Tokyo日記

社会学者のよしなしごと

ジュディス・バトラー

2006-01-16 00:33:01 | 本を読んだ
14日のお茶大のバトラーの講演会に行ってきました。雨にも関わらず、1200人の講堂に900人もの人が来たらしく、いまだ一度に知人にあんなに会ったことがないほどの人出でした。久しぶりに知り合いに会って、お話できて、楽しかった。

お茶大の講堂は椅子が小さくて、座るとキチキチ。なかなか辛かった。講演の内容はといえば、かなりベーシックなことを簡単に話された感じでした。ワシントンD.C.やニューヨークで聞いた講演は、かなり政治的でシンプルかつ理論的で刺激的なものでしたが、今回は理論家の名前も挙げず、ジェンダー、セクシュアリティ、アイデンティティの構築性とは何かについて、同性婚やインターセックス、トランスジェンダーなどの例を引きつつ、精神分析も簡単に使いながらレクチャーしたという感じ。きっと、大勢の人が聞きに来るという会の性格に合わせたんだろうなぁ。

それでも、通訳を聞いていると、格段に難しくは聞こえました。日本語に訳してしまうと、漢語になるので、かなり難しく聞こえる気がする。体内化、とか、耳慣れない単語も出てくるし(理論に関心のない人は、「難しすぎる」といっていたし、理論的なことに関心がある人は逆に、「もう少し突っ込んだことが聞きたかった」といっていたので、なかなか皆が満足する講演っていうものはあり得ないものだなと痛感しました)。質疑応答にも、バトラーはかなり簡単に答えていたうえに、通訳によって微妙なニュアンスや様々なものが零れ落ちてしまうのは、少し残念でした。

バトラーと会ったら何を話していいのか本当は前もって考えておくべきだったのだろうけど、質問がたくさんありすぎて、緊張。結局、学部の演習でバトラーのファンタジーについての論文を読んだばかりだったこともあって、表象の暴力について質問することに。質疑応答のときに幼児ポルノについて質問され、「ファンタジーや表象と実践は違うと思う」とかなりシンプルな答えしか返さなかったこともあり、もう少し突っ込んで聞きたかったのだけど、最終的には「アメリカと日本は状況も違うし、国家による検閲は反対だけれども、この問題に答えを出すことはできない。いつも実に難しい問題だと感じている」という答えをもらって終了。帰る道すがら、「ああ、講演を聞いているときに、ポジティヴなアイデンティティとポジショナリティ、責任、倫理の問題はどうなんだろうと思ったのに、そちらを聞くべきだった。表象の暴力については、答えは容易に予測できたのに」と反省。そもそも初対面の学者と話すのが上手くないうえに、英語でさらに緊張が高まってしまい、失敗でした。

にしても。バトラーの英語は親切だったなぁ。通常の2倍程度のスピードで、はっきりと外国人向けに話してくれていたし。質疑応答も、切って捨てるように明快というよりは、ゆっくりと、あちらこちらの立場のひとに配慮しながら、かなり穏当なことをいう感じ。

バトラーが、理論的にジェンダー、セクシュアリティ、アイデンティティをめぐる革命を行ったのは間違いないことだと思うけれど、ポスト・バトラーの理論家っていつ出てくるのだろうか。『ジェンダー・トラブル』から15年。そろそろ新しいパラダイムがあるといいのになぁ…。


2 コメント

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Unknown (石突潤子)
2006-01-17 22:45:55
行けばお会いできたのに残念でした。財政的な事情からバイトを優先させざるをえませんでした。親切な英語だったらばわたしにも理解できる可能性があったのに。

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お久しぶりです (本人)
2006-01-20 09:58:55
わぁ、お久しぶりです。お元気ですか?わたしもお会いしたかったです。



バトラーを生でみて、嬉しいっていうのはあるかもしれないですけど、絶対にどこかに活字にされると思います。だからしばらく待てば大丈夫ですよ。きっと。

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