テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

二重の鍵

2006-04-06 | サスペンス・ミステリー
(1959/クロード・シャブロル監督・共同脚本/ジャック・ダクミーヌ、アントネッラ・ルアルディ、マドレーヌ・ロバンソン、ジャン=ポール・ベルモンド、アンドレ・ジョスラン、ジャンヌ・ヴァレリー、ベルナデット・ラフォン/88分)


 モノクロの印象があったのにカラーだった。数十年ぶりの鑑賞。前回はTV放送だった。

 「いとこ同士(1959)」(=未見)が有名な、フランス“ヌーベル・ヴァーグ”の一人シャブロルの3作目で、ストーリーは殆ど忘れていて、面白かったという印象だけが残っていた。アメリカの推理小説が原作だそうで、今回見直してみると、ミステリー色は薄く、人間関係の危うさを描いた前半に時間を掛けすぎて間延びした感じがある。後半、事件が起きてからも謎解きの面白さはそれ程ではなく、なんとなく中途半端な映画だった。中途半端といっても、40数年後の今だから言えることであって、当時は新鮮だったのかも知れないが。

 登場人物は限られている。街中のシーンもあるが、殆どは南仏プロバンスにあるマルク家の中の話だ。
 主人のアンリ(ダクミーヌ)は隣人の日本帰りの人形作家レダ(ルアルディ)と不倫の関係にある。妻のテレーズ(ロバンソン)とは冷戦状態で、息子リシャール(ジョスラン)も娘も成人しているが、不倫については内緒にしている。娘エリザベート(ヴァレリー)の彼氏ラズロ(ベルモンド)は奔放な男で、話の流れでは、レダをアンリに紹介したのは彼らしい。アンリには離婚を勧めるし、勝手に家に押しかけては我が物顔に振る舞うラズロを、テレーズは憎々しく思っていて、エリザベートには早く別れるように言っている。

 序盤で、こういう家族の状況が説明されていって、観ている方は、どちらかというとテレーズに同情したくなる。アンリはひたすらレダの美しさを讃え、テレーズの醜さをなじる。テレーズは勝ち気な女性ではあるが、内面的な醜さにはアンリは触れていないし、見た目はどちらも美人なのに、ただ単にテレーズの方が年をとっているというだけの話で、真に身勝手な男の言いぐさなのだ。世間体を気にしていたアンリも、覚悟を決めた後は街へ出かけて行って、レダといちゃついている所を知人に見せつけたりもする。
 ラズロの傍若無人ぶりもテレーズが嫌うのが納得できる酷さで、観る側としては誰に焦点を合わせればよいのか、落ち着かない映画でもある。

 映画が始まって40分を過ぎ、離婚が決定的になった後の食事の最中に殺人事件が起きる。被害者はレダ。

 死体を発見するのはマルク家の若い女中ジェニィ(ラフォン)で、彼女に言い寄っている牛乳配達の兄ちゃんが、レダ宅の空の牛乳びんを引き取るのを忘れたのを彼女に代わりに取りに行ってもらって発見する。
 さて、その犯人は・・・?

 ここで、重要なデータを。
 all-cinemaのデータでは上映時間100分となっているが、今回観たVHSテープは88分だった。その他DVD作品も記録時間は88分となっている。古い映画本の批評を読むと、実は、冒頭にレダの死体が写っているシーンがあるようなのに、それはカットされているようだ。それはこんな感じ。
 
<やわらかいトーンの色彩があふれる庭園から、日本風の障子を通って部屋へ。カメラは移動を続け、倒れている女の足元を横切り、色々な人形が散らばった部屋の中を回り続け、ドアの丸い把手に達する。画面一杯になったその丸い把手がスペクトルのように色彩を変えていく。(・・・オープニング・タイトルへ)>(「映画の学校」/双葉十三郎:著)

 この記事の冒頭に、“前半が間延びしている”と書いたけれど、このカットされたシーンがあれば、間延びの印象は薄くなったと思いますな。このシーンが最初にあるのは作品の構成としてはとても重要なのに、配給会社の独断でしょうか、非常に残念な処置でした。

▼(ネタバレ注意)
 さて、牛乳配達の兄ちゃん、状況的には一番怪しい人物なのだが、実はその後は出てこない。

 オープニングは、マルク邸の2階の部屋に住み込んでいるジェニーが、庭師の爺ちゃんや牛乳配達の兄ちゃんに部屋の窓から下着姿を見せつけているシーンで(しかも、そんなジェニーを家の中ではリシャールが鍵穴から覗いている)、それを見ている庭師も表情や動きが怪しく、この辺は犯人探しの焦点を紛らわしくする意図があったんでしょう。しかしながら、彼等の出番が少なすぎて、その演出の狙いは達成されていないようでした。
 しかしこれも、あのカットされたシーンがあれば全然違う印象になったのではないでしょうか。

 警察の活躍は殆ど無いし、犯人は想定内の人物だし、久しぶりの鑑賞で期待していただけに、ちょっと残念な結果です。ただ、殺人のシーンは、流石ヒチコッキアンを自認するシャブロルらしいカメラワークが見れました。
▲(解除)

 英語原題は【A Double Tour】で、“鍵”はストーリー的にも関係ないです。

 ベルモンド演じる男の名は“ラズロ・コヴァックス”。「勝手にしやがれ(1959)」でベルモンドが扮したミシェルの劇中の別名でもありますし、「気狂いピエロ」にもこの名前の人物が出てきました。。シャブロルは「勝手に・・・」の監修に携わっている。余程この名前が気に入っているのか、それとも別の意味があったんだろうか? ご存じの方いらっしゃいませんか?

 レダが日本帰りということで、彼女の家の部屋の仕切に障子のようなモノをたくさん使っていて、奇妙な感じの室内でした。

 尚、カメラはアンリ・ドカエです。

・お薦め度【★★★=ミステリーファンは、一度は見ましょう】 テアトル十瑠

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