昭和42年の夏、私は撮影を終えた追分から、夕張線の気動車に乗り込みました。目指すは「夕張炭鉱鉄道」。
それまで活躍していた古典機を全廃し、新たに国鉄からキューロクの払い下げを受けて、実に8両のキューロクが集結しているという話を聞いたからです。キューロクの大量増備で、自社発注の11形4両の運命も気にかかるところ。東京の編集者から、H大学の鉄道研究会に取材を依頼されたので、たまたま講義がスカスカな私にお鉢が回った次第。そういえば、本気で夕張炭鉱鉄道を撮るのは初めてかな?まあ、キューロクなんかより、本線のシロクニ、デゴイチ、シゴナナを撮っている方が楽しいしね。
そうこうしているうちに、列車は鹿ノ谷駅に到着しました。
長い木製の袴線橋を渡っていくと見えました、夕張炭鉱鉄道の車両区(機関区)です。
車両区の脇まで来ました。早く機関車に会いたいところですが、まずは事務所にごあいさつ。
モルタル塗りで、入り口にタイルを張り付けているちょっとモダンな事務所です。斜陽の石炭産業とはいえ、炭都夕張の勢いはまだまだです。地方鉄道の事務所としてはかなり贅沢。
恐縮にも案内係として助役さんついてきてくれました。
「汽車好きなのかい?就職するのかい?写真撮るだけ?変わってるな、あんた。」
「バイトも兼ねてまして…」
「えっ!雑誌があんの!誰が読むんだい? じゃいいとこ撮ってくれよ!」
相当、変人だと思われているみたい。(SLブーム前のことですからこんなもんです。)
おっ!21号がターンテーブルを渡っています。早速パチリ。自社発注のキューロクはすこぶる元気です。
21号は給水スポートの脇に停車。給水作業です。私は、見晴らしが良くなった給炭台の全景をパチリ。しかし、なんでのこんなバタ臭いものを作ってしまったのでしょうね。日本国内どこを探しても、こんなのはありませんし。とはいえ、写真を送っても、編集者が面白がるかどうか…
給水スポート操って、テンダーの給水栓へ。後は給炭塔へ積み込む機関車燃料用の石炭の置き場です。雪止めがこれでもかと並んでいます。
給水が終わると、21号は少し移動して、点検を開始。私は作業員の方に取材。助役さんも聞いています。給水スポートの周りは色々な道具が雑然と置かれています。
21号のテンダーあたりで助役さんと雑談。「いやーこの機関車、古くてよく調子悪くなるんだわ、おっとし(おととし)にきた28号は最新式だから、調子いいべサー!」。
あれ?21号は昭和生まれの最後のキューロクで、28号の方が古いはずだけど…
まあ、私はスノープロウ昇降装置や連結器遠隔解放コテを観察できるから、かなり楽しい。鉄道模型社の9600を使って改造したいな~、バイトしないと無理か…
そうこうしているうちに、21号はターンテーブルまで引き上げられ、転向するという。しめしめ!じっくり撮影だ!
ターンテーブルの回転動力は尺取り虫式。機関車の蒸気を使って、桁の下のピストンを動かして、回転する。「シュッコン!シュッコン!」とにぎやかにぎこちなく回転する。
転向終了!ここでもう一枚パチリ。フィルム代は編集部持ちから、高価なエクタクロームも存分に使える!
21号は詩行点検をする機関庫の前に。おっと、傍らには、さっき話題になった28号!
門鉄デフの様な、「夕鉄特製デフ」がチャームポイント。これなら編集部も食いつくか。
(次回に続く)


注:本作はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係はありません。