『蝶のゆくえ』

2007-10-05 20:17:21 | 文学
出張中はいつもの事とて強烈に日本語に飢えるので、本を数冊携える事にしている。


この『蝶のゆくえ』はドゥオーモ寺院近くの『玉園』という中華レストランで読み始めた。


ハイネケンと海老蒸し餃子、玉子とコーンのスープ、海老焼飯をオーダーし


注文した後に海老が重なったことに気付き、悔やんだが、


海老焼飯がどうしても食いたかったのでそのままにしておいた。



この店の海老焼飯は絶品で、ミラノ滞在時には2,3度は食うようにしている。




『蝶のゆくえ』は橋本治が第18回柴錬賞を獲った作品で6つの短編からなる。


一作目の「ふらんだーすの犬」を2ページほど読んだ所で、


斜め前のテーブルにイタリア人らしいカップルが席に着いた。


ジーンズに小さなリュックを持ってキョロキョロしているので、地方から出てきた観光客のようだ。


ミラノはイタリア人にとっても重要な観光地で、時々団体ツアーに遭遇するが妙な気分になる。





本を読み進めていくうちに、余りに身勝手な登場人物たちに猛烈に腹が立ち


「ノヤロウ、、、」と呟いている自分の声に少し驚く。




コーンスープは通常さっさと飲んでしまうもののようだが


焼飯と一緒にいただきたかったので半分残しておく。


餃子は皮が厚く日本のものの方が美味い。




物語は淡々と語られ、橋本の感情をほとんど移入しないように注意深く描写されていく。


途中で本から目を逸らし2,3度深呼吸をする。




海老焼飯が来た。


桜海老というのか、3,4センチ位の透明な桜色の海老とグリンピース、


とても薄味でご、飯の甘さと海老の香り、豆の爽やかなえぐみに


小説のつらい内容と正反対の幸福を感じ、


その落差に、、、


地の底から雲を見上げるような


カシミアのセーターを着てゴミ袋から覗く生ゴミを見るような


強烈な上昇と落下に、、、


不思議な心地良さを思った。




この幸せと繊細とやさしさの象徴である焼飯を半分食べた頃


「ふらんだーすの犬」は最後の一行を迎えた。




この一行で私はやられた。、、、完全にやられた。




その数分前からいぶかしげにこちらを窺っていた例のアベックの女性は


この最後の一行を読んだ私の様子を見て目を大きく見開き


私のほうを見たまま、


手に持っていた菜箸で連れの男の手の甲をつついて私を見るように促した。




私の状態はどうやら普通ではなく、


気が付いていなかったのだが並びのテーブルにも人が座っており、


何とそのおじさんは私にハンカチを渡し、


うなずきながら「洟をかめ」とジェスチャーで勧めてくれた。





本を読んで涙を流す事はある。



、、あなただってあるだろう。




しかし、衆人の中で、、、レストランにおいて、、



嗚咽を漏らしたのは、、



、、、、、これが初めてだ。







最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>>カサエルさん (P@RAGAZZO)
2007-10-06 11:02:05
はは~~
おみそれしました。
返信する
わいの屁が一番や (カエサル)
2007-10-06 09:03:32
カエサルちゅうもんや 覚えといてや わいの屁はごっつう臭いでー
……第一に食いもんが違(ちゃ)う! ニンニク大好き、クサヤにホッケ、ホルモン、ギョウザ……。超人は、文字どおり、人を超えてへんかったらあかん。その印(しるし)ちゅうもんがあんのやね。印にはいろいろあるで。屁がゴッツウ臭いちゅうのんも、その一つやないけ。わいのんは強烈やで。かいでみるか。……
 ……ツァラトゥストラの屁は絶品や。わいもしびれたわ。……王将のギョウザは、もひとつやねえ。ビールが安いのはええわ。… ……そしてラクダは女になる。女は屁をする。音は聞こえないが、わいにはわかる。ラクダの臭いがするんや。修行がまだまだ足らんな。わいの鼻を曲げるには100年かかるで。……
 ……小さき人たちよ、私の屁の響きが聞こえるか。ニヒリズムが徘徊するヨオロッパに私の屁が響きわたる朝、私はうまい空気を胸いっぱいに呼吸する。おお、いちばん高い塔へ。いちばん遠く離れた塔へ一人登ろう!……
 ……ホルンの音、オーボエの音、大太鼓の音、ヴァイオリンの音、ピアノの音、……。どんな音色でもお望みしだいだ。私は私の屁とともにあるから!……
 ……十字架にかけられた者の屁を知っているか。その響きはその父を呼んだほどだ。世界中に響きわたった。… ……私の屁は音楽や。けど、ワーグナーみたいな腐ったのんちゃうで。……そやなあ、言うなら、ディオニソスの舞踏のようなもんやな。……
 ……それが何やねん。誰が天才や。わては法善寺横町のカエサルやで。カエサルのもんはカエサルのもんやないけえ。ええかげんにしたりいや、このへんで。ひとつ、屁でも聞かそか。……そや、キリストちゅうド阿呆の兄ちゃんをやったんは確かにわいや。それがなんぼのもんや。ほな、善哉食うて帰ろか。……田中真紀子の屁は臭い
臭い、臭いめっちゃ臭い。それが何ぼのもんや、わいの屁に比べたら足元にもおよばんわ。
 
返信する