『蔭の棲みか』玄月 第122回芥川賞受賞作
作者は1965年生まれの在日朝鮮人。
在日朝鮮人の小説家というと『血と骨』の梁石日や『GO』の金城一紀を思い出すが、
玄月は梁ほどの派手な暴力性は無く、金城ほどエンターテイメントではない。
金城は自らをコリアンジャパニーズと称しているように、祖国に対しての強すぎる思いは感じなく、
むしろ日本に融和的であり、事実自身も日本に帰化している。
玄月の作品には一部警官などを除いてはまったく日本人は登場せず、
舞台はほとんど彼らの棲む朝鮮人に限られる。
この本には「陰の棲みか」「おっぱい」「舞台役者の孤独」が収納されているが、
「おっぱい」が芥川候補になり、「陰の棲みか」で本賞を獲得した。
作風は内面的であり心の内側を丁寧に描写し、
文章のところどころに小気味の良い諧謔を縫い付け、
時々、例えばペンチで尻の肉をひねり千切るリンチなど、冷え冷えとした暴力を描く。
また、エロティックなシーンも多く、
好色な国民性である朝鮮人の特徴をよく表現している。
爽快な感覚は無いが、
何が入ってるかわからないペースト状のスープを飲んでいるような味わいと興味深さが残った。
★★★★☆