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フクロウの街 4

2016-02-06 21:32:08 | ヒューマン
啓子はこの頃つけられているのを感じていた。元夫の新井武志はうつ病の時はおとなしいが、治っていると自殺未遂や奇行を繰返している。完全に治る病気ではなく夫婦の営みも不可能で、考えた末に離婚したのだが、武志は未練があるようだ。
買い物途中でも離れた所から見ているだけで近寄ってはこない。
山路にまだ話していないが、知られたくはないので、しつこくなるようなら何かしら手を打たなければならない。

山路は指定された日に丸一倉庫に出社した。
ごく簡単な挨拶の後、事務所の出口に一番近い椅子に座らされ、午前中は仕事の説明とパソコン操作を教わり、書類の入力を始めた。
昼休みは近くの蕎麦屋に行くことにしたが、外出の時倉庫の従業員を数えてみても12人しかいなかった。全員男で会話はほとんどなく、アルバイトの様にみえた。
午後も同じ内容の仕事で飽きてきたころ、先日面接で会った大沢所長がやってきた。
「ちょうど3時だから休憩にしましょう」
と言って近くの喫茶店に連れていかれた。
「ここは臨時の倉庫でね、市川に新しい物流倉庫があるんだ」
「書類を見ましたら工業部品の様ですが、何の部品なんですか?」
「とても特殊な精密部品でね、これだけの精度をだせるのは日本中でもそんなにありません」
「英文のインボイス(書類)がありますね」
「国内よりも輸出のがずっと多いんですよ」
17時になり、残業もないのですぐに帰ると、啓子が夕食の支度をしていた。
「あら早かったわね、もうすぐできるから、仕事どうだった?」
「内容は簡単でやりやすいけど、女性向きじゃないかな」
「そうかしら、でもこれから忙しくなるって言ってたわ・・そうそう、話は変わるけど、保険に入らない?」
「保険、入院の?」
「総合保険ね、これ1つで安心よ、いま入ってないでしょう」
「共済だけだけど、掛け金が安いし」
「それだけじゃ足りないわ」
山路は困ってしまった。