四谷三丁目すし処のがみ・毎日のおしながき

冬から春が旬である貝がそろそろ終盤、初鰹・鰈・鱸・鯵など夏の魚が出てきました。

4月13日(土)

2024-04-13 16:38:19 | 4/1~4/30


野上啓三インスタグラムsushi43nogami2←こちらに変更しました。
すべての魚・貝、天然ものです。
◇営業時間について◇火曜~土曜17:30~21:55※ラストオーダー(酒類・酒類以外全て)21:25まで
日曜お子さんデーは11:30~17:30です。※日曜はお子様の日です
店には月曜(+第一日曜日)以外10:30~営業終了+aおりますのでお気軽にご連絡ください!03-3356-0170
※レストラン予約代行サービス『オートリザーブ』でのご予約は日付・時間帯にかかわらず受け付けておりません。
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おかみノート
主人の実家はお寿司屋さん。私はなんにも知らないドシロウト。
今まで見たり聞いたり体験した 寿司屋のいろんなことを書いておきたいと思います。

『チチカエル』
窓を背にしたお客様はゆっくりと煙草を吸いながら言った。

「はいご苦労さん。じゃママ、今度は牛乳とガム買って来い」
階段を駆け上がってきたせいで息が弾んでいた。千円から煙草二つ分を差し引いたおつりをお渡しした直後のことだった。
・・牛乳とガム?
「酒飲む前に胃に入れておきたいって言ってんだよ、なー。胃壁を作っとくのっていいんだよ、なー?」
お客様は隣りに座っているお連れの男性に話し掛けた。この三週間で何度かお見えになっていたその方は店のドアを開けて店内を見渡してから
「親父は?田舎帰ったのか?」
とすぐさま訊いてきた。
「マーマー、ほら、早く買って来いよ?」
お義父さんは一ヶ月の滞在を終え福島に帰った。数時間前、迎えに来てくれたお義姉さんと挨拶をしてエレベーターのところで見送ったばかりだった。
「行って来いって早く。金は後で払うから」
若い夫婦だけになった店。お義父さんはもういない。
「ほい、ほら」
そうやって急き立てるお客様に向き合って目は合わせたまま、両足を踏ん張っていた。このお客様は主人に話しているのではない。煙草を買ってくる以上にどこまで言いなりになるのか、私がこの店でどういう役割なのかを試しているのだった。
今、もし主人に判断を委ねたら「そういったご要望はお請け致しかねます」というふうに言ってもらってその場は終わり、そして私はずっと “牛乳とガムをすっ飛んで買いに行く”ことを自分で断ることもできない存在として生きることになる。そんなのイヤだと思った。
「マーマ。いい加減怒るよ」
「・・・ません」
「あ?」
お客様は口の脇から煙を出し、灰皿にピンと一回煙草を弾いてもう一度口に持っていった。
「何だって」
外はまだ明るい。お客様は新宿通りに行き交う車を見下ろしながら私の返事を待っていた。
「・・よく聞こえねーなぁ」
その言葉をキッカケに、むぅ――っと息を吸い込んだ。
「牛乳とガムは、買ってきませんっ!!!!!」
五メートルの距離では充分なほどの声で言った。
「・・ちっ、ダメか。これはひっかかんねーか。はいはいわかった。じゃ、お前行って来い」
お連れの男性が走って店を出ていくのを見ていることしか出来なかった。

翌日ランチの看板を出していると、同じビルの別のテナントのオーナーさんが私の身体にぴったりとくっつくようにして話し掛けてきた。
「ちょっと、あらら。聞いてないの?」
「はい?」
「看板のこと」
「え、何ですか?」
「ちょっと、やだわー。言ってくれてると思ってたのに」
「・・何でしょうか?」
「ものすごく目立つ道路ギリギリのところに置いてたでしょう?開店してしばらくは他のテナントも御祝儀だからって我慢して置かせてあげてたのよ。ね、ほら見てご覧なさい、他の看板おたくの陰にみんな隠れちゃってるでしょう?それがもう一週間経ち二週間経ち、ずっと当たり前みたいにいつまでも置いてあるから、いつ退かすのかなって皆思ってたのよ。あーもう、○○さんが言ってくれてると思ったのに」
「・・どうもすいません」
「あら、いいのよ、わかってくれれば。あ、ところでパパさん、社長さんはもう帰ったの?」
「・・はい」
「あーそう。もう毎日階段磨いてたわねぇ。よろしく言っといて」
「はい」
お義父さん不在が影響しているのかしていないのか分からなかったが、これもまたけっこう辛い出来事だった。

それから二ヶ月ほど過ぎたある日のこと。
それまでも二週間に一度くらいのペースで四名様から五名様の小上がりを使ってくださるお客様がいらっしゃった。やはりまた
「親父さんは?ずっと見ねぇけどもう居ねぇのか?」
と訊かれた。
お会計の時だった。背広を着ながら「お会計」と私を呼び止めた方に金額を書いたメモを渡すと、しばらく見た後
「オレ、無いからアイツから貰って」
とそのメモを別の方にバトンタッチした。メモを見たその方は
「あ、オレも無いからパス」
と言ってまた先ほどの方にバトンタッチした。
その動作が二回繰り返された。私はそのメモが行き交う度にスライドして動きお支払いいただくのを待った。
三往復目、最初にお渡しした方がお財布からお金を出そうとしてやっぱり引っ込め、両手をヒラヒラさせながら
「あー、やっぱり無いねぇーッ!!」
とおどけた顔をして私を見た。
もうおひとかたのところに歩み寄ると
「オレも無ぇ――ッ!」
と言って、その宴会にいらした方が皆で嗤った。
「ママよぅ、ヒャッヒャッ。丸正カードあるからよぅ、これ出したら五パーセント割引にしてくれっか?そしたら払ってやってもいいや」
畳の上だけがどっと沸いた。チラッと主人を見た。目で頷いているのを確認した。私は小上がりのお客様に向きなおり、まっすぐ立った。
「あの、もうお代はけっこうですのでお引き取りください」
一礼して奥に下がろうとしたら
「あーあーあー!ちょっと待ったちょっと待ったオレが払うオレが払う」
と二番目のパスの方がお財布を出そうとした。それも無視して板場に戻った。
「ママ」と繰り返し呼ぶ声に辟易しながら洗い物を止めレジの方に顔を出すと一番手の方が柱に片手を着き足をクロスさせた状態で待っていた。
「そう怒んなよ~、冗談だよ冗談。冗談もわかんねぇのかよ~」
と眉根をグニグニさせながら言った。
「うち、そういう店じゃないんで」
「だからさ~分かってるって」
と言いながら支払いをしようとした。
「あの、もうけっこうですから」
と遮ったが結局押し問答の末、頂戴した。そこらへんが情けなかった。この矛盾した行為が商売をしていく上でいいのか悪いのか
なんてことの答えが解らないくせに悩んだりすること自体どうなのか一貫していない自分の行動に対してすごく落ち込んだところに顔を上げると
「じゃ、また来るからよぅ、今度は丸正カード使えるようにしとけよ~、ええ?」
とつまようじをシーハーやりながら帰り支度を済ませた五人組が店を出ていく様を見ていたらお義父さんが帰ってからのいろんな怒りや苛立ちが思い出され、そして八つ当たりも含めて完全に、もう完全にブチぎれた。
「だから、うちは、そおゆう店ではありませ――んッ!!!」
と怒鳴り、バチ―ンと扉が壊れるほどの勢いで閉めた。本当は扉を閉める前にこう言ってやりたかった。
「丸正カードはなぁ、三百ポイント貯まると三百円のお買い物券が出るんであって五パーセント割引にはならないんじゃボケ!!!セイフーのOMCカードと勘違いしてんじゃねぇぇぇ!!!!」
と。
でもなんかこれを言うと面白い感じになってしまうのでやめた。
ハァハァと息をして立ち尽くしていた。
「おあいそ」
という声に振り向くと、カウンターのお客様がニコニコしながら
「大丈夫?ちょっとは落ち着いた?僕は割引とか言わないでちゃんと払うから、怒んないでネ」
と、一部始終をご覧になっていたようで気遣って声を掛けてくださった。たはーっと汗を掻きながらお会計をした。
その日の夜、
「お義父さんの存在は大きかったね」
と主人に言ったらこう返ってきた。
「オレなんか一ヶ月だからまだいいよ。何十年もやってた親父の店を継ぐ息子は大変だよ。ずーっと“親父さんはよかったぞ”って言われるんだから。オレはこれからオレの店として頑張ればいいんだからそういう意味ではラクだよ」
そうか。
お義父さんがいなくなったこの店をこれからしっかりとつくりあげていけばいいんだ。
牛乳や看板や丸正カードでめそめそしない。
そう決めた。

『愛のビンタ』
空いたグラスをお下げしながら「あはは」と私が反応した時だった。
お客様が真顔になった。
「・・ママがそこで笑っちゃダメだ」
ビールをぐいっと飲み、視線を落として
「今ので一緒に笑っちゃダメでしょう」
と。そして小さく舌打ちがあり
「OLだったんだっけ?」
と問われ、「はい」と応えると
「・・あのさぁ、ママ。ほんとダメだからね!そーゆうことは。わかった!?」
内容はお連れの方の失敗談のようなものだったと思う。
私は面白おかしく自虐的に話されているそのお連れの方のお話を聴きながら楽しく賑やかにご一緒しているつもりだった。

“牛乳とガム買って来い事件”から二ヶ月。
うちの店を気に入ってくださったそのお客様とはすっかり打ち解けていた。
打ち解けているとは言っても『お客様』と『店の者』という一線を越えず、きちんと接客をしているつもりだった。
それが出来ていないということを告げられた。
まるで後ろからスリッパで殴られたような気分だった。いや、もう少し受け入れ難いようなでも呑み込まなくてはいけないような気持ち。なおも談笑は続いておりここで逃げるわけにはいかない。
「はい」と言った後、顔が引き攣りながらも会話に加わったままいろいろと考えた。
ショックだが言ってもらえたのは有難かった。
以前、私に対してムッとして帰られたお客様がいらしたからだ。私の対応がよくなかったのが原因なのは明らかだった。
「あのね・・。・・まぁ、いいか。はい、おあいそ」
と言葉を呑み込んで帰られたのがずっと気になっていた。
あるいはそんな素振りも見せず帰られたお客様も沢山いらっしゃったのではないだろうか。
そうやって考えてみると、お客様からのこのご指摘は二ヶ月ほど私を見ていてどうも本当の意味での接客が出来ていない、全部ひっくるめて教えてやらねば俺が、という苛立ちと愛情の雑じり合った発言だったのではないかと思えてきた。
グラスを洗いながらそんなことを考えていた。
ヒリヒリする心を手にじゃぶじゃぶと注がれる水道水で冷した。

うちが半年を過ぎてもあまりに閑散としているのを心配してご出張の度にお見えになっていた方とお話している時のことだった。
「お店、…いいお店なのにねぇ」
「ありがとうございます。でも、こんな状態で…」
「元気出して。僕ね、いろいろな寿司屋に行くんですよ。いわゆる有名店っていうところも仕事がらみで行ったりね。でも独りで食事となると気に入ったところに決めてずっと行きたいわけ。・・正直に言っちゃうと初めて来たあとしばらく・・そうだな一ヶ月、一ヶ月半くらい?空いてた時期があったでしょ?あの時ね、実は結構広範囲もう有名無名問わず直感でどうかなっていう寿司屋をぶぁ~って行ってみたのね。で、結局。こちらが一番、おいしい。本当ですよ」
嬉しさからつい気持ちが弛み、談笑ののち愚痴をお聞かせしてしまった。
開店して三ヶ月はお祝い景気でちやほやされたこと。
大きな波が引き、そこからはずっとこの状態だということ。
「で、ある法則が分かったんですよ」
私は得意気に言った。
「お帰りになる時に“はーい、どうもー、また来ますねー!”って明るく仰る方はまずほとんどお見えにならなくて、何も仰らない方はまた来てくださることが多いんですよ」
湿った裏庭の蜘蛛の巣の住人のような目つきをして私は言った。
十余年勤めた社からの退職、その一ヶ月半後には寿司店を開業。華々しく注目を浴びる時期も過ぎ、誰からも忘れ去られた気分だった。がらんとした店内の窓から斜め向かいの回転寿司店に行列するお客様を見ながら恨めしく思う毎日。せめて強がりにそんなことを言った。
その日のお見送りの時だった。
振り返ったお客様が私の目を見た。
「あのね・・」
「はい」
「確か僕は初めてここを訪れた時、“また、来ますね”って言いましたよ」
「・・・・」
「そしてまた来ました」
「・・・・・」
「何度も」
「・・はい」
「ね?あなたの法則、当てはまらないんじゃない?」
「・・・・・」
「お客さんにね、そんなこと言ったら・・。わかりますよね?」
「はい」
「じゃ、また来ますから。がんばって」
「どうもありがとうございます」
螺旋階段を降りていくお姿が見えなくなった。
私、えらいこと言っちゃった。
でも叱ってくれた。
教えてくださってありがとうございましたと心の中で呟いた。

明日は『真っ白』『キッカケ』です
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◎赤貝の仕込み 動画アップしました(5分03秒)
◎シャリ酢あわせ 動画アップしました(1分50秒)
◎かんぴょうを煮る動画アップしました(7分30秒)
◎玉子焼き動画アップしました(6分53秒)
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1dayアーカイブ2023年~2001年4月13日のおしながき[2023年][2022年][2021年][2020年]引き続き4/13(月)~4/19(日)まで休業させて頂きました[2019年][2018年][2017年][2016年][2015年]4/14(火)より新生姜の自家製ガリ、登場します。

001

[2014年]シャコのにぎりは一尾を分けて二貫握ります。一貫は出汁醤油で温めて、もう一貫はシャコ爪と身の軍艦に穴子の煮詰めをかけます。塩をしていない生子乃子(なまこのこ)、好評です。001_2
お酒、入りました。
0024月13日築地風景
[2013年]006_2001_2 ご心配をおかけしました。本日より再開です!

 

[2012年]淡路 サヨリ 生

 

’12 4/9→4/19 リニューアル工事002

[2011年]

003横須賀のマコガレイ、まだ旬のはしりだというのに少し飴色です。きめ細かい脂がのっている身だという現れの色です。

 

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平政(ひらまさ)は4/9土曜日に仕入れたもの、五日目にして熟成モードに入ってきました。

 

Photo

[2010年]北海生ダコには吸盤のブツ切りを七味醤油で焼いたものが付きます。

 

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[2009年]トリ貝を貝殻から取り出してさばく時、主人はかなり気を遣います。トリ貝らしい“黒色”は、指で強く持ったりざらざらしたまな板に触ったりなど、少しの摩擦でも剥がれてしまうからです。身の下の白色が所々出てしまっては、味は同じでも商品価値に微妙に差がつきます。ですので、なるべくつるつるした場所で仕込みます。まな板の上にラップを敷くか、ガラスの上か。

 

当店ではトリ貝の仕込み用にガラスのまな板を作りました。

 

 

 

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