陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

『ヤミと帽子と本の旅人』

2007-06-10 | テレビドラマ・アニメ


以前から視聴してみたかったアニメその2「ヤミと帽子と本の旅人」のレヴューです。
ちなみに、ネタバレや酷評ありますので、未見の方およびファンの皆さまは即刻回避をおすすめします。

このアニメ、数年前帰省したとき深夜に放送していて気になっていました。
U局のアニメなんてほとんど放映しない田舎の地方局、『ウテナ』を深夜枠で放映していたのすら画期的でしたので、きっと有名なアニメなんだろう。そう思って一話だけ断片的に観まして、幻想的なつくりに少し心惹かれましたが、その時点では全話観たいとは思いいたらず。
そのときは百合に傾倒もしていなくて、しかもこれがけっこうな問題作だとも知りませんでしたとも。
それで今回再チャレンジしてみましたが、やはり視聴後感としてはイマイチです。

アダルトゲーム特有のお色気シーンがあって、正直胸のすく内容ではありません。
あと、話の組み立てが非常に複雑でわかりづらい。
最終話のエンディングで、本来の時間軸に沿った映像が流れてはじめて話の順序がわかるのですが、本放映でストーリーが追えずに見切ったひとも多かったのではないでしょうか。一話できれいに完結させるか、連続ものでも次回への期待を抱かせる劇的な繋ぎ方をするのが定石。その工夫をあえて放棄したのは、ある意味、新しさを追求していて手法としては評価できるといえるのですがね…。

第一話の出だしが印象的だったのに、Bパートからいきなりストーリーの方向性が曲がりっぱなし。あのヘンテコな関西弁喋りのひよこまんじゅう(笑)の登場で百合テイストが台無しに!
いきなり、シベリア超特急とか、日本昔話な世界とか、宇宙圏ですとか、もうごった煮の舞台です。アドヴェンチャーものが好きな人にはうけるのでしょうけれど、この継ぎはぎのような構成のせいで物語として純粋には楽しめなくなりました。

でてくる人物も、いかにも紋切り型で下品なザコ悪役とか、なにかとダンシングポーズ決めするワカメ頭の錬金術師(子供のときはあんなにかわゆいのに!)とか、やたらエロぶりっこなリリスとか、とうてい受けいれられなかったです。葉月ちゃんと初美の純愛モードが、掻き乱されてしまって腹立たしいくらい。自分を一人称じゃなくて、自分の名前で呼ぶキャラってなんか好きになれないんですよ~(ヤミ帽ファンにものすごい喧嘩売ってますね、あーた)

で、とりあえず三話以降は、葉月ちゃんと初美のシーンだけ観ようと思いまして、セレクトしたのが六~八話、十一~十三話(最終話)です。
七話の例のあのシーン、噂で知っていましたけど、思ったほど衝撃的ではなかったですね。『神無月』八話で耐性できてしまったからでしょうか(笑)
十二話の葉月が初美を引き止めたいあまり、手にかけようとするシーン、そして無情な訣別。かなりかなり切なかったです。
そして見どころなのは十三話。これは第一話につながっていて、初美(イヴ)と別れたはずの葉月が、最愛の姉と想い結ばれる場面です。すごく美しく描かれていて、ここだけ何度も観なおしてしまいました。

にしても、武道に長けた凛とした黒髪の美少女と、可憐な笑顔のにあう栗毛色の髪の少女(しかも赤リボン!)。
どこぞで見かけた百合カップルですよね?
いや、制作年からいいましてこちらのほうが先輩格なんですけれども。初美ちゃんのあのあどけない笑顔には参りました!どこの本の世界にいっても、住人たちに愛されてしまうのも頷けますし、あの葉月ちゃんが狂ってしまうのも無理からぬことです(だからといって寝込みを襲うのはどーかと思いますが(笑))しかし、男をつくって妹をやきもきさせたり、偽ラヴレターでモーションかけてみせたり…来栖川姫子以上の天然悪女っぷり(笑)

そして葉月ちゃん。
ビジュアルがほんと千歌音ちゃんです。
日本刀を振りかざすセーラー服美少女、かっこいいっ!!
外見といいますか、声が能登嬢なのにびっくりしました。ちゃんと長いセリフ回しのあるキャラ演じてたんですね、彼女(失礼ですね)
物語のはざまに消えてしまった想い人を探して、多層世界を渡り歩く葉月ちゃんがとても健気です。
葉月ちゃんはもちろん初美のことしか眼中にないわけですけれども、旅先でであう相手と交流を深めていくところも見どころだったりします。(リリスにはあいかわらず冷たいですけれど)
私が好きなのは、成長を止めた少女ミルカと添い寝する六話と、竹取物語をベースとした八話。
後者は、初美に生き写しの藤姫に、彼女への想いを重ねてしまう葉月ちゃんが哀れで(泣)そんな葉月ちゃんを膝枕して慰めてさしあげる藤姫さまが、もうひたすら素敵です!和服美少女萌えな私めとしましては、たいへんおいしゅうございました。ちなみにこの回、月夜に華麗な剣舞で敵を一蹴する葉月ちゃんの殺陣シーンが見事ととしかいいようがありません!!

しかし、初美が葉月の娘として生まれ変わるというオチは、解せなかったです。
(おこるべき未来として伝えているだけで、そういう描写があったわけではないのですが)
まさか処女懐胎じゃあるまいし、葉月ちゃんに男性の影をちらつかせているエンドを用意することで、これってやっぱり男性向けエロゲームなんだなぁと。
姉妹百合(ほんとうの姉妹ではないけれど)という設定も、私としてはツボを得たシチュなのだけれど、ある種の打算をよみとってしまいます。同性と近親という二重の禁断性。絶対に結ばれない法則は、おセンチなお膳立てでもあるし、ヴァーチャルラブアフェアの安全弁でもある。葉月ちゃんが「ボク少女」なのは、なんとなく仮想男として考えられているからなのでしょうか?

文句を並べ立ててしまいましたが、ヒロインのひとりが物語世界を統べる女神様で本のなかをさすらっているという設定は、なかなか面白いと思いました。あんなふうにいろんな世界を行き来して、多くの人生を生きられたら楽しそうです。

ところどころ心に残る台詞もありました。
「あなたにとって大切なものは、追いかけても捕まらないわ。それははじめから、あなた自身のなかにあるのよ」
職務に戻らざるを得ない初美ことイヴが、まどろみの一夜を過ごした葉月に送る別れ言葉ですが、恋愛というスタンスを抜きにして考えてみると、神妙なニュアンスをもって響いてくる台詞でした。青い鳥のように掴んでも掌からすり抜けてゆく幸せ。残るのは羽先で撫でつけられたような、ひとときの喜びの感触しかない、そんな寓意なのかも。

ようするにあのオチは、東葉月はイヴの用意した物語をあてどもなく旅する読者から、もうひとつのイヴそのものを生み出す創作者となったということなのでしょうか。すなわち、誰しもの実人生のなかに引用される神話的存在としてのイヴは、葉月によってつくられることによって、はじめて限られたストーリーを生きられる存在となるということです。ひとつの物語の登場人物として永遠にふみとどまることはできないイヴにとって、葉月のなかから生まれてくるということは彼女本来の願いでもあったのかもしれず、自分を一番深く愛してくれた葉月だからこそ、その夢を託したのかもしれないです。けれど、葉月にとって好きなのはあくまでも「お姉ちゃん」としての初美ではないでしょうか?
ま、そのうち性懲りもなく仕事をエスケープして、しかも別の世界へ飛び込んでいそうなイヴとの再会をあてにするよりは、自分だけの初美として手元で育てたほうが葉月ちゃんにとっては幸せなのかもしれないですけど(笑)幻想の相手にいつまでも思い募らせているよりは、現実に愛を産み落としたほうがいいという、社会的含意がそこにはあるのかもしれないですね…。
出来合いの幸せを探し求めて宇宙の果てまでさすらってみても得られない愛。ならば自分の手でつくってしまえばいいと読み替えておくべきか…。

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4 Comments

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Unknown (SS)
2007-06-10 23:29:05
…う~ん…男性向けエロゲと言っても、
実際評価されているのはガチ百合、絶愛!
って感じの作品こそ!って記憶“も”有るSSです

…やっぱ、ね…KIAIの入ってない購買層に売るにはそういうのも要るのかなぁ…とか思ったり;;

エロゲ類には手を出したのは最近で、情報入手した
シナリオが良いらしい作品だけ友人に貰って
PCデータとして積んでいる状態にあります
アトラク=ナクアとかは何時かやってみたいんですがね…いまのとこAIRとかFateとかしか所有していなく…未だほぼ手付かず
例外的に買ったときより二年ほど前から何故か
情報を入手していて、一人暮らしになった後、
DL販売されるのをずっと待って買った
ライアーソフトの「Forest」って作品が有ったり
しますがw コレはオススメです 金額分は損させません!
(何気に宣伝 けどマジでオススメ 
 百合ではありませんが)
いや、やっぱ7割の確率で外れる 人を選ぶ!
けど貴女なら大外れはしない気がする

閑話休題

さて、ヤミ帽なのですが…
私、未だコレ見てないんですけども、大体の概観は
聞き及んでいて、納得いかねぇENDだなぁと感じました
けどまぁ、未だ見てないのでどういう感想を持つかは
未だはっきりとは判りませんがね
そして此の作品を知った頃に、…神無月が、何故アレほど評価を受けたのか、良く判りました

何処までも、愛を貫いた!って作品が…希少なんですもの…;;
男女モノも含めて!
需要、少ないかな・・・?どうしてもそうとは思えないのだけれども、ね…

姉妹、同性愛、ココで諦めずに突っ走ってくれれば
周りのナニカを歪めても、エゴに突貫すれば…!
評価は真逆になったかも知れませんね
絶対に結ばれないと思わせて…!とか

神無月2世が生まれる日はくるのかな…?
神無月の二期って意味では無く、ね
返信する
「初美帰ろう」で泣いてしまいました。 (万葉樹)
2007-06-11 19:06:37
ごきげんよう、SS様。
お立ち寄りくださりありがとうございます。

すごい難くせつけまくりで、おまけに重大なネタばらしまでしてしまったのですが、『ヤミ帽』は葉月と初美のシーンだけとりあげれば、かなり百合アニメとしては良質な出来だと感じてはいます。初回冒頭の葉月のモノローグは引き込まれてしまいましたし。あの二人の場面だけならほんとに何度でも繰り返し観ておきたい作品です、私にとっては。ただ同人誌ではなくあくまで全うな物語なのだし、ターゲットを拡げるためにも雑音の要素が含まれてしまうのはしょうがないのかな~。そういった百合の外側の部分をどこまで受容できるかで、愛着度がかわってくるのでしょう。私も当初、『神無月』は姫千歌だけが目当てでそれ以外は早送りしていたぐらいですが、今じゃキャラもロボも丸ごと大好きです。『ヤミ帽』はなんといいますか、そこまで好きになれる作品じゃないんだな、これも、というのが判って悲しくて。あとやはりくどいようですが、男の視線を感じさせるようなエロスはいただけないのです。

>絶対に結ばれないと思わせて…!とか
初美のいない現実界に嫌気がさして葉月がふたたび本の世界を彷徨いはじめ、イヴが葉月逢いたさに思い詰めて職務放棄、ラストはふたりしか登場しない物語のなかで落ち合って永劫に生きるなんてのだったら納得するのですが。(それじゃ『ウ○ナ』か『神無月』漫画版だよ(苦笑))制作者はあえてこんな素人でも思いつきそうな、そして閉塞的な結末を避けたのでしょうね。
葉月が初美を求めて命がけの冒険をして巡り会ったというのに、彼女の想いはどこまでも深刻でいつまでも一途なのに、それを振り切って元の世界に戻ったイヴが無邪気にリリスと戯れていて終わる。初美の人格じゃないからしょうがないかもしれないですが、やっぱり葉月ちゃん報われていないんだなぁと。最終話ED後の映像も腑に落ちないのです。
これに比べたら、たしかに『神無月』が百合アニメの金字塔として密かに称される理由がよくわかりますよね。

>何処までも、愛を貫いた!って作品が…希少なんですもの…;;
男女モノも含めて!

いまは自由恋愛が主流ですから難しいのですかね。『神無月』の根底に流れる古めかしい価値観が私は大好きです。

>神無月2世が生まれる日はくるのかな…?
『ストパニ』ですとか、派生物はいろいろあるみたいですけど。『神無月』を超える作品がでてほしいような、それでいて寂しいような…。

ところでForestについてですが。
公式HPやらいくつかレヴューサイトやらを回ってみまして、少し興味が湧きました。『タイタニック』のBGMを思わせるケルト民謡のような音楽と、膨大な童話からの引用、あっさりしたキャラ造形などは私好みであります(なんで私の好みがわかったのでしょうか?)ただエロ度抑えめとはいえ男ひとりに美少女ハーレムの構図と、新宿というやさぐれた舞台背景がネックなんですね…。といいますか、そもそも万葉樹はドラクエもファイナルファンタジーもいまだプレイしたことのないゲーム音痴でして、長時間同じ場所に縛られているのがとても苦痛なのです。百合作品ってアニメよりゲームのほうに良作が多い印象をうけるのですが、あえて避けているのはそのためです。小説やら漫画みたいに、好きな頁から気軽に読みはじめられたらいいのですけれど。ゲームって腰を据えて計画的に物事をすすめる人に向きそうですよね、すごく忍耐力を必要とされる高度な遊びだと思います。しかし現在のところ『京四郎』DVDやら他もろもろのために懐具合が寂しくて手が出せないというのが一番の本音です、はい、すいません(平謝り)いつかは手を出したい領域なんですけど…。

でもでも、自分の知らなかったことが垣間見えまして、ちょっと得した気分になりました。SS様の情報提供に感謝します!
ではでは。
返信する
なんとなくもう一投♪ (SS)
2007-06-12 15:36:46
連投お許しを~SSっす

私はデジタル媒体のゲームが最も付き合ってきた趣味
でしてw
まあアクションやらRPGやら山のようにやってきた者なのですが…
私的なForest感は、アレですね…凄く素敵な本に出くわした感覚でしたね
選択肢を選ぶのみのヴィジュアルノベルの上、本当に本か何か読んでいるか…或いはアニメを見ているか、ミュージカルを見ている感も有りましたねw
まあ此の作品の主人公は、「物語そのもの」という
印象が強いせいでしょう 
キャラ萌えではなく、シナリオ萌え作品?

混乱させられることを愉しみ、判らないことをも愉快に感じられる性質が僅かでもあるならば、苦痛、忍耐を感じさせないことを請け負いますw
そして此の作品、計画性など愉しみの邪魔!

唯…24時間位罹ってしまうのが欠点であり、ノベルゲームの宿命;; 年中忙しすぎる方には薦められない;;

嗚呼、何故私は人にこう勧めるのがアレだと判ってて
好きなものをねちっこく書き込んでしまうのか
私の性癖っぽいので、お許しを…!

あ、あと最後に!
此の主人公、ハーレムには程遠い!
罵られ、警戒され、主人公にすら…なれたのかな?

返信する
私、ゲームのことはよく分からないけれどSS様が大好きなのはよく分かるし。 (万葉樹)
2007-06-12 23:44:00
ごきげんよう、SS様。
毎晩、どーもです(笑)
情報量が少ないものですから、自分のお気に入りを人から勧められるのって私としては嬉しいものです。
感想にしても頭ごなしにけなすよりは、褒めたたえている方が読み手としては楽しいものですし。対ヒトでも対モノでもなにかへひたすら愛情がひしひしと感じられる文章を読むのは楽しいのです。

Forestの主人公、わりと中性的な顔立ちなので結構タイプですけどね。
女ハーレムものって、必ずしも王様ゲームというわけでもなくて、個性的なメンバーを集めていて、女の子でもとっつきやすいようにしてあるのかもしれませんね。音楽とシナリオは良さそうですが、なにぶん時間がとれそうにないです。それにしても、映像の質もTVアニメを上回るものが多くて、最近のゲームってすごい進化しているなぁと思いました。
コメントありがとうございました!
ではでは。
返信する

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