陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ「進撃の巨人」The Final Season完結編(後編)

2023-11-05 | テレビドラマ・アニメ

続編のシーズン楽しみだなと言いながら、忙しさに紛れて、その後、疎遠になったアニメだの映画だのはわりとありました。
しかし、たまたま運よく情報をキャッチして最終回の地上波放送を手帳に記入できたのは、アニメ「進撃の巨人」The Final Season完結編(後編)。
文化の日三連休の中日、土曜深夜にNHKにて。私としてはとてもありがたいスケジュール。とてもじゃないが、日曜深夜で翌日出社日になんて観れたものではない。しかも、驚くべきことに、通常の四話分を1時間半ほどにまとめた一挙放送だったのです。時間のない社会人にはこれまたありがたい配慮。原作既読組のウェブネタバレがありますから一気見のほうがよろしいわけで。


以下、ネタバレがあります。要注意を。






アルミン、ミカサおよびライナーたちマーレ軍戦士を乗せた飛行機が、進撃の巨人エレンめざして決死行。世界じゅうはイェーガー兄弟がもくろんだ巨人の大群の地ならしで阿鼻叫喚の惨状に。エレンの助命を諦めきれないミカサ、しかし、超巨大巨人の爆発力をもつ切り札アルミンをさらわれ、さらに歴代の巨人たちが襲い掛かってくる!! 死闘のさなか、リヴァイ兵長以下はもはやエレンの爆殺しか他なしとの決断をする…。

原作漫画の最終巻を読んでいたので流れは知っておりましたが。(「諌山創の漫画『進撃の巨人』第34巻」
ほぼほぼ筋書きは変わっていないラスト。コミックを全巻すべて読み通したわけではなかったので、急に場面がいれかわってミカサとエレンの穏やかな日常回になったり、当時は混乱していました。スピード感のあるアニメならではの迫力ある戦闘シーンに魅了され、あっというまに終わった一時間半でした。赤ちゃんのおくるみのパートカラーとか、映画のシンドラーのリストを思わせますね。芸術的センスが素晴らしい。

特に印象深かったのは、アルミンとジーク兄さんの禅問答シーン。
アルミンが手にしたものが枯れ葉なのに、ジークにはそれがボールに見える。かたや、幼馴染三人が秋の夕暮れにかけっこをした日々の思い出。そして、父親と思しきメンターおじさんにもらった繋がりの宝もの。それぞれが生きている幸せに気づいたシンボル。アルミンが手にしたものは増殖する生命体の末路。風に吹かれて消えていく運命の葉っぱ一枚でさえ、子どもの心に温かみを残すことを教えられたジークは、この世界から生きとし生けるものを根こそぎにする愚かさに気づいたのでしょうか。彼の改心が戦局を好転させることに。

このジークに出会う直前、戦闘力では他に劣るアルミンが動かない自分のからだに慟哭していたのが印象的ですね。声優さんの演技も迫真。ジークも実父に教育虐待を受けた魂の傷のために引きこもっていて、人類抹殺計画を企てたわけです。ジークを戦闘能力でこらしめたのではなく、自首させたかたちにしたのは、なかなか救いがありますね。大量虐殺犯なので、やはり報いを受けねばならないのです。そして、家族愛を知らないジークにはユミルの欲したものが理解できなかったと。

ミカサやジャンたちがあばら骨巨人エレン(終尾の巨人というらしい)と苦闘を演じているさなかにも、生き残った人類――エルディア人避難民たちとマーレ人兵士たちはあわや一戦交えるかという空気に。この期に及んでまだ争うのかと。それを変えたのは、アニ・レオンハートの父親。巨人化能力を持つものもそうでないものも、一丸となって事態を見守る。

アルミンの超巨大巨人がエレンを吹き飛ばし一件落着かと思いきや、例の往生際の悪いニョロニョロが! こやつ、とんでもない反撃に出てきます。
連載当時はたしか最終話直前で、この絶望的なシナリオ。ネットでネタバレを見てしまったのですけども、さんざんな意見が集まっていた覚えがあります。どーやって締めんのよ、この現状。悲観論が大半だったような。そこからあの大逆転フィナーレに向かうのですが、けっしてハッピーエンドではないのだけども、胸が軽くなる、希望が持てる幕引きではなかったでしょうか。

アニメではリヴァイや、ファルコらお子さまたちのその後にオリジナルなものになっていましたね。
ジークの信奉者だったイェレナが野球グラブとボールを難民キャンプらしきところで支給していたのは、現在のウクライナ侵攻だとか、パレスチナガザ地区の襲撃だとかを思い起こします。

私がこのアニメをはじめて観たのは、エルヴィン団長率いる調査兵団と、獣、鎧、車力等の巨人が戦闘するシーンからでした。
原作漫画は身内が愛読していたのでチラ読みしたことはあるものの、絵柄と四肢欠損などのグロさに耐えられずに避けていたふしがあります。本格的に引き込まれたのは、NHKで放映されていたマーレ編からでしたかね。すでにその頃、エレンは主人公らしい熱血漢ではなく、クールな悪漢に徹していたので、とくにキャラ変の違和感もなく、むしろライナーたちマーレ側のほうを応援していたぐらいでした。サシャをうっかり射殺したガビはなぜ許されているのか。銃を手にする日常を子どもに与えないことの大切さ。

ミカサがエレンに行った最後のあれは、オーブリー・ビアズリーの挿画のサロメを想起する方が多かったことでしょうね。生首に口づけをというあの衝撃的な。もちろん、ミカサは悪女ではなく、世界を救った名もなき寡黙な女性戦士。しかし、エレンの埋葬のために、その功をアルミンに譲り、遁走しなければならない。彼女の余生は漫画版ではわりと明らかに描かれていて、カップル論争を呼びそうだったのか、アニメ版ではエンディングロールでぼかされていましたね。

エレンに介錯をする直前の、ミカサの泣き笑いとエレンのかすかな笑みとが、いかにもこのふたりの長年の絆を匂わせて美しい場面です。ここのシーンは原作のほうが胸に迫っていた画だった記憶があります。ミカサを守りたくて、エレンはわざと嫌われようとした…って、どこか神無月の巫女の千歌音ちゃんに近いですね、行動の真因が。

この完結編(後編)は劇場版にもできるクオリティで、実際にそうすれば、世界的ヒット作「鬼滅の刃」並に、かなりの興行収入を上げたと思われます。
それでもあえて、NHKが地上波放送にこだわったのは、戦争の不条理さや人類愛、生命の繋がりについて問いかけをする稀代のこの名作を、誰でも気軽に観て、何かに気づいて欲しかったからではないでしょうか。人類史上語り継がれるべき傑作漫画ですね、もはや。

ダークヒーロー化した主人公が犠牲になって世界を救うという展開。
一歩間違うとショッキングの山場だけつくった刺激だけしかない後味の悪さが残りがちなのですが。本作の場合、大人向けの色恋沙汰を露骨に紛れ込ませなかったのと、地味なキャラであっても華をもたせる活躍をさせていたこと、残酷とも言える死にもそれなりの理由があり、読者に考えさせる要素がある。かつ、安易に魔法だの奇跡だの、転生だので蘇って、とってつけたような大団円でおさめなかったことが、すこぶる好印象ではありました。今の年齢だからわかる味わい深さがあります。

これの第一巻の単行本が出た時、新聞の一般文芸の誌面で書評されていてびっくりしたものですけども、今なら絶対にわかります。学校の図書館に置いてもいいような漫画ではないでしょうか。けっしてゆがんだ性癖のホラー好きが嗜好が嵩じて描いた作品ではないですもの。

生活の楽しさをとりもどすのは、平和を維持するのは、特定の権力者だとか、能力ある勇者にお任せではなくて、我々平凡な市民ひとりひとりなのだと教えてくれるのです。

私的には、「鋼の錬金術師」に並ぶ傑作のひとつです。
原則的には画力があまりという漫画は好まないのですが。絵が整いすぎても話が退屈な漫画もあるもので。最終巻近くになると、顔の表情に繊細な線がかなり多く、巨人のスケール感なども壮大で、物語の構築もかなり緻密で複雑。難しい台詞ではないのに、文学性がある。この作品は、いまだ争い続ける人類への教訓として、諌山創という表現者を世に送りこんだのではないか、と思わせる程です。九州とか北海道とかの自然に恵まれた地方生まれの作家さんは、空間意識がすぐれているので、田舎好きな私の肌にはよく合います。「進撃」は武具だとか巨人の設定や舞台のあつらえもかなり独特で、中世的な色合いで落ち着きがある。世界観もちゃかちゃかしたゲームっぽいファンタジー色がないので、とっつきやすかったものです。年齢とか人種の描き分けもしっかりしているし、実写映画のようなクオリティもありますね。そのうちハリウッドで実写化されてもおかしくはなさそう。スターウォーズに匹敵できるぐらいの人気は得られるんじゃないですかね。

三連休中にとてもいい作品の締めくくりを見られて、とても満足です。
人類を救うため、家族と再び出会うために、未曽有の脅威に諦めなかったキャラクターたちの勇気や友愛に励まされて、明日を生きることにします。原作漫画の最終巻は空き家に保管してあったので、ときどき読み返していますね。


(2023/11/05)


【関連記事】
アニメ「進撃の巨人The Final Season完結編(前編)」
今年の3月に前編をちら見したときは、いささか悲観的な意見でした。当時、勤め先の年度末決算作業でしんどかったからかも。














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