私は紙袋から雑誌を出すと、彼女の前に掲げた。
書店のロゴの入った紙袋はいったん地面に落ちたが、歩道の横を通った自動車の風にあおられて、からからと地面を転げながら遠ざかっていった。少女がごくりと息をつめて見守っている。
私は先ほど見覚えのある作品の頁をひらき、最初の一枚を破りはじめた。
一枚、二枚、そして三枚。破っていくのがなんとももどかしい。
ほんとうは雑誌ごと破り捨てたいところだが、あいにくペンを握るのがやっというくらい、なまくらな私のひ弱な握力ではタウンページ並みの厚さをふたつに裂くことなどできやしない。これがPCのデータならば、指先ひとつでものが生まれると同時に、あっさりとまた消去できてしまうのだが。
おかしなことに、破っていくにつれて、私はいままでに心底つまらないと感じていた駄作の厚みというものをいやというほど知らされたのだ。漫画誌の紙というものが、これほど夥しい悲鳴をあげ、数枚重ねでねじ込まれたならば驚くほど抵抗の意志を示し、直訴むなしく破れ去るにしても、どうかすると古紙再生のトイレットペイパーのような独特の臭みを放たずにはいられないということを。
この凶行を見るやいなや、少女が悲鳴をあげて、私の腕に輪っかを通すがごとくすがりついてきた。
「ああっ、やめてくださいっ!! なんてことを!」
「駄作だから棄てるの、こんなもの人目に触れないほうがいい」
ふたりの手のあいだで、鈍い紙の裂ける音がした。
少女が手にかけた頁ごと雑誌から切り離されて、少女はぶかっこうに尻餅をついた。
それでも破れた切れ端を大事に折り畳んでスカートのポケットにしまい込んだ少女は、またしてもしゃにむに、私に食い下がって奪い返そうとする。
「だめっ…! レーコ先生の新作が…ああっ!」
しばらく揉み合っているうちに、私のほうがあっさりと根負けした。
徹夜明けでろくすっぽまともに食事していなかったのだ。しかも、小柄な私に比べたら、頭ひとつ分は相手の方がすこし大きい。ペンやインクよりも重いものを持たされなかった生活の代償に得たものを、あらためて知らされた気がしたのだ。
少女は、私から雑誌を奪うと、淡い瞳をいとどますます鋭くして暴挙をなじった。
もちろん言葉で罵るのではなくて、無言の表情で咎め立てたのだ。甘ちゃんのいじけたまなざしに怯むほど、私は臆病ではない。だが、しかし。その強い精気のこもったまなざしからは、さっきの平謝りする少女とおなじ人物とは思えなかった。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「ミス・レイン・レイン」