『マルタの鷹』

2008-06-20 13:57:18 | 文学



『マルタの鷹』 
ダシール ハメット (著), 小鷹 信光 (翻訳)


米国のミステリー小説の中に「ハード・ボイルド」という分野を確立した象徴的作品。

1930年、ハメットは本書を上梓する。そしてその後この作品は3度映画化された。
中でも1941年のハンフリー・ボガードの一作は日本でも話題となった。

ところが本書が最初に日本語に翻訳されたのは1954年(砧一郎訳)であり、
1985年に翻訳した小鷹信光は『マルタの鷹』がこの世に出たとき、
まだ生まれてもいないのである。

つまり、小鷹も含めほとんどの日本人はボガードの映画で『マルタの鷹』を知り、
その後小説を読むことになった。

この小説は事件の推理を楽しむべきものではなく、男の作法を描いたものだ。

主役であるサム・スペードはとてつもなく乱暴な女好きの私立探偵だが、
彼の
『俺が見かけと同じほど堕ちた男だと、たかをくくらないほうがいい』
というセリフに代表されるように、
スペードは正義とは何かを示し、
男はいかに行動すべきかを教え、
一切の甘さを排除し、
愛したかも知れない女までをも、彼女の必死の哀願にもかかわらず断罪する。

ハード・ボイルドといえばチャンドラーのフィリップ・マーローを思い出すが、
サム・スペードはマーローよりも荒削りで猛々しく、
、、、悪く言えば繊細さに欠ける。
あくまで男っぽいのである。つまり、タフガイなのだ。


この小説を推理小説として読むと当てが外れる事になり、
その証拠に江戸川乱歩は
「『マルタの鷹』は探偵小説にもなっていない、読んでいて退屈でしょうがなかった」
と酷評している。

作者のダシール・ハメットは一時期米国共産党に入党し、
折からのマッカーシズムによるレッド・パージの嵐のとき、
友人の密告により起訴され、有罪判決を受け入獄。その後不遇のうちに病の為亡くなった。




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