つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

彼女といっぴき

2016-06-02 19:50:07 | 文もどき
彼女といっぴきに初めて会ったのは、駅のコンコースだった。
出会いと言っても一方的なもので、私は常に彼女らのやや斜め後方にいて、ただ眺めているだけに過ぎないのだけれども。せかせかと足早に流れる人波の中で、なぜだかそこだけがゆるっとしているように見えるのだ。それが彼女が我勝ちに急ぐ世界から離れたところにいるためなのか、真面目な足取りで注意深く進むいっぴきに由来するものかは定かではない。ひょっとすると彼女らはいつもとても忙しく、急いでいるのかもしれない。
朝か、夕刻か。見かけるたびに心の中で声をかける。なんて事のない一言だ。たとえば今日なら、やあやあ今日は水色だね、もうじき夏だものね、といった感じ。
彼女らは少し離れたコンコースにいて、じきに私が降りるのとは違うプラットフォームへ消えてゆく。私たちは、言うなればそういう関係なのだ。