陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

諌山創の漫画『進撃の巨人』第34巻

2021-09-30 | テレビドラマ・アニメ

世の中には俎上にのぼらないだけで、すぐれた漫画はいくらもありますが。
それほど普段から漫画を山のように読まない人間からすれば、入口はたいがい実写ドラマ・映画もしくはアニメ放映が多かったりするものです。以前の記事にも書きましたが、私も「進撃の巨人」のことを詳しく知ったのは、NHKアニメでのThe Final Seasonの視聴からでした。

今年春先の放映終了時に盛り上がり、最終話が全世界的なトレンドになったという。そんな話題の漫画の終焉をこのたび堪能してみました。発売日2021年6月9日。すでに三か月は経つので、以下、ネタバレを含みます。未読の方はご注意くださいね。


なお、私が買ったのは通常版です。コンビニ限定や書店限定の特装版もあった模様。
これまでの物騒な展開が嘘かのような穏やかな書影ですね。
過去、2巻以降では人物紹介があったはずですが、最終巻はないのかな? 135話から139話を収録。


***

世界各地で起こる無垢の巨人による地鳴らしが進むさなか。
リヴァイ兵長とアルミン、ミカサらをふくむ調査兵団有志、およびライナーらマーレの戦士側が共同戦線を張って、対エレンこと進撃・始祖の巨人ら巨人軍団と交戦中。ちょうど今春のテレビアニメでは敵対していた双方が歩み寄っているのは、なんともいえぬ感慨が。それにしても、最終巻なのに、エレンときたら主人公の風格まるでなし(笑)

参謀役のアルミンは巨人の体内に囚われ、そこでイメージ世界「道」に。
そこで地鳴らしを操っていたジークと対面。生命の目的について、静かな対話を行うふたり。始祖ユミルが「死の存在しない世界」にとどまったのはなぜか。ジークは理解できないが、エレンにはできたという。そのあと、互いの想い出のなかで大切なものを渡すのですが、アルミンにとっては葉っぱ(生物)だったものが、ジークにとってはボール(無生物)だったのが印象的ですね。弁の立つアルミンが諭したわけではあるまいに、ジークはリヴァイに身をさらすことを選び──巨人の進撃が中止。エレンの首も爆破され…。

人類を脅かした長い悪夢から覚め、喜び合ったのも束の間。
ジャンやコニーたち同志を襲ったとんでもない事態が?! そして、覚悟を決めたミカサはエレン巨人の口のなかへ決行し──。

最終回直前話でどんでん返しがあり物議をかもしたあのエピソード。
たった一話でいきなりひっくり返すのもやや強引かとも感じつつ。こういうスピード感がこの作品の持ち味なのでしょう。スリルがありますね。

ミカサの山小屋回想シーンからいきなりあの場面に飛んだのは衝撃的です。
オードリー・ビアズリーの「サロメ」ですよね。そして始祖ユミルが子孫のエルディア人に望んでいたことがそれで、両親に愛されて洗脳もされなかった次男坊のエレンだからこそできたのがそれだったと。エレンがなぜ急に朋友たちを裏切って独自行動をとったか、その真の目的については、わりあい読めた方が多かったのではないでしょうか。「お前がずっと嫌いだった」の言葉で袂を分かつことになったエレンの真意をミカサが汲んだというよりは、それで最後にしたくはなかったのです、彼女は。誰かを悪役に犠牲者に仕立てないと、こちらの正義が立たないというのは、どんな組織にもある悲しい摂理です。

ただ、あの光るニョロニョロ、苦しめたわりには意外にあっさり消滅したのが驚きでもありましたね。少年ジャンプの漫画だったら、別ものに進化したり、誰かの個体をのっとったりして、もっと引っ張りそう(笑)。

巨人化能力をなくしはしたけれども、世界から戦争がなくなるわけではない。
アルミンたちとマーレ側ほか各国との平和交渉はやっと緒についたばかり。第二次世界大戦後に核兵器保有に踏み切ったあとで軍縮に動き出した現人類の未来像のようですね。

ところで、あの本文ラスト。
別冊マガジン掲載分では木の下のミカサで終わっていたようですが。単行本では少し加筆がありまして、顔はわからないけれど、ミカサの夫らしき人物はあの人…ですよね。そのあと、戦争でパラディ島が滅ぼされて残った木が不気味で、そこに旅の少年が近づいて──という意味深な幕引き。これはもしや、いつか、次世代編があったりする前振りなのでしょうか。

***



アニメ放映後にネットでさかんなネタバレを観てしまいまして。
本屋にあったのでにわか興味で、とりあえず最終巻のみ読んでみようと思った次第です。

10年という長期連載に相応しい、いい最終回でしたね。
最近の少年少女漫画の主人公は裏があるタイプが多くて、この扱いに異論もありそうですけど。ただのキャラクター人気に偏ったファンタジーではなくて。

キャラの顔の判別がつきにくいコマもありましたが、なにせスケール感の違う人間と巨人を同居させて動かすためのパースのとりづらさや、デザインの難しさもあったでしょうし。著者は九州の山あいの生まれとのことで、田舎の人間だからわかる自然の美しい描写や壮大な奥行き、人間関係の泥くささがうまく絵に表れていますね。こういう風貌のひと、いるいるって思いながら読んでいました。

諌山創氏の投稿作もネットにありましたので拝読しましたが、たしかに画力は拙いけれど、テーマの力強さはほの見えますし、この作家さんを世に出した編集さんも目利きだったんでしょうね。ペン画の描線が細かいし、プロレス技のような動体視力の良さを生かした巨人同士の肉弾戦も立体的で見ごたえがあります。グロい描写がふんだんになるわりには、アキハバラ系の萌え漫画みたいなちゃちなシーンを入れていないあたりも、一般的に読みやすい利点ですよね。20代すぐのデビュー作なのだそうですが、とても新人のつくるストーリーとは思えない。この人の絵、何かに似てると思っていたけど、エゴン・シーレかも。世紀末の退廃的な感じが似てますよね。古い少女漫画みたいな色気がありますし、これは女子ウケもしますわ。

壁の外を目指したとか、父親との確執があったとか、そのあたりはご自身の心中から去来したものなのでしょうか。少年の成長に必要とはいえ、遠慮なく大人がお亡くなりになった漫画でしたよね、初期は。人類と人外の生命体との対戦と見せかけて、実は卑近なテーマが浮かび上がる。人種間の軋轢もあったけど、家族関係の齟齬でもあったのでしょう。

進撃のスクールカーストとやらのおまけ漫画が、なかなかナイス。
作者の言い訳がましくて往生際の悪い感じがよく出ていました。いまの作家さん、エゴサーチうかつにしない方がいいですよね、絶対。私も初購入だからいいけれど、毎月連載を追いかけて考察しながらやきもきしてきたうえで、10年もお付き合いしてきたら、どんな作品でも毒づきたくなります。
といいますか、あれは、エレン達の来世というか、1世紀のちの子孫たちが虚構として眺めてていたよ、という設定なんですかね。われわれが20世紀初頭の世界大戦の映画を観ているような感じで。そういう血塗られた歴史を「物語」として語れる時点で、平和で幸福なんですよ、と。

人類と巨人との攻防を描いたスペクタクル漫画「進撃の巨人」。
その最終章の続きのアニメは、NHK総合で2022年1月放映予定です。地上波では間に合わないので、最後は映画で締めるとも噂されていますがどうなのでしょうね。漫画のストーリーはそれなりに楽しめましたが、先にアニメの闊達な動きを拝んでしまったせいで物足りなさを覚えた面もありますので、テレビ放映を待つこととします。放映前に総集編もあるみたいですし。

コミックスに同封されていたチラシによれば、公式グッズとか関連本とかの販売が目白押し。
リヴァイ兵長、何でお掃除キャラなのか…? キャラ総勢38名のストーリーを追体験できるオンライン展覧会(最終回ネタバレあり)も10月31日まで開催中とのこと。間に合ってよかった! 


ところで、別冊マガジンて、荒川弘先生作画の『アルスラーン戦記』やら、テレビアニメ化(2022年1月放映予定)が決定した大高忍氏の『オリエント』が掲載されているんですね。
後者は神無月の巫女のアニメ監督さんが関わっている和風ファンタジーなので興味津々なのですが、地方局放映ではないようで残念です。ネット配信では観ないので。

(2021/09/09)


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