陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

『京四郎と永遠の空』第二・五話「逢瀬」 その2

2007-06-17 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


さて、すっかり陽が落ちてしまい灯りの乏しいアトリエ。
一日の作業を終えてヒミコが後片付けをしています。夜明けのコーヒーならぬ紅茶茶碗に口をつけるカオン様、なんとまだ全裸でした(爆)
いや、一応シーツ巻いてますけどね…なんでモデル終わったのに、とっとと服着ないんですか?!(わくわく←をい)
しかもなんだかここ、流しで洗い物を片付けている内縁の妻(エプロン姿だし)に、左遷で遠地に赴くことになったので別れを切り出す亭主みたいで、笑いがこみあげてきます(まだいうか)

…という冗談はともかく。


パレットを洗いながら次に筆をいれる機会を尋ねるヒミコの背中に、カオンは悲しげな声で絶望的な未来を告げます。明日にも「すべてを白紙に戻してくみなおす」再調整をうけるのだと…。次にいつ逢えるか判らない、カオンちゃんは戻ってこないかもしれない、そんな疑念が渦巻いてしまって、ヒミコの絵の具をこする手は機械的な動きをしてしまうだけです。それでもわずかな幸せを夢見て希望を口にするヒミコ、なんと健気なんでしょう(泣)本当は『神無月』最終話の姫子みたいに「もっともっと描きたい、スケッチブックをカオンちゃんでいっぱいにしたい、このアトリエのキャンバス全部貴女で埋め尽くしたい」と、泣いて縋りたかったことでしょう。ヒミコは大人になった姫子という感じですね、心身ともに。
今回は命を絶たれるわけではなく別離の度合いは巫女たちのほうが悲惨には違いないけれど、やはり身を切られるほどに辛いものであるはず。そもそもヒミコが敢えてミカ様の拷問を受けたのもカオンに何らかの危害が及ぶのを防ぐためだったわけですよね。だからこそ、骨身に軋むような痛みを与えられても耐えてこられた。調律のこともあまり把握してなかったのかもしれないし、ミカ様がそこまで酷いことをするとは考え及ばなかったのでしょう。痛みを押してカオンちゃんを笑顔で迎えられたのも、この日いつもより調子良く筆が進んだのも、きっとヒミコは自分への罰のみで許されているのだと気を緩めていたからなのでしょう。
たぶんカオンもそんなヒミコを気遣って、哀しい事実をなかなか切りだせなかったのではないでしょうか。
最初にアトリエの引き戸を開けたときの彼女はよく見ると、すこし後ろめたいものを抱えているような曖昧な笑顔を浮かべているようにみえます。そして絵のモデルになっている最中も、じつは始終このことが気がかりだったけれど、ヒミコに気取られないように装っていた。これが最後の逢瀬かもしれない、だから精一杯モデルを務めようと、ヒミコに自分のありったけを描いて貰おうと願って。もしかしたら、描画中のカオンの艶っぽい視線も秋波を送っていたというよりは、もう二度と間近でヒミコを眺めることはできないかもしれない。もし記憶が奪われたならば、こんな愛しい気持ちでヒミコを目にすることはできないかもしれない(その答えは第四話のラストを参照)もし何事もなく次にモデルになるのが確かならば、カオンはきっとヒミコの注文通りに、キャンバスのなかのいつもと変わらぬ穏やかな微笑みの偶像になっていればよかったのです。それをあえて破壊して、画家とモデルの見る/見られるの視線のヴェクトルを反転させるような真似をしでかしてしまったのは、いつになく不安が募る顔色をおさえ大仰な笑み顔で上塗りしてみせたかったからではないでしょうか。作り笑顔というわけではないけれど、なんとなくはしゃぎすぎなカオンの笑顔のなかに、ヒミコもなんとなく、ときめきと動揺を感じとってしまっていた。だからこそ、このときの笑顔をよけいに心に刻んでいたのかもしれないですね。それはまだ、ヒミコが描いたことのない笑顔だったのかも。
カオンに涙を隠してみせるヒミコも、そんなヒミコを慮って後ろから翼で覆うように優しく抱きしめるカオンちゃんも、切ない…けれどとても強いのです。やはりこの二人はいくども愛別離苦を通して絆を深めてきた姫子と千歌音の完成形態というべきでしょうか。
このあとのカオンちゃんの言葉がまた泣かせます。

「心配しないで、ひみこ。どんなに遠くに飛ばされたって大丈夫。どんなに掻き乱されたって平気。本当の私はちゃんといるわ…ここと、ここにね。だから絶対帰ってこれる、迷わないで帰ってくる。何があってもひみこのところに」

カオンちゃんのこの台詞、最終話のあの感動の「ただいま、ひみこ」に繋がっていたのですね。
ヒミコと紡いだ想い出を削がれてしまっても、光の閉ざされた牢獄に連れ去られたとしても、ちょっと遠くに出掛けにいくようなもの。たとえその逢えない期間が数刻であろうとも、千年万日であろうとも辛さにかわりはないだろうけれど「私は消えない」という信念、そして「私を見つけて」ではなく「私は帰ってくる」と俄然言い切ってしまう強さ。なんという深い想い!

そんなカオンちゃんの決意に触れて涙を拭ったヒミコ、なんとキスをおねだりです!
眼鏡もちゃんと外しておくという用意周到ぶり!

しかしカオンちゃん、あっさり拒んでしまいました。もちろんヒミコの体調を気遣ってなのですけれど。
ヒミコの積極的な行動に思わず、花も恥じらう恋乙女らしく頬を染めちゃうカオンちゃんの表情も描いてくれるとよかったですね。あっさり指先で制してしまったのが、惜しい、実に惜しい。この二人にとってはキスなんて慣れっこで挨拶みたいなもので、実質カオンちゃんにとったら食事なんですけれど、そうじゃない深い意味がある。触れてみたいけど触れられないそんな葛藤が表れているとよかったのですが、時間的に厳しかったのでしょうか。

が、しかし!ここでひきさがるヒミコではありませんでした。
な、なんと!フェイントかまして、自らカオンちゃんの唇を奪ってしまいました!!
ヒミコ、
恐ろしい子!
(嬉)
いやあ、やっぱりいざってときはデキる女(ひと)です!

「かおんちゃん、わたし大丈夫。震えるほど怖くたって、泣きたくなるほど痛くたって、そんなのちっとも大したことじゃないよ。かおんちゃんを大好きなこの気持ちだけは誰にも塗り潰せないんだから。絶対、絶対できないんだから。たとえ何回引き裂かれたって、わたしたちはまた出逢って恋に落ちるの。ずっとずっと永遠が終わっても、わたしはかおんちゃんの…」

則ちゃんの愛情たっぷりのモノローグなんですが、いやはっきり申し上げて、画に釘付けになって視聴者の大半はここもう耳に入ってないでしょう。シーツが、シーツがぁあああっ!(はなぢ)

それにしてもいったん焦らしておいて、ラストにボーナスショット!
おいしすぎます。ありがとうございました!!


【その3に続きました…?】

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