「…と、そのまえにこちらもご覧になってください。参照例として」
「どれ、どれ」
ユキヒトはおなじ動画サイトにアップされている別の動画ファイルをクリックした。
そこに映しだされたのは、村人ならばその宮殿ともいえる邸への招待状を請わぬものはいない、豪奢な館での、お姫さまのような少女の暮らし。彼女は多くのかがやかしい明かりを浴び、多くの侍女にかしづかれ、そして多くの生徒の羨望と黄色い歓声を耐えず背負っていた。
黄金の縦ロールがきわだつ、見慣れた顔の女性が、彼女の本来の声とはえらくかけ離れた甲高い声で、その驚くべき令嬢の日常をことこまかに実況中継しているではないか。が、しかし。休むところを知らない弾丸トークに、カズキはついていけない。その五分三〇秒の映像は異常に長くたいくつに感じられた。
「今のは…?!」
「姫宮さんに仕えるメイドの如月乙羽さんですよ。僕たちみたいに、CM要員に借り出されちゃったんですね。姫宮さんのイメージアップ戦略といえば、彼女をおいて適任者はいないでしょう」
「たしかにうってつけの人材なのは、わかる。誰よりも深く姫宮くんを知る唯一の人だからね。私だって彼女のことは買っているよ、乙橘学園中等部の後輩なのだから」
「でも、先生、不服そうなお顔ですね。このCMに、なにか至らない点でも?」
「人選を問題にしたいのではなくてな。…如月くんは、なにを言っていたんだね?」
カズキが真剣に困り顔になって問うたので、ユキヒトはさいしょ、ぽかんとしていた。やがて、笑いをかみ殺すような表情をじわりと広げていく。
「あれ、おやぁ~。ああ、先生はそうでしたか。ふぅん、なるほどね~。そうだったのか~。へえぇ~」
きまじめな顔つきの師匠を、にやつき顔のユキヒトがじろじろと眺め渡している。まるで、家畜を値踏みするような視線で。
「な、なんだね?!」
「いやだなぁ、トボケないでくださいよ」
「だから、そのクイズミリオネアのみのもんたみたいに、言葉を溜めて焦らすのはよさんかね。まどろっこしいから」
カズキのいらつきを、ユキヒトは鼻先でフフン、と笑って追い返す。
「先生のために、黙っていたんだけどなぁ。この弟子ゴコロがわかっていただけないだなんて、僕、悲しいですぅ」
「だから、さっさと言いなさい。またしても、むだにこのネタSSが長くなって読者がうんざりしてるじゃないか!ブログに嫌がらせコメントやらエロサイトのTBとやらが、たんまり押し寄せるんだよッ!」
「じゃあ、はっきり申しあげますよ」
【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」