※この記事は相手の戦略を推測したものであり、日本の視点や戦略は含まない。
《北ミサイル問題はプーチンの筋書き!?》
北朝鮮の核・ミサイル問題を見ていると、黒幕に露プーチンがいると考えた方がいろいろしっくりくる。
その狙いは次の通りであり、北朝鮮はそのための持ち駒のひとつ。
1)強すぎる米国の弱体化工作=孤立化
2)膨張する中国への牽制=周辺国による中国包囲
《近年の国際情勢概観》
しかし、現状は前項のような国際情勢ではない。むしろ、米国主導の「鶴翼の陣」にて大陸勢力=露中が包囲されつつある。露プーチンとしてはこれを打ち破らねばならない状況にある。
なお、上図の「独」とはドイツ単独を指すものではなく、EU加盟国を従える「新生ドイツ帝国」を意味する。そして、英国はブレグジットでその新生ドイツ帝国から逃げ出した。
《強すぎる米国の弱体化工作》
露プーチンが狙う米国の弱体化とは、鶴翼の陣から両翼をもぎ取り、本陣である米国の経済力の源泉=米ドル基軸通貨体制を破壊するというものである。
1)極東からの米軍の排除
2)NATO解体
3)米ドル基軸通貨体制の破壊=米国の経済力の源泉を破壊
(ロシアの対米工作など)
米が侵略すれば、北朝鮮は在日米軍基地に攻撃
https://jp.sputniknews.com/politics/201704143538289/
元米陸軍情報将校が明かす「アメリカ軍が日本から撤退する理由」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40191
【社説】プーチン大統領の狙いはNATO解体、NATOは全力で対抗を
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052970203736504580133384231861678
ドルに代わる「新基軸通貨」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/796
ロシアや中国が、現在の米ドル基軸通貨体制に異議を唱えた上で提唱
ドル消滅 (朝日新聞出版) ジェームズ・リカーズ
https://www.amazon.co.jp/dp/B00YRVAB98/
中国、ロシア、新興国、産油国がアメリカやIMFに対して仕掛けている金融攻撃の実態とは?
プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは? 北野 幸伯
https://www.amazon.co.jp/dp/4797672250/
《膨張する中国への警戒感》
米国の弱体化工作に続いて必要となるのは、膨張する中国への牽制。具体的には次のような問題を抱えている。
1)領土問題の蒸し返し=衰退する清朝がロシア帝国に割譲した極東領土の返還(の動き)
2)極東シベリアへの中国人入植=ロシア人の人口が希薄な極東シベリアへの“人口侵略”
3)兵器売却に伴う不信感=兵器の不正コピー、ロシア製兵器市場の切り崩しなど
そもそも、大国意識の高い東側の盟主・ロシアと、勃興する新たな大国・中国である。両雄並び立たず、として対立しやすい構図にある。米露の対立が弱まれば、露中の対立が浮上しやすくなる。
(ロシアと中国)
「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ
http://www.sankei.com/west/news/161004/wst1610040001-n1.html
「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人はいつか取り返すべきだと信じている」
ウラジオストクは「中国固有の領土」か=始まった極東奪還闘争
https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00105_201211290001
ロシアの対中政策における歴史的要因から見た中露戦略的パートナーシップ(防衛研究所)
http://www.nids.mod.go.jp/publication/briefing/pdf/2010/briefing_29.pdf
軍事技術でロシア勢力圏を切り崩しにかかる中国
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50627
ロシアのインド、中国、ベトナムに対する通常兵器輸出(防衛研究所)
http://www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j17_1_4.pdf
ロシアと中国の関係は対照的に、技術提携上の不信感があるため、個別の取引において最大の利益を得られるように両者が時間をかけて交渉している。ロシアは安全保障・技術上の警戒心をもっており、中国も支払う金額を小さくして技術を有利に取得する要求が強く、交渉妥結は困難である。
《露が仕掛ける極東の勢力再編1》
前項までの戦略に基づいて、ロシアが極東で仕掛ける勢力再編の第一段階がこれ。
北朝鮮の核武装化を後押しすれば、韓国からは在韓米軍が撤退し、朝鮮半島は北朝鮮主導で統一され、さらには統一朝鮮と日本の軍拡競争が始まる。露プーチンの狙いは、そこにあると考える。
(北朝鮮とロシア)
【北ミサイル】ロシア、北朝鮮への石油製品輸出を倍増 実態はさらに巨額か
http://www.sankei.com/world/news/170820/wor1708200018-n1.html
【北ミサイル】ロシアから北朝鮮へ技術流出とウクライナ示唆
http://www.sankei.com/world/news/170816/wor1708160032-n1.html
ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7997.php
ロシアと中国は北朝鮮の核開発に協力しているのか!?(辺真一)
https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20160927-00062606/
在韓米軍、撤退の可能性…韓国、米国の庇護終了で北朝鮮の脅威強まる
http://biz-journal.jp/2017/06/post_19361.html
韓経:【社説】在韓米軍撤退論まで出てくる韓半島の状況
http://japanese.joins.com/article/878/231878.html
米朝平和協定が締結され在韓米軍撤収と韓米同盟弱化につながらないだろうとは壮語できない状況だ。
韓国の無神経な「中立宣言」に米軍が怒った 弾道弾が飛ぶ中、「墓穴」を掘る文在寅
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/082900121/
ロシア、北朝鮮を実質的支配でミサイル発射を主導か…中国とロシアに紛争の兆候も
http://biz-journal.jp/2017/05/post_19246.html
《露が仕掛ける極東の勢力再編2》
統一朝鮮と日本の軍拡競争がある程度進んだら、次にやることは両国を中国に敵対させること。日中は既に軍事的には対立関係にあるから、統一朝鮮の仮想敵国を西側から中国に大反転させる必要がある。既にその予兆はある。
(ロシアと日本)
日ロ平和条約締結、経済的利益に優先=プーチン大統領
http://reut.rs/2h7H7bW
ロシア外相「平和条約は領土問題と別」 日本の立場を否定
http://www.sankei.com/world/news/160126/wor1601260063-n1.html
日ソ・日露間の平和条約締結交渉(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/hoppo_rekishi.html
(北朝鮮と中国)
【北朝鮮事情】「中国が来るなら北京に核を撃ち込む」金正恩氏の虚勢どこまで…36年ぶり党大会で見えた独裁体制の実像とは
http://www.sankei.com/premium/news/160530/prm1605300005-n1.html
「北京に核を撃ち込む」金正男暗殺は中国への宣戦布告だった (西岡力)
http://ironna.jp/article/5818
北朝鮮の核ミサイルが北京に向けられる日(辺真一)
https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20170504-00070595/
「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と代えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」
北朝鮮のミサイル発射のターゲットは中国か
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/post-4466.php
《露が描く近未来勢力図》
こうして、冒頭に掲げた「①プーチンが描く未来設計図」に近い勢力図を作り出すことができる。
即ち、米国を弱体化させつつ、統一朝鮮、軍備拡大した日本、そしてもうひとつの大国インドによって中国を牽制=ロシア主導の「夷を以て夷を制す」戦略である。
このようなシナリオが裏で動いていることを仮定すると、昨今の国際社会の様々な出来事の理由が説明できることが多いように思う。
例えば、金正恩がなぜあれほどに強気でいられるのか、軍事技術はどこから入手したのか、ミサイル発射に際してもなぜか日本に“配慮”?してる節が感じられること、習近平が北朝鮮問題の解決に消極的で逃げ回っているようにしか見えないこと、ロシアが北朝鮮を擁護する理由、ロシアが北方領土問題の解決には消極的ながらも日本との平和条約の締結には前向きなこと、日本の集団的自衛権にロシアが反対しなかったこと、など。
ただし、露プーチン氏が本当にそのように企んでいるかどうかは確認できないし、もしそうだとしても各国それぞれの思惑なり戦略もあるから、現実がどう転ぶかはわからない。
《金正恩の発言》(追記)
金正恩の今年の発言を拾い読み。
狙いは半島統一にあるとも読める。そのための、米軍に対する接近阻止作戦+在韓米軍追い出し作戦として核ミサイル恫喝をしているように感じられる。また、伝聞報道ではあるが、「中国との間に塀を築いている」ともある。すべて、上述の考察と整合している。
「我々は米国の言動をこの先も注目し続けるであろう」
「侵略の前哨基地であるグアム島をけん制…」
「ソウルを一気に乗っ取って南側を平定する考えをするべき」
「米国の朝鮮に対する敵対視政策と核脅威が根源的に清算されない限り…」
「われわれは中国との間に塀を築いている」
以下は、中央日報が報じた金正恩の発言の抜き書き。
2017年08月31日 北朝鮮官営メディア
「今後、太平洋を目標にして弾道ロケット発射訓練を頻繁に行い、戦略武力(ミサイル)の戦力化、実戦化、現代化を積極的に進めていかなければならない」
「今回の訓練は太平洋上での軍事作戦の初めの一歩で、侵略の前哨基地であるグアム島をけん制するための意味深長な前奏曲」「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン(UFG)合同軍事演習に対する断固たる対応措置の序幕に過ぎない」
「米国とはおとなしく対話するというのはもってのほかで、行動で示さなければならないというのが教訓」「我々は米国の言動をこの先も注目し続けるであろうし、それによって今後の行動を決めるだろう」
2017年08月30日 朝鮮中央通信など北朝鮮メディア
「(29日の)訓練には、有事の際に太平洋作戦地帯にある米帝侵略軍基地を打撃する任務を負っている朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊と中長距離戦略弾道ロケットの火星12型が動員された」
「今回の訓練は韓米乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン(UFG)合同軍事演習に備えた対応武力示威の一環として行われ、IRBMの実戦運営能力を確定するための機動と打撃を配合した」
「実戦をほうふつとさせるほどの今回の弾道ロケット発射訓練は、我が軍隊が進めた太平洋上での軍事作戦の初めの一歩で、侵略の前哨基地であるグアム島をけん制するための意味深長な前奏曲になる」
「今後、太平洋を目標に弾道ロケット打ち上げ訓練を頻繁に行い、戦略武力の戦力化、実戦化、現代化を積極的に推し進めなければならない」「きょう戦略軍が行った訓練は、米国とその子分が繰り広げている乙支フリーダムガーディアン合同軍事演習に対する断固たる対応措置の序幕に過ぎない」
2017年08月29日 (津軽海峡越え弾道ミサイル発射)
2017年08月26日 朝鮮中央通信
「形式主義が克服され、訓練が多様化、多角化した」「特殊作戦部隊の将兵が訓練の質を充実させるのに力を注ぎ、専門兵訓練と協同訓練を強化しなければならない」
「ひたすら銃隊で敵を無慈悲に掃き捨て、ソウルを一気に乗っ取って南側を平定する考えをするべき」「人民軍が到達すべき軍建設目標を占領するための闘争に将兵を積極的に呼び起こさなければならない」
2017年08月16日 北朝鮮の労働新聞
「米帝(米国)の軍事的対決妄動は自分の手で自分の首にしめることになった」「悲惨な運命の分秒を争うつらい時間を過ごしている愚かな米国の奴らの行動をもう少し見守る」
「朝鮮半島情勢を最悪の爆発状況に追い込んでいる米国に忠告する」「今の状況がどちらに不利か明晰な頭脳で得失関係をよく考えるのがよいだろう」「米国の奴らが朝鮮半島周辺で危険な妄動を続ければ重大な決断を下す」「恥をかきたくなければ理性的に思考し、正確に判断しなければならないだろう」
「党が決心さえすれば、いつでも実戦に入ることができるよう発射体制を整えるべき」
2017年07月29日 朝鮮中央通信
「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということが立証された」
「今回の試験発射を通じて大陸間弾道ロケット体系の信頼性が再確証され、任意の地域と場所で任意の時間に大陸間弾道ロケットを奇襲発射できる能力が誇示された」
「われわれがあえて大陸間弾道ロケットの最大射程距離の模擬試験発射を進めたのは、最近分別を失って意味のないラッパを吹きまくっている米国に厳重な警告を送るため」
「米国の輩が、われわれの度重なる警告にも、この地にまた再びくさい臭いのする顔を突っ込んで核の棒を振り回し、間抜けた真似をするのなら、われわれが今までじわじわ見せてやった核戦略武力で、しっかりとその悪癖を教えてやる」
2017年07月07日 韓国メディアの東亜日報
大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射試験前に、米国マスコミ界のある人物に「われわれは中国との間に塀を築いている」という趣旨の話をしていたことが分かった。
2017年07月06日 北朝鮮朝鮮中央通信
(ICBM発射について)「完全に大成功」
「米国は独立記念日にわれわれから受け取った『プレゼントの包み』が全く気に入らないと思うが、今後は頻繁に大小の『プレゼントの包み』を送ってやろう」
「米国の心臓部を打撃することができるICBMロケット『火星14』型試験発射まで、一気に痛快に成功することによって、われわれの党の絶対的な権威を決死擁護した」「米国の朝鮮に対する敵対視政策と核脅威が根源的に清算されない限り、われわれはいかなる場合でも核と弾頭ロケットを交渉のテーブルには乗せるつもりはなく、われわれが選択した核武力強化の道からただの一寸も退くつもりはない」
2017年05月15日 北朝鮮朝鮮中央通信
「世界で最も完成された武器体系は決して米国の永遠の独占物にならない」「我々も相応の報復手段を使用できる日がくると確信する」
「米本土と太平洋作戦地帯が我々の打撃圏内にあるという現実を米国が誤認してはいけない」
「米国とその追従勢力が目を覚まして正しい選択をする時、高度で精密化、多種化された核兵器と核打撃手段をさらに多く作るべき」
以上。
いちいち論拠を示すことはできませんが、そういう傾向は冷戦時代からしばしば垣間見えます。
まあ、ご自身も「各国それぞれの思惑なり戦略もあるから、現実がどう転ぶかはわからない」とおっしゃっていますから、私ごときがあれこれ批判がましいことを言い立てるのも無粋というものですが…。
あの国自体の「国益と主体的国家意志」に立脚した視点を抜きにして、こうした分析をいくら重ねてもあまり意味はないと個人的には思います。