「先生、ヒアリング能力ゼロなんでしょ?」
「う…!」
ふだんは教えを請われる方に思いっきりすっぱり言われたので、傷ついてしまった師匠。
上衣の小型音声マイクは性能がいいのだろう、悔しまぎれに苦々しい息を呑む大神カズキの呻きを拾っている。
「そっか~、そっか~。ふだんは神社に来る人にお説教垂らしまくって、非常勤勤務の大学の講義でもかたまじめな授業されてる大神先生がね。へぇ~、英語が苦手だったとはねぇ、そりゃ驚きだ~」
「誰にも苦手な分野はある。ノーベル物理学賞受賞者だって、英語ができなくても他の分野が得意ならいいと言ったじゃないか」
「ええ、言いましたとも。でもね、神無月の巫女のDVD-BOXを買う者は、英語耳を鍛えなきゃならんのです!」
「それは、どういうことだい?」
「あれれ、知らなかったんですか?こんどのDVD-BOXには、英語版が特典としてついてくるんです。すごいでしょ!えっへん!」
「なにぃ?!それは、初耳だよ。ということは、ソウマたちのオフレコ絶妙トークも、英語なのかい? 姫宮くんはともかく、来栖川くんは英語は苦手だろう。ソウマも理数は強いが、英語はどうだったかな…」
「それは、安心してくださいよ。あのオーディオコメンタリは省かれちゃったんです。本編の吹き替えだってネイティヴを雇ってるんでしょう」
「なんだ、そうだったのか。こっそり駅前留学していたのかと思ったよ」
「あの単線ホームの無人駅のどこにそんなものが?」
「それも、そうだが…」
せっかく渾身のボケをかましたのに、すげなく流されてしまったので、カズキはしょぼくれた。
ユキヒトのほうが、販促に積極的だ。
「それで、今回のDVD-BOXはね、廉価版って呼ばれてるんですよ。ま、あの旧版の初回限定版についていた窪田ミナ作曲の名曲を収録したサウンドトラックもないけど。旧版の三分の一ぐらいの価格で買えちゃうんですから。サービスぅ、サービスぅ♪」
「そうか。しかし、でぶい・でーというのは、値がはるものだね…この不景気に売れるのかね」
「先生、でぶい・でーじゃなくて、DVDです。ディー・ヴィ・ディ! 売上げいかんは、僕たちの腕にかかってるわけです」
「しかし、いささか残念だね。あの名物裏話が聞けないのは…なんとも、無性に残念でならない」
「というわけで、オーディオコメンタリが楽しみな、よゐこの皆さんは、初回限定版DVDを全巻そろえてね!しかも、開けてびっくり玉手箱!漫画家の介錯先生のかなりアブナいリバーシブルジャケットつきですよー!これはすごいよ、とても恥ずかしくてうかつにリアル友人に自慢できませんよぉッ!(爆)」
にっこり笑って、古いDVD-BOXをカメラの前に示すユキヒト。いつのまに用意していたんだか。
「あ、ついでにドラマCDも、主題歌アルバムも買ってね♪」
「ユキヒトくん、商売がうまいな…」
しかし、セールストークがいささか歪んでいるように聞こしめたのは、さて気のせいか。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」