら彼女は6回か7回くらい泣いています。

 その中でも最も印象的だったのが、誘拐から一月後の、犯人がミランダに解放を約束した日の夜のシーンでした。
 ミランダは朝から荷物を整理して帰る準備をしていますが、犯人は解放は夜の12時だと言い、ドレスを彼女にプレゼントします。最後のディナーの為にオシャレをしてきてくれと言うわけです。
 夜になり、正装で迎えに来る男。この夜は両手を拘束されることもなく、男の家へ入ります。居間には小さなテーブルに料理とシャンパン。
 「これからは気軽にロンドンにも遊びに来て」と愛想を振りまきながらミランダが乾杯をした後、テーブルについてナプキンを取ろうとすると、あろうことかナプキンの中には指輪のケースがあったのでした。ミランダは男の意図を察しますが、とにかく冷静に対処しようとケースを開けます。すると、すかさず男がこう言い放ったのです。
 「結婚してくれ。お願いだから」
 またしても、ミランダの希望は踏みにじられたのです。男は、結婚しても奥さんとしての努めは何もしなくていい、ベッドも別々でいいし、好きな画の勉強を続けていいんだと言います。
 男の話を聞きながら、ミランダは少しずつ涙を流します。愛し合った恋人同士であれば、好きな男にプロポーズされての嬉し涙を流すシチュエーションですが、必死でそれを演じようとしても演じきれない程のショックと騙された悔しさがない交ぜになった涙なのでしょう。適当に応対できればよかったものの、純粋なミランダの、そのぎこちなさに男はミランダの繕った嘘の言葉を感じ取り、再び冷たい目を彼女に向けたのでした。

 もう一つの忘れられない涙は、終盤の死に直面した彼女の頬をつたったものでした。
 雨の夜、逃げようとして男をスコップで殴ったものの、額の血を見て怖くなった彼女は、濡れねずみのまま再び地下室に放り込まれ、騒動のドサクサでストーブも消えた中に残されます。両手の拘束も解かれぬまま、男が死んでしまったなら誰にも見つからずに餓死するかもしれない、そんな恐怖の中で三日間過ごした彼女の身体的衰弱は極限状態になっていったのでした。
 男は病院から戻ってきましたが、ミランダの衰弱には気付きません。
 食事のトレイを置いて出て行こうとする男に必死ですがろうとするミランダ。男はやっと異変に気付き彼女の手を握りますが、卑劣な犯罪者の僅かな温もりも求めてしまうミランダでした。
 「もっと生きたい。もっと絵が描きたい。外を歩きたい」
 「私のことを誰かに言って・・」
 痛々しく、弱々しい声で語られたミランダの最後の願いは、ついに叶えられる事はなかったのでした。

 
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2 コメント

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詳細な描写を読んだら (宵乃)
2012-05-05 10:55:20
あの理不尽な犯人に対する怒りと、ミランダの悲しみや絶望がよみがえって来ました。
彼女の涙を見てもまるで動じない犯人の心は、もう取り返しのつかないところまで歪んでしまってるんでしょうね。
あの後も同じ事が繰り返されると示されて終わるラスト・・・この恐ろしさは色褪せません。
宵乃さん (十瑠)
2012-05-05 11:52:39
>この恐ろしさは色褪せません。

似たような体験を、自身や身内がされた方々にはつらい映画でしょうが、こういう事件がなくならないであろう事は分かるし、気を付けようという気にはなりますよね。

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